抗日戦争80周年軍事パレードから見る米中対比と外交安保の課題

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2025#34
2025年9月1-7日
【まとめ】
・北京の軍事パレードは「完璧」と評され、国威高揚と対外宣伝の場に
・習近平は「自由貿易」、「多極化」などを掲げ、グローバルサウスへ攻勢
・中露朝首脳の揃い踏みは、西側への対抗と歴史の書き換えを象徴
今週は2日と3日に大きなニュースが二つあったので、今原稿を執筆している。一つは、参議院選挙を総括する自民党の両院議員総会で、もう一つが北京の天安門広場で行われた「抗日戦争勝利」80周年記念軍事パレードだ。どちらも、予想通りというか、全く「血沸き肉躍る」内容ではなかった。まあ、こんなもんなのかなぁ。
自民党の総裁選といえば、一昔前なら、全くの部外者でも、結構興奮したものだ。
しかも今回は、史上初めてだそうだが、総裁選が前倒しになるか否かが問われている。政治部の記者なら「書き入れ時」のはずだ。ところが、なぜか「白けて」いないか。この閉塞感は従来の自民党総裁選前とは雰囲気が全く異なるのだが・・・。
筆者の関心は自民党の将来などではない。近未来の日本に、常識的で政策立案・実施能力を持つ健全な保守勢力が存在し得るか否か、である。このまま何も決まらないのか。それじゃ、「コップの中の嵐」の後は何事もなかったかのように「一致団結」し「政権交代」を印象付ける、1955年以来の「魔法」が解けてしまうのではないか。
さて、軍事パレードと聞くと、どうしても今年6月15日、大統領の誕生日にワシントンで行われた「米陸軍創設250周年」記念の軍事パレードを思い出す。当時のビデオを見直してみたが、「締まりがない」というか、「キビキビ」しない米陸軍の騎馬兵、兵士、装甲車、ロボット戦士などの行進を「大丈夫かいな」と思った向きも多いだろう。
これに比べれば、北京での軍事パレードは「完璧」に近かった。何百人もの兵士の「一糸乱れぬ」行進振りは相変わらず。如何にも「強そう」に見えるから不思議だ。更に、それを見守る貴賓席では中国、ロシア、北朝鮮の3人の独裁者が「揃い踏み」。軍事パレードを見ながらご満悦のトランプ氏の「だらけた」雰囲気とは大違いだ。
数年前まではこんな光景など想像すらしなかった。「シュール(surreal): 超現実的」とは正にこのことか。しかも、この三人の独裁者には共通点が少なくない。思い付くだけでも、西側が批判する独裁者同士の「国際的連携」、苦境にある自国の「国威高揚」、第二次大戦中ファシズムと戦った主役という「歴史の書き換え」が見えてくる。
特に、今回の主役は主催国の中国だ。上記の「国威高揚」などだけでなく、「自由貿易体制の旗手」、「第二次大戦後の世界秩序の守護者」に加え、「平等な主権国家」「国際的な法の支配」「多極化」を含む「グローバル・ガバナンスのイニシャティブ」などを掲げて、いわゆる「グローバルサウス」に対するプロパガンダ攻勢を強めている。
しかし、こうした努力を習近平国家主席の努力の賜物と見ることはできない。それを言うなら、今回の一連のプロパガンダは、むしろトランプの「オウンゴール」ではないのか、とすら思う。特に、最近米国とインドの関係が険悪化していることは憂慮すべきだ。インド首相が軍事パレードに参加しなかったことだけは救いだったが・・・。
この点については今週のJapanTimesに寄稿するつもりである。
さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の
関心イベントは次の通りだ。
9月1日 ガイアナで総選挙
上海協力機構首脳会議(二日目、天津)
欧州理事会委員長、ルーマニア・リトアニア訪問
9月2日 ブラジルで前大統領の裁判始まる
米国務長官、メキシコとエクアドル訪問(4日まで)
9月3日 ジャマイカで総選挙
中国、軍事パレード
9月5日 日豪2+2会合(東京)
さて、最後はガザ・中東情勢だが、ガザでの停戦交渉は動かず、イスラエルはガザ掃討作戦を最後まで続けるつもりのようだ。先週は、8月27日にホワイトハウスで人道支援や「戦後計画」に関する会議があると書いたが、どうやらその内容は例の「中東リビエラ」構想らしい。ワシントンポストの報道によれば、ガザ地区で戦争終結後の10年間でリゾート開発やハイテク産業の拠点として再開発する計画がトランプ政権で検討されているらしい。またその10年間、ガザは米国が管理し、再開発の間、200万人以上の住民に「自発的」な移住を求め、1人あたり5000ドルを支給するという。「馬鹿にすんな」と言われそうな、こんな無茶苦茶な話が動くとは思えないが、トランプ氏は最後まで「不動産屋」なんだなと、絶句した。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
写真)2025年9月3日に北京の天安門広場で開催された「中国人民抗日戦争と世界ファシズム戦争勝利80周年記念大会」軍事パレードの様子
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。

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