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.国際  投稿日:2025/9/18

西海岸で感じた違和感。カーク氏事件とトランプ政権の「半旗」


宮家邦彦 (立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

            宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2025#36

 

【まとめ】

 

・カーク氏銃撃事件後の「半旗」の扱いは、トランプ政権による政治的差別の表れだと感じた。

・トランプ氏が容疑者を「左派」と非難したことで、米国政治の深刻な分断が改めて浮き彫りになった。

・この事件は、リベラルなサンフランシスコにいる筆者にとって、米国若者の意識が大きく保守に変化していることを強く印象付けた。



先週末からプライベートで米西海岸サンフランシスコに行ってきた。10日に米国の若手保守系活動家・チャーリー・カーク氏がユタ州の大学で開かれたイベントで銃撃され死亡した直後だったこともあり、米国メディアはこの事件を大きく取り上げていた。だが、現地で多くの米国旗が「半旗」だったことに筆者は若干違和感を覚えた。勿論、政治テロの犠牲者を追悼するためという理由は分かる。連邦政府系建物は全て「半旗」だったので、恐らくホワイトハウスからの指示に違いない。おっと、それでは6月14日にミネソタ州議会議員2人と配偶者が銃撃され2人が死亡した事件が起きた時も「半旗」だったかな。いやいや、確かそうではなかったと記憶する。その点を問われたトランプ氏は「ミネソタ州知事から要請がなかったから」と述べたそうだ。だが、今回大統領はユタ州知事からの要請を待つまでもなく、「半旗」とするよう自ら指示したそうだ。要するに「右派による対左派政治テロ」は「左派による対右派政治テロ」とは扱いが異なる、ということ。でも、これって差別ではないのかね。

 

案の定、トランプ氏は15日、容疑者はインターネットを通じて過激化したとして、「彼は左派だ。左派には多くの問題がある。左派は保護されているが、保護されるべきではない」と述べたそうだ。更に、大統領次席補佐官も、「暴力を助長する左翼組織に対抗する組織的戦略が必要だ」と述べている。うーん、「どっちもどっち」だろう・・・。

 

この事件についてはCIGS辰巳主任研究員のデュポン・サークル便り(9月12日)が詳しく書いているので、ご一読をお勧めする。なお、本件は日本でも予想以上に大きく報じられた。「暴力による言論封じ」に関するコメントが殆どだったようだが、筆者が懸念するのは31歳のカーク氏が象徴する米国若者の意識の変化の方である。この話を民主党の牙城でリベラル系が多い西海岸で聞くと、隔世の感がある。現地で再会した旧友たちの表情はいずれも暗かった。以前も書いたと思うが、サンフラ

ンシスコといえば1960〜70年代の「ヒッピー」運動の発祥地であり、今もHaight-Ashbury地区などには当時のリベラルな雰囲気が残っているからだろう。当時の若者文化を知る筆者は、あれから半世紀、今の米国の若者の気質や信条が大きく変化したことに複雑な思いを禁じ得ない。但し、亡くなったカーク氏の名誉のために一言。彼は他の極右活動家とは異なり、反対意見を持つ人々にも発言の機会を与えるなど、フェアな人物だったようだ。意見は異なるが、ご冥福をお祈りしたい。

 

 それにしても東京は暑いというより、酷暑である。サンフランシスコでは初日に17度近くまで温度が下がり、寒くて往生した。しかも、日本のテレビでは相変わらず自民党の総裁選関連ニュースばかりやっている。日本政治は「周回遅れ」なのか、それとも、世界の潮流とは別次元の「超越」した現象なのか。大いに気になるところだ。

 

 さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

 

9月16日 火曜日 ポーランド大統領、独訪問

フィンランド大統領、ラトビア訪問(2日間)

マラウィ、総選挙

9月18日 イスラエル首相、安全保障内閣を主宰

 カナダ首相、メキシコ訪問(2日間)

 独首相、スペイン訪問

 バハレーン皇太子、訪日(4日間)

9月21日 日曜日 ギニア、憲法改正国民投票

9月22日 月曜日 国連で中東和平「二国家論」に関する会合

 

 さて、最後はガザ・中東情勢だが、ガザでの停戦交渉は、予想通り、進展がなく、イスラエルは遂にガザ市での大規模な掃討作戦を開始した。国連の調査委員会は「ジェノサイド」だと認定したが、これでイスラエルが態度を変えるとは思えない。米国務長官は地上作戦を支持しつつ早期終結を要請したというが、ネタニヤフは米国の足元を見ているのだろう。先週述べた通り、仮に今戦闘合意ができても、イスラエル軍はガザから撤退しない。ハマースの「政治組織」をも解体すべく、いずれ徹底的な軍事作戦を再開するだろう。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

写真:ユタ・ヴァレー大学に現れたチャーリー・カーク氏

 

出典:Trent Nelson/The Salt Lake Tribune/Getty Images

 




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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