無料会員募集中
.政治  投稿日:2025/9/28

夢与える壮大な構想聞きたいー当面の具体論に終始の自民党総裁選


樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

【まとめ】

・自民党総裁選の論戦は、物価高対策、連立の枠組みなど内政中心に展開。

・長期的な国の青写真、世界における日本の位置づけなどが語られることは少ない。

・不確実な時代にあって総理・総裁をめざすなら、国民に夢を与える壮大な構想を示すべき。

 

■〝安全運転〟連立相手の明言は避ける

22日に告示された自民党総裁選は、所見発表演説会、日本記者クラブ主催の討論会、東京都内、名古屋での演説会などの論戦を終え、10月4日の投票日に向けて佳境、大詰めに入る。

丁々発止の論争が期待されたのは、互いに相手候補を指名して所信を質し、メディアからの厳しい質問を浴びる日本記者クラブの討論会だった。5氏がそろって登場した1年前の同じ場では、物議を醸すやりとりも展開され、一部の候補は失速気味となった経緯がある。そんなこともあってか、今回は全員が安全運転。質問者から〝変節〟を指摘された候補もいた。

各候補が力点を置く価高対策では、「所得税への定率減税」(小林鷹之元経済安保相)、「給付付き税額控除」(高市早苗前経済安保相)、「低、中所得者への日本版ユニバーサル・クレジット」(林芳正官房長官)、「平均賃金100万円増、基礎控除引き上げ」(小泉進次郎農水相)など、所得増の方策に加え、「地方が自由に使えるけた外れの交付金制度」(茂木敏充前幹事長)など、それぞれ独自の政策が提示された。

消費税減税については、小林氏が「選択肢」としたほかは、効果が薄いなどの理由から一様に消極的だった。ガソリン暫定税率については廃止で足並みをそろえた。

連立の枠組みでは、各候補とも必要性は認識しながらも、どの党派を相手とするかについては名ざしを避けた。

■ 不確実な時代だからこそ、国民を鼓舞すべき

各候補の決意表明である「所見」(自民党の特設サイト)では、威勢のいいキャッチフレーズがならぶ。

「挑戦で拓く新しい日本」(小林氏)、「結果を出す」(茂木氏)、「経験と実績で未来を切り拓く 林プラン」(林氏)、「日本列島を強く豊かに」(高市氏)、「立て直す 国民の声とともに」(小泉氏)などだ。

実施の論戦はそれに比べれば、具体論にすぎるという印象が強い。内政中心になったのは、昨今の状況を考えれば当然であり、当面の政策課題に真剣に取り組もうという意欲の表れとして理解はできる。

しかし、それだけで十分か。国のあるべき姿や将来像、さらには世界において、わが国がどのような存在、地位を占めるのかなどについて、聞いてみたいと思う国民も少なくあるまい。

不安な時代にあって、国民に夢を与え、鼓舞する構想を示すことが政治家の仕事、総裁選は、それにもっともふさわしい舞台だ。

大風呂敷を広げる必要はないが、かつて池田勇人内閣(1960-1964年)が打ち出し一世を風靡した「所得倍増論」や田中角栄内閣(1972-1974年)が掲げた「日本列島改造論」などのような構想が提示されたら国民の反応は変わったものがあったろう。

 外交防衛、ウクライナ中東はどうした

世界とのかかわりをとってみても、各候補とも当面する緊急課題への取り組みが中心だ。

「早期にトランプ大統領と会談、厳しい国際環境への認識を一致させる」(小泉氏)、「日韓関係を深化させ、中国と率直に対話する」(高市氏)、「日米関係をマネージして日中を構築する」(林氏)、「中国に対し日米の連携を示す」(茂木氏)などいずいれも当然ともいえる主張だ。

わずかに小林氏が「スパイ防止法のようなものは、中国への抑止になる。防衛費がGDP比2%では不十分だ」と大胆に主張したのが目立った。

緊急の課題への処方箋を打ち出すにしても、ウクライナ支援を今後どう展開していくのか、中東情勢をめぐって、イスラエル、パレスチナ2カ国併存を支持するなら、パレスチナ国家をいつどのような形で承認するのかーなどが論じられないのは不自然だろう。

各候補ともアジア各国との連携強化に言及しているが、米トランプ政権が世界への関与を弱めつつあるなかで、中国の脅威に対して日本がどうリーダーシップを発揮して各国を糾合していくていくのかなども所見を聞いてみたい視点だ。

拉致問題の解決を掲げる候補もいるが、具体的にどう被害者を帰国させるのか。これまで各政権が実現できなかった問題の解決へ妙手があるのか。お題目のように「解決」を叫ぶだけでは被害者、家族を失望させるだけで罪は重い。金正恩との会談実現などの公約を掲げる候補がひとりくらいあってもいいはずだ。

総裁選を取り巻く内外情勢の厳しさは、いまここで繰り返す必要があるまい。

低調な選挙戦を通じ、〝懸案処理型〟の総理・総裁が登場するなら、今後100年に禍根を残す。

来月4日まで、いま少し時間が残されている。議論の活性化をぜひとも期待したい。

トップ写真:【Cafestaコラボ】ひろゆきと語る夜 #変われ自民党 日本の未来を語れ!に出演した5候補とひろゆき氏 出典:X 自民党広報より




この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長

昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

樫山幸夫

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."