総選挙、だれが笑って、誰が泣いたか 損得番付:得るは失うのもと、失うは得るのもと
樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)
【まとめ】
・総選挙は連立与党の惨敗。石破首相は退陣するのが筋だが、国民民主などとの部分連合で居座るつもりらしい。
・今回の選挙最大の勝者、「得」の東正横綱は国民民主党の玉木雄一郎代表。
・「損」の主役はもちろん、石破茂総理・総裁。
総選挙は連立与党の惨敗に終わった。「新政権の信任を問う」と衆院の解解散理由を説明した石破首相は退陣するのが筋だが、国民民主などとの部分連合で居座るつもりらしい。
選挙中の常として、各党間、候補者間の激烈なかけひき、つばぜり合いが演じられた。
笑ったのは、そした涙を飲んだのはだれか。筆者の独断と偏見による「損得番付」でみる。
■ 玉木氏、台風の目に躍り出る
今回の選挙最大の勝者、「得」の東正横綱は文句なく国民民主党の玉木雄一郎代表だろう。選挙前から一挙に4倍増の28議席に大躍進、文字通りの大勝利だった。玉木氏自身は連立入りに消極的だが、自民党との部分連合となれば、今後の重要政策遂行でキャスチングボードをにぎり、玉木はキーパーソンとなる。トップに立ちたいとか、大臣になりたいだけといった一部にある不評を払拭し、国家・国民のため粉骨していることを示すときだろう。
■「昔の名前」返り咲き、50議席上積み
元首相、立憲民主党代表の野田佳彦は、2012年の総選挙で政権を明け渡し、多くの同僚議員を落選させた。当初は「〝昔の名前で出ています〟では・・」と殊勝なことを口にしていたが、前言を翻して代表に返り咲き、立憲民主党の議席を48と一気に50議席伸長させた。
選挙中の論戦での迫力はなかなかだった。時に石破首相らをたじたじとさせたが、自民党の腐敗追及が中心で、政策がかすんでしまった。首相返り咲きを果たしたい一心などの陰口も聞かれる。
■ 山本率いる「れいわ新選組」も3倍増
山本太郎の「れいわ新選組」も3倍増の9議席。選挙のたびに議席を伸ばしてきた。経済中心の政策が有権者の共感を呼んだが、党首として、こわもてのイメージを払しょく、ソフトな印象を与えるのも課題のひとつだろう。玉石混交、ときに問題行動を起こす所属議員をどうまとめるか。
■ 林は「次」に望みつなぎ、岡本は公明のエースに
林、岡本はそれぞれ「次」への展望が開けた。
自民党の林芳正は、総裁選に敗れた後、安定感を買われて官房長官に留任した。今回の惨敗直後、石破首相の退陣がささやかれた際、豊富な経験から即戦力として後継候補に擬せられた。実現性はともかく、有力候補の立場を維持し続けるだろう。
公明党の岡本三成は今回、小選挙区から出馬した。選挙区が変わったこともあって、苦しい戦いと伝えられたが、開票が始まると早い時刻に当確、完勝した。党の政調会長に就任したばかりだが、石井啓一代表の落選に伴って後継候補の一人として名が挙がり、党の将来を担う人材として躍り出た。
■ 世耕、実質追放跳ね返す大勝利
自民党元安倍派の世耕弘茂、西村康稔、萩生田光一は政治資金パ―ティ-にからむ裏金問題に関与、党から処分を受けた。
とくに世耕は、最も重い離党勧告の処分を受け、無所属での厳しい戦いを強いられた。もともと参院からの鞍替えを狙っていたこともあって、ピンチをチャンスに変え、二階俊博元自民党幹事長の3男を破って国政復帰を果たした。国会代表質問で岸田前首相に野党張りのはげしい言葉を連ねた強引さが今回は功を奏した。
荻生田、西村は安倍政権で党、政府の重要ポストを占め、飛鳥を落とす勢いだったが、裏金事件で暗転した。政治倫理審査会での説明など誠意を尽くしたとはいいがたく、本来なら世耕同様の処分を受けて当然だった。公認を得られず苦しい戦いを強いられたにもかかわらず、さすがに支持層が厚く劣勢を跳ね返した。
■ 日本保守党の河村前名古屋市長も古巣に
日本保守党の河村たかしは名古屋市長を4期15年務めて転身した。議員時代は各党を渡り歩き、物議を醸す言動も少なくなかった。〝新規参入〟の日本保守党でどの程度活躍できるか。同党は3議席を獲得した。
■ 平沢、老獪さ見せる
自民党の平沢勝栄も裏金関与で処分された。総裁選では石破を支援、その祝勝会で握手を交わすなど親密なところを見せたが、公示直前に非公認とされた。一時は悲憤慷慨だったが、気を取り直して堂々と10回目の当選を果たしたし、老獪さをみせつけた。
