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.政治  投稿日:2025/7/29

参議院選挙で問われない日本の問題③ 利益団体~参政党躍進の秘密


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・参院選の結果は、石破首相が自民党を変える期待に応えられなかったことに尽きる。

・参政党の強さは「草の根の強さ」。

・企業・団体献金は健全な資本主義経済、ビジネス環境をゆがめてしまう。

 

参議院議員選挙の結果は自民党の大敗。自民党を変えることを期待された石破首相がその期待に応えられなかったことに尽きる。参政党のような草の根民主主義政党が出てきて、外国人問題のような国民が敏感に感じる問題を争点化し、野党は政権の敵失をもとに勢力を拡大していった。それにしても、裏金問題に対する甘い姿勢、企業団体献金を廃止しない、そうした行動が「古い」とみなされ、しかも、改革派の石破さんがそれを実行できなかったという意味で、必然の結果だったと言えよう。

■参政党がなぜ伸びたのか~利益団体はない

740万票もの票を得た参政党。その強さは草の根の強さである。「政治がおかしい」と思っている個人の集合体とその問題意識の強さがつなぐ連帯である。たしかに知的レベルはバラバラで、オカルト・陰謀論を信じる人から、知的な人まで多様である(失礼な話だが話した印象)。

民主主義において、「お任せ民主主義」と言われていたように、日本では参加・参画の機会が限りなく小さい。地方自治体のまちづくり会議やタウンミーティングにはなかなか参加しづらいし、政党系のイベントは余計にそうだ。参加の機会が実はあまり日本社会にはない。そうした中、「このままではだめだ」と思ったアクティブな高齢者のニーズを掬える機会、場を提供したのが参政党である。政策が稚拙かもしれないが、長い目で見てあげるべきだろう。

筆者は神谷さんが立ち上げた龍馬プロジェクト、意識改革を進めるネット番組CGS、政党DIYの時から見てきているが、自分たちで行動する、そんな個人の力を信じた人たちを神谷さんは集めてきたというのは本当に凄い。今になると党員なんと85000人。自民党をはじめ、他党の党員・サポーター会員は、お願いされてはいっている人が相対的に多い。しかし、参政党は違うのだ。自分たちでお金を支払って党員になる。ここに他の党との違いが明らかであろう。既成政党は党員との一体感や協力関係の面で負けている。

参政党初期メンバーの1人でもあり、筆者とともに事業創造大学院大学国際公共政策研究所を一緒に立ち上げた渡瀬裕哉さんは、「政党として当たり前のことは政党の党員を集めること」「実は日本ではほとんど全ての政党は真面目に党員を集めたことがない。党員は政党を構成する本体となる人々であり、本来は党員がいなければ政党など存在していないはずだ。」(集英社オンライン)と言う。ある意味、民主主義を体現したのだ。

個人の党員がいるということは、逆にいうと強力な利益団体を持たないでよいということである。これは神谷さんも強く強調している。企業団体献金をもらって活動をして、その代わりに利益団体の代弁者、どころかスポンサーの意向に従順な政治家にならなくなるのだ。

自民党~利益団体によってがんじがらめ

他方、自民党は企業・団体献金の廃止ができなかった。そもそも企業団体献金は、お金の力でアクセス権を買う行為でもあり、公平性にも欠けるし、民主主義、資本主義経済という社会の仕組みをゆがめる。国の予算の中には、各企業向けの助成金・補助金、租税特別措置、大型建設事業などの公共事業など様々な予算がある。政治とのコネクションがビジネス上で有利に働く面も多いのだ。売り込みに参加したいと思っても、コネクションがない会社や団体は、相手にすらされない。企業・団体献金をしている企業が優遇される構造がそこにはある。

こうした政治とビジネスの強い関係性は資本主義経済の基本である競争環境もゆがめるし、健全な競争を必要とする資本主義経済、ビジネス環境がゆがんでしまう。政治献金をした企業・団体が過度に保護され、規制に守られ、公共事業も受けられ、助成金も得られまくるなど優遇される。

今回のコメ騒動をみていても、小泉農相が出てくるまでは、農政や利益団体の言うことを聞いているうちに、政策のハンドリングが聞かなくて対処療法しか手を打てなかった。特に自民党は、様々な団体から組織内候補を出している(毎日新聞記事)。

・郵便局長会

・全国建設業協会

・日本医師会

・JAグループ

・日本歯科医師連盟

・日本看護連盟

・全国土地改良事業団体連合会

・日本薬剤師連盟

・全国商工会連合会

・日本理学療法士連盟

・全国介護事業者連盟

・(パチンコ・パチスロホールの全国統括組織である)全日遊連

献金どころか、組織との関係構築までしているわけだ。これで団体への配慮をせざるを得なくなる。当然、業界からの反発をうける改革的な政策や法改正を実行しにくい。こうなると改革的な動き、業界秩序をイノベーションすることなど無理なことがわかる。

■企業・団体献金廃止をしないと次のステージにはいけない

企業・団体の方々や政治家さんが悪いのではない。政治のルールやシステムが悪いのだ。企業経営者や団体代表の方の中には、立派な方もたくさんいる。真の意味で「寄付だ」「何も期待しない」という行動をとられる方もいる。しかし、何かしらの無形・有形の見返りを求めてしまうのが人間というもの。政治家さんもスポンサー企業・団体のいうことを聞かざるを得なくなることも多かった。国民のための政治をやりたいのに選挙の時に応援してくれる人たちのために配慮するのは理想を求める政治家にとっても面白くはないはず。企業・団体献金が日本の固定化された政治や経済政策に与えた過剰な影響力を考えると、そろそろ見直すべきだ。

トップ写真:参政党党首、神谷宗幣氏(2025年7月2日日本記者クラブにて)出典:Tomohiro Ohsumi/Getty Images




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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