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.政治  投稿日:2024/10/23

企業団体献金~総選挙で「消えた争点」①


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・企業団体献金は政治の透明性や公平性を損ない、日本経済の構造改革を阻害する要因となっている。

・自民党は企業団体献金の必要性を国民に説明する責任があり、他党も献金の透明化を推進すべきだ。

・企業団体献金を廃止することで、政治家は本来の職務に集中できるメリットがある。

 

「社会の問題の処方箋がある」と発言したのは、れいわ新選組の山本太郎さん。しかし、政治にそこまでの力はない。たしかに法律を変えることで社会を少しは変えることはできるだろう。ただし、法律はあくまでルールに過ぎない。国民の生活を見ている行政が社会問題に対してはそれなりに対処する。政治はある意味、国民からの意見や請願・陳情を受け、行政に問いただすことはできるくらい。企業や労組、市民団体などの「利益団体」が政党・政治家に働きかけ、ルールを変えたり、予算を獲得しようとしたり、自分たちに都合のよいものにするために、リソースと知的闘争をする「場」なのだ。総選挙が控えている中、こうした元も子もない「真実」を述べてしまったのは、権力者やその候補者たち、そしてメディアに対してとても失望しているからだ。総裁選で大事な争点が問われないという問題を「社会の医者」として提示していこう。今回の総選挙「消えた争点」の1つ目は、企業団体献金だ。

□企業団体献金の真実

企業団体献金について、自民党以外は廃止を主張している。一方、自民党は企業団体献金が「なぜ必要か?」を説得的に国民に説明したことはない。なぜ必要なのか?を聞いたことがあるだろうか?

その理由は、業界や企業の意見を聞き、企業団体からの献金をもらって、それをもとに政治活動・行動をするというのが自民党のビジネスモデルであるからだ。そこは絶対に譲れないラインなのだろう。企業団体献金は、企業や団体側から見ると、コネクションや関係性構築、行政の規制回避、補助金取得といった目的での行為である。省庁に電話してもらったり、役人につないでもらったり、紹介活動は「口利き」に限りないほど近いし、グレーな領域だ。しかし、何かあった時の保険、お付き合い、応援したい気持ちを表す行為といった位置づけのものもなかにはあるからややこしい。政治のプロセスに影響を及ぼそうとするのは、何かしらの見返りやメリットがあるからである。そして、お金や動員できるスタッフ数などリソースの多寡によって影響力が左右されてしまう。リソースが多い団体の言うことはそれなりに尊重され、聞いてもらえるわけだ。それが莫大だと率先して政治家は行動してくれるし、その団体の「代理人」といえるほど活動する政治家も結構いる。「族議員」というのはそんな人たちの一部であった。

□企業団体献金は経済をゆがめる

筆者は、企業団体献金の問題を倫理的な切り口でも、公平性の切り口でも、政治的な切り口でもない、新たな視点で論点として提案したい。企業団体献金の論点は、日本経済に悪影響であるということだ。

第一に、既存の業界地図を固定化する。この失われた30年の経済不振、既得権益を固定化させ産業構造改革が進まなかった点など、経済不振の元凶の1つであるといえる。政策を考えたりするよりも、献金してくれる企業や団体、支持層ばかりをみて活動してしまう政治家はいるのだろうか。どうみても、献金を出せる業界、その時の主要企業が献金をする額が多くなる。結果、おいしい状況を温存することにつながり、その業界の構造改革などは行われることもない。健全な市場競争は歪み、産業構造改革が防がれる。イノベーションを阻むため、「失われた30年」の主要因の1つでもある。

第二に、公平性。国の予算の中には、各企業向けの助成金・補助金、租税特別措置、公共事業など様々ある。政治とのコネクションは有利に働く。外交においても、優良案件だと思われれば政治家が売り込みをしてくれる。コネクションがないところは、相手にもされない。政治献金を払っておけば、何かしら話は聞いてもらえるのだ。

第三に、金額の大きさ。2021年分の企業・団体献金は24億3千万円と言われている。2千万円のところも27社ほどある。多いところで当期純利益の0.7%程度でしか過ぎないが、社内で「予算が足りない」として新規事業やイノベーション事業を提案し、却下された社員のチャンスを減らしている。企業は、さらなる税金を払わされているようなもの。アメリカのように株主に対して「政治献金の妥当性」を説明することはない。

□社会を変える一歩

企業団体献金を廃止すれば、まっとうな自民党議員の側にもメリットがある。献金関係の対応のコスト(費用、時間)が削減できる。自民党議員だって、政治献金をする方々の歓心を買うために政治家になったわけではないはずだ。政治活動という名のあいさつ回りや選挙のための準備活動や「そりゃ無理筋だろ」と思えるようなロビーイングに時間を取られ、本当は「メンドクサイ」「やりたくない」行動に時間を割かれていたはず。もっと政治家らしい仕事に集中したいはずなのだ。

企業団体献金の廃止、公共事業に関連する個人献金も制約すべきというのが筆者の考え方である。政治の公平な競争をどうやって確保すべきか、企業団体献金が社会をゆがめる可能性を一度真剣に考えるべきだろう。今回、自民党は企業団体献金が「なぜ必要か?」を説得的に国民に説明するべきだし、他党も主権者や支援団体との関係、特にその透明化に向けた提案を期待したい。

トップ写真:衆議院本会議に出席する自民党の石破茂総裁(2024年10月1日)出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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