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.政治  投稿日:2024/9/24

【自民党総裁選挙】5 上川陽子氏「政策分析」と「人事評価」


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・政策の特徴は、「キシダノミクス」の継承者たる中道の経済政策が並ぶこと。

・審議会、有識者会議などの位置づけを見直し、政府の責任を明確化を謳う。

・課題は、メディア発信が少なく、上川氏の良さが伝わらないこと

 

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上川陽子さんがついに出馬した。「いかなる難問からも逃げず、課題解決に当たる覚悟が不可欠だ。私は法務大臣、外務大臣として難しい決断をしてきた。その中には私以外にはできない重い決断もあった。どれほど困難な状況でも決断してきた私だからこそ、覚悟を持って困難に立ち向かうことができる。」と語る。

「鵬程万里」 (ほうていばんり:高く理想をかかげ、遠くを見つめるまなざしを忘れずに)という言葉を愛する上川さんは、日本の現状を「危機」であり、いろいろな問題解決の「難問」という認識を持っている。どう日本社会を変えていくのだろうか。

◆ 上川陽子氏とは

1953年(昭和28年)3月1日。血液型。静岡市生まれ。NTTの職員だった父親と電話交換士の母の長女として生まれる。兄がいる。旧姓は竹田さん。キリスト教徒でもある。静岡市立横内小学校、静岡雙葉学園中学・高校を卒業。浪人を経て、東京大学文科三類に進学。東京大学教養学部教養学科(国際関係論専攻)。1977年4月、三菱総合研究所に入社し、研究員として働く。フルブライト奨学生としてハーバード大学ケネディスクールに進んだ。大統領選挙にボランティア活動、上院議員の事務所でも活動したそう。1988年6月に修士課程修了。帰国後、12月にグローバリンク総合研究所代表取締役(政策コンサルタント会社)を設立した。

1996年10月に衆議院議員選挙に出馬(無所属)し落選。2000年6月の衆議院議員選挙に静岡1区から出馬(無所属)し当選。2001年、自民党に復党。自民党女性局長、自民党政務調査会副会長、総務副大臣、内閣府特命担当大臣(少子化対策・男女共同参画)、公文書管理担当大臣、法務大臣、外務大臣を歴任してきた。

これまでの自身のモットーを「届きにくかった女性や子供たちの声、犯罪被害に巻き込まれた人たちの声なき声を政策につなげていくことに力を尽くした。性犯罪を厳罰化する刑法改正、犯罪被害者等基本法の制定、犯罪被害者補償制度や犯罪被害者が裁判に参加できる制度等の実現に力を尽くした。」というように、「尽くしてきた」そう。みこしを担ぐこと、夜桜乱舞、ラジオ体操、グランドゴルフが趣味。ちなみに東京大学時代のクラスメイトだった上川卓苗(日本銀行勤務)と結婚しており、2人の娘がいる。

◆ 上川陽子氏の政策の特徴

「育児休業率100%を目指す」と語るなど子育て施策に力を入れていて、子育て世代の負担軽減のため義務教育の給食無償化、病児・延長保育などに加えて、地方管理空港の国際空港化、リニア中央新幹線の開業前倒し後押し、一極集中による地域格差を是正、インバウンド拡大、地域産業、中小・中堅産業を活性化、地方ブランドや製品の海外進出を支える「地方発の経済外交」の展開などを主張する。

特徴の第一は、宏池会、岸田政権の「キシダノミクス」の継承者たる中道の経済政策が並ぶことである。「物価高を上回る賃金アップを進めるため緊急の対策をやっていく。国民が安心して買い物ができるような環境をいち早くつくっていくために政策を総動員したい」と語り、さらに最低賃金の引上げも明言している。

・強力な物価対策を講じ、実質賃金アップを実現する。

・「貯蓄から投資」促進と所得再配分を両立させ、中間層を広げる

・最低賃金のさらなる引き上げ、女性の所得向上を進める

【出典】上川さん政策

解雇規制についても「お金で一方的な解雇が自由だということは、決してあってはならない」というスタンスである。

第二に、危機への問題解決である。日本の失われた30年、DXやSDGs、WPS(女性・平和・安全保障)の視点を入れて、新たな「上川色」を打ち出している。

・成長産業の育成:半導体、AI、バイオ、ヘルスケア、航空宇宙、次世代厳原発、ブルーエコノミーといった新産業・領域の成長に向けた「産業構造ビジョン」を策定し、科学技術イノベーションと社会実装を飛翔させる。

・令和の財政強靭化を通じて、国民皆保険制度、年金制度を堅持する。

・団塊ジュニアが65歳を迎える2040年危機を直視し、全ての国民が活躍できる「持続可能な社会」を目指す。リスキリングを支援するとともに、AIやロボットを活用し、働きやすい環境を整える。

・農林水産業の持続可能性の抜本強化を図り、美しい農産漁村を守り、食料安全保障を拡充する。デジタル技術を活用し、自給率を上げる。

・SDGsの観点から、気候変動、激甚化する災害への備えを強化する。気候変動・防災対策の新組織を設けるほか、森林管理、統合治水政策を実施する。

【出典】上川さん政策

そして注目すべきこととして、上川さんは、今回、衝撃的な政策を入れてきた。それは「審議会、有識者会議などの位置づけを見直し、政府の責任を明確化する。「経済」「外交」など複数の政策を掛け算し、政策効果を倍倍増させていく」という政策だ。

政府の審議会、有識者会議の委員の構成や進め方においては大きな問題があるが、政治家はそんなことを問題にすらしないし、官僚においては自分たちが審議会、有識者会議をうまくコントロールしたいがために触れないし、メディアはそこまでの問題意識を明らかにしない。そんな中、こうしたガバナンスの問題点を明確にしているところは、凄い。三菱総研時代に、政府の審議会や有識者会議の運営支援を仕事としてやっていたこと、審議会、有識者会議が儀式化している実態を見ての経験からの問題意識だと推察される。

課題は、「対話」「声なき声を政治の真ん中に」「国民対話により一致した思いで作り上げていくというプロセスを大事にして取り組みたい」と言う割にはメディア発信も少なく、チャネルも少ないため、上川さんの良さが伝わらないことだろう。

◆ 人事評価

筆者は人事評価の専門家として「政治家の人事評価」などを提起してきた。ここで、「首相の人事評価」を考えたい。総理大臣の「能力」「成果が出せる行動特性(コンピテンシー)」は以下になる。

◆1.未来の方向性を示せる、共有できる

◆2.組織マネジメントができる

◆3.決断・意思決定ができる

これをしっかりできれば十分なのだが、上川さんをこの視点を細かく見ると以下のようになる。

▲表 筆者作成

オウム真理教関係の死刑執行を命じる決断力の一方で、勤勉さ、真面目さ、手堅さが目立つ、自民党の女性には少ないタイプでもある。派手なパフォーマンスとは強烈な無縁で強い個性は感じられないものの、安定感や信頼感あふれる言動と行動を示している。ただ、立候補の記者会見において、企業団体献金などについて記者から質問されても、明確な回答を示さず、イエスかノーか見解を示して理由を伝えたり、簡単に・わかりやすく伝えることを避けているように思える。

しかし、女性が少なった時代に、名門シンクタンク・三菱総研でバリバリ働き、名門大学院に留学し、政策シンクタンクを設立、政党の推薦を得られなくても選挙に挑戦し、その後も圧倒的なキャリアを築いてきた。育児もしながら、頑張ってきた。「ガラスの天井」を壊すか。上川さんに期待したい。

トップ写真)上川陽子氏(2024年9月14日東京千代田区)出典:Takashi Aoyama/Getty Images




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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