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.国際,ビジネス  投稿日:2015/4/16

【マサイ族から学ぶグローバル・マネジメント】〜己のアイデンティティーを知り、他者の価値観を理解せよ〜


Japan In-depth 編集部(Mika)

「マンモス・ハンター」エマニュエル・マンクラ氏・インタビュー

「グローバリゼーション」と「マサイ族」一見、何の繋がりもないように見えるこの二つの言葉が実は深い意味を持つ。アフリカに住む、先住民の戦士たちの生き方が今の時代における企業トップのリーダーシップと相通じるものがあると言うのだ。

私たちは、訪日したマサイ族のリーダーであるエマニュエル・マンクラ氏にインタビューを行った。マンクラ氏は、人材開発企業IWNCの創業者アンソニー・ウィロビー氏と共に、先住民の戦士達の生き方や価値観を元に「マンモス・ハンター」と名付けられた「テリトリー・マッピング(注1)」というビジネス戦略構築メソッドを開発し、そのトレーニングを日本のビジネスパーソンに行うために来日した。

ケニアのマサイ族の長男として生まれたエマニュエル氏は、部族のリーダーとして、サバイバル術やリーダーシップを幼い頃より学んできたという。マサイ族の男は子供のころ生活の糧となる一匹のヤギを与えられ、命の大切さとその命を育て、守るという責任感を最初に学ぶという。そして青年期を迎えた頃、一人前の戦士となる洗礼を受け、一族のテリトリーを守り、拡大することを学ぶ。時には他部族と戦い、テリトリーを奪いあうのだ。

彼らは、部族の価値観を守り、一族が直面する様々な危機を乗り越え、それら変化を進化のチャンスと捉えながらリーダーシップに磨きをかけてきたという。

しかし、やがて従来の価値観や手段だけでは危機を凌ぐのが難しくなってきた。西洋の文化や教育の影響を極力避けてきた彼らだが、ケニアの統一と今後のコミュニティーの進化のためには、変化が不可欠であると認識せざるを得なくなったという。

エマニュエル氏はこれを、“Breaking the Taboo”(タブーを破る)と呼び、マサイの人々は新たな生き方、新たな道、“New Territory”(新たなテリトリー)に邁進し、社会に変化を取り入れるようになったと述べた。例えば、子供達を学校に通わせる、女性を所有物としない、女性も教育を受ける、ライオンを殺してはいけない、テリトリー争いのために他族と戦うことを禁じる、などということだ。

時代と共に世の中が変化していく中、マサイ族の若きリーダー達は、「(環境の)変化に(我々が)変えられる前に我々が変わる必要がある」(”We need to change, before change changes us”)と考え、「タブーを破り、変化を怖がらずに新たなテリトリーに突き進む勇気が必要であると気づかされた」とエマニュエル氏は述べた。

「従来『テリトリー』とは土地や領土を示していたが、今は『価値のテリトリー』(territory of values)が重要となってきた。それは人間としての価値を理解すること、生き方のガイドラインを探すということだ。」

「幸いにもマサイ族の人々の根本には強い結束力とこれらの価値観、『リスペクト』、『責任感』、『勇気』、『知恵』がコミュニティーに存在するから、(ガイドライン作りは)さほど難しいことではない」とエマニュエル氏は語った。

また、「社会のリアリティーを受け入れ、それに適応するために新たな知識を取り込んでいくことが必要だ」と語り、テリトリーとは日常生活やビジネス世界の中に置ける様々な場面に存在するものだと述べた。

実際に「マンモス・ハンター」を研修に取り入れた戦略コミュニケーションコンサルティング会社フライシュマン・ヒラード・ジャパンの田中慎一社長は、「本質的な価値観を理解した上で現状に順応することこそがグローバルビジネスのリーダー達や企業に不可欠だ」と述べた。これに対し、エマニュエル氏は、「重要なのは、価値を明確化した後、いかにそれを育み、進化させ、持続させていくかだ」と応じた。

最後に、エマニュエル氏は「知識と知恵は違う」と強調した。時代の流れと共に変貌を繰り返してきた文明社会は変化を受け入れる勇気と知識は必要だが、古き良き価値観、それぞれの国や文化の知恵を忘れてならないということだろう。さらにエマニュエル氏はこう語った、「自身のアイデンティティーを知らずにして、他の価値観を理解することは不可能だ」と。

アフリカの大地に暮らす人々から学ぶ人間としての本質的かつシンプルな生き方。それは我々一人ひとりや組織が忘れかけていることを見つめ直す機会になる。人間の本質をベースに作られた「マンモス・ハンター」は、国境、文化、語学、ヒエラルキーの壁を越えたメソッドであるため、グローバルなビジネス・シーンにおいて経営戦略を見つめ直し、再構築していく上で極めて有用であると感じた。

(注1)「テリトリー・マッピング」

アフリカで育ち、西洋の教育を受けたアンソニー・ウィロビー氏が東アフリカやパプアニューギニアの部族のリーダー達に教わった話にインスパイアされ、リーダーシップ開発の為に考案されたビジュアル・メソッド。絵や図を用いるマッピング(地図化)により、人として、組織として目指すべきビジョンや課題を視覚化する。ビジネスにおける戦略構築に活用できる。


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