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.政治  投稿日:2025/9/18

石破政権の政治的意味~お疲れ様石破茂②


 西村健 (NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・岸田政権から続いた路線変更が、保守層離反を招き、参政党などの台頭を許した。

・清和会主導の流れを終わらせるも、党内基盤が弱く強力なリーダーシップは発揮できなかった。

・短命政権は、利害関係が絡む日本政治の硬直化と、強いリーダーの必要性を浮き彫りにした。

 

石破さんが辞任した。総裁選に何度も挑戦し、やっとのことで自民党総裁になったのにも関わらず、衆議院議員選挙、東京都議選、参議院選挙と連続して敗北。1年しか総理として活動できなかった。総理としてリーダーシップを振るえなく終わってしまい、本人も残念だろう。前回、その社会的・歴史的意義は示したが、今回は、政治における意味を詳細に見ていこう。

 

森政権から始まる、小泉、安倍、福田、安倍という清和政策研究会(清和会、いわゆる旧安倍派)の流れを汲んだ政権が岸田政権で終わり、「新自由主義的」な政策スタンスに一定の終止符が打たれた。大きく言うと、岸田さん(宏池会)が政権に就くことで、外交はハト派・中道リベラルの政策スタンスの政権となった。岸田さんの路線を石破さんが引き継いでいた、自民党の主流派の路線変更、ある意味、党内政権交代といってもよい。この政策路線変更に伴い、保守層が離反し、参政党や日本保守党がそのスペースを占有してしまった。

 

石破政権の政治的意味は、株高・企業業績好調の大企業優先の経済政策、賃金があがらず格差拡大を生んだ「新自由主義的」路線からの路線変更にあったといえる。

 

◆自民党の現状、路線変更

 

自民党の選挙区、比例区での得票数は年々減退基調である。基本的に、自民党だけだと得票数の3割くらいという認識を持っていけばよいだろう。

 

【出典】総務省データより筆者作成

 

岸田さんの時代から、自民党は中道・リベラルにシフトした路線にシフトした。伝統保守が離反し、参政党、日本保守党に流れたともいわれている。前回の参議院議員選挙では、自民党は前回(令和7年)の参議院議員選挙における比例で1280万票。それに対して、参政党は比例で742万票、選挙区で926万票、日本保守党は比例で298万票を獲得。この2つの党の比例で合計1000万票を超える。

 

【出典】筆者作成

 

参政党に絞って比例だけでみても、前回の衆議院議員選挙で自民党の12%、参議院議員選挙ではなんと57%と大きく伸長している。参政党は、今回、無党派層からの流入もあり、大きく伸長したとはいえ、改めてみると、かなりの数字が自民党から流出しているのだろう。

 

前々回(令和4年)の参議院議員選挙における比例で自民党は1825万票だったので、前回(令和7年)1280万票。逆に、参政党は前々回(令和4年)180万票から前回(令和7年)742万票。投票率や内訳動向を分析したわけではないが、かなり単純化して言えば、自民党は600万弱程度を失って、参政党はその分を増やしたということになる。

 

◆自民党の支持層とは?

 

財界、農協、日本医師会(医療)、建設業界団体(全国建設業協会など)、自動車業界(トヨタなど)、農業団体(JAなど)、神道系宗教団体(神社本庁など)、選挙時に「組織票」を提供し、資金・人材面でも支援を行うことで、自民党の選挙戦を強力に支えている。

特に、社会階級で言うと、企業の経営者・役員など「資本家階級」、専門職・管理職・正規雇用の事務職からなる「新中間階級」、自営業者などの「旧中間階級」が自民党を支持している。つまり、富める者の代表たちである。また、地方議員・町内会など地域に根差した有力者との関係も深い。ただし、年齢で見ても高齢者が中心。利害関係のない人たちは多くは自民党を選ばない。

 

◆自民党の未来と石破さんの意味

 

自民党の未来はどうなるのだろうか。

 

・高齢化して支援者が減る?

・保守勢力は「岩盤」ではなくなる、より離反が拡大する?

・見返りがあるから支援してきた人たちの動向も変化する?

 

国や自治体の予算は、業界団体や利益団体の影響力でがちがちで固定化されているのが日本の現状だ。優先順位をつけて、ある業界や団体などに我慢を強いたり、今までの恩恵を失ってくれと言うことは難しい。影響を受ける人たちに配慮すれば何もできなくなるのが日本政治の現状だ。世論を背景に、利害関係者を説得し納得してもらえる強いリーダー、強力なリーダーシップが必要である。石破さんは、自民党内部の基盤が弱くそれができなかった。そのリーダーシップを発揮することができなかったが、石破さんが自民党内の政策路線変更を象徴した政治的な意味はあったとはいえる。

 

写真)令和7年防災功労者内閣総理大臣表彰式に出席する石破首相 2025年9月17日 首相官邸

出典)首相官邸




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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