■ 就任早々の惨敗で前途と厳しく
「損」の主役はもちろん、石破茂総理・総裁だ。
9月の自民党総裁選では、国民の人気投票でトップ。挑戦5度目で悲願を達成したが首相就任後は、日米地位協定改定などで持論を後退させ、衆院の早期解散を否定しながら首相に就任したらさっさと強行。非公認議員が代表を務める党支部への2000万円支給が発覚するに及んで、国民はすっかり興ざめした。今後の政権運営はいばらの道だが、二枚腰には定評があり、低空飛行で乗り切る可能性もある。首相就任時の世論調査で支持率20数%という結果も見られ、民意の移り気は怖い。
■ 勢い失った維新、馬場に厳しい声
野党で大きく後退したのが馬場伸幸率いる日本維新の会だ。所属議員の不祥事続出、政治資金規正法改正案に賛成したり反対したりと節操のなさもあって、敗北は予想されていた。ともに戦った仲間だけでなく、党の創設者、橋下元大阪府知事・市長から退陣要求を突き付けられ窮地に追い込まれた。すべて人望がないためとの見方もある
■ 新鮮さ出せなかった石井
公明党の石井啓一は9月に就任したばかりで落選の憂き目を見た。
15年間にわたってトップを務めた山口那津男の後任。国交相として入 閣、党幹事長として山口体制を支えてきた。それだけに、「党の顔」として新鮮さにかけた。
投開票日のテレビ番組で、不振の原因について、裏金問題など自民党のスキャンダルを批判したが、なじるべきは長期にわたって君臨した前任者だろう。
■ 惨敗の〝戦犯〟、森山
自民党幹事長の森山裕は、政治経験の豊富さ、野党との幅広い人脈などを買われて石破政権で幹事長に就任した。慎重な石破に早期解散を決断させたのも、2000万円供与を決めたのも森山といわれる。惨敗の〝戦犯〟と批判する声もある。腹を切るのが当然だろう。
■ 自民の闇を暴いた共産は議席減、田村は自賛
闇に葬られるかもしれなかった自民党の裏金問題、2000万円問題を報じたのは共産党の機関紙「しんぶん赤旗」だった。委員長の田村智子も、選挙期間中、その実績を前面に押し出し戦ったが、ふたを開けてみると2議席減。当選直後「自民を追い詰めることに貢献した」と自賛したが不本意、残念な結果だろう。
■ 〝泥船〟から逃げ出した?進次郎
自民党のプリンス、小泉進次郎は、総裁選前、石破と国民の人気を2分したが、まずい発言などが響き、たちまち失速した。石破政権で党選挙対策委員長に就き、選挙の指揮を執ったが、惨敗が明らかになるとさっさと辞任した。
「すべて選対委員長の責任」という理由だが、最終的な責任は幹事長であり、総裁にある。若いうちから大物ぶったり、泥船から逃げ出すような要領のよさを身につけないほうがいいという厳しい評価もある
■ 高市、応援議員は振るわず
元経済安保担当相の高市早苗は、総裁選決選投票で石破に惜敗したが、選挙中多くの候補の応援に全国を駆け回った。支援候補の当選率は6割にととまったといい、予想されたほどには届かなかった。保守色の強さなど高市アレルギーは少なくないとの見方もある。初の女性宰相への道のりは、なお簡単ではないが、年齢も63歳とまだまた若く、いずれチャンスは巡ってくるだろう。
■ 2度続けて小選挙区で敗れた甘利
甘利明は岸田前政権発足とともに、自民党幹事長に就いた。直後の前回総選挙では小選挙区で落選、比例復活でかろうじて議席にとどまった経緯から辞任した。今回は小選挙区で再び敗れ、比例重複もなかったことから涙を飲んだ。再起を期しても現在75歳という年齢から陽の当たる道にもどることができるか、微妙だ。
■ 牧原、旧統一教会問題が響く
衆参問わず、過去の国政選挙では閣僚の落選は決して少なくない。今回は牧原秀樹法相、小里泰弘農相だ。牧原は選挙直前に旧統一教会との関係が響いたことは否定できないだろう。
(敬称略)
トップ写真:衆院選翌日、自由民主党石破茂総裁の記者会見(東京・千代田区自民党)出典:Kim Kyung-Hoon – Pool/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長
昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。