石破首相の下で解散・総選挙を 混乱の後継選び、国民の審判で決着させよ

樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)
【まとめ】
・公明党が自公連立からの離脱を決め、首相選びの帰趨は不透明になってきた。
・各党は、連立協議を加速させているが、どんな組み合わせでも、単なる数合わせになるのは避けられない。
・この際、総選挙で民意を見極めたうえで連立の形を決めてはどうか。その際、衆院の解散権を行使するのは石破首相だ。
■ 公明の再三の警告を無視
公明党の斎藤代表は、政権離脱を決断した理由について、企業・団体献金の扱いをめぐる自民党の回答が不十分だったことをあげている。公明党自身ほとんど触れないが、何よりも、同党が再三発してきたサイン、警告が無視されたことが大きかったようだ。
斎藤代表は石破首相の退陣表明直後 後継自民党総裁について、「われわれの価値観と一致する人でなければ連立は組めない」として、保守色の強い高市氏の登場をけん制。10月4日、総裁選直後の新総裁との党首会談では、政治とカネの問題、靖国参拝、外国人政策で一致しなければ連立を維持できないと伝え、政策協定取り交わしが異例の先送りとなっていた。
7日の自公党首再会談でも公明は企業・団体献金の規制案をあらためて提示したが、自民党は取りあわなかった。
連立維持か離脱かー公明がぎりぎりの党内協議を行っていた9日夜も、高市総裁はテレビ各局をはしご、規制強化に消極的な発言を繰り返し、危機感はまったく感じさせなかった。
最後の党首会談が行われる10日朝になって事態の深刻さを認識、公明党と強いパイプを持つ菅義偉元首相を急遽訪ねて協力を要請したが、時すでに遅かった。
公明党は、政治資金報告書不記載問題の震源地、旧安倍派の幹部で、みずからも党の処分を受けた萩生田光一元政調会長が幹事長代行に起用されたこと、自党との連立協議の前に高市氏が国民民主党の玉木代表と密かに会談したと伝えられたことにも不快感を強めたようだ。
■「高市首相」なお可能性十分だが・・・
自公連立政権の崩壊によって、誰が次の首相に選出されるかは、各党間の連立協議の成否にかかってきた。10月中旬にも予定されていた臨時国会召集も先送りとなった。
現時点では高市氏が首相に就任する可能性はなお十分だ。公明党の斎藤代表が、「26年間、連立を組んできた実績をもとに熟慮したい」と述べ、衆院での首相指名選挙の決選投票では、高市総裁に投票する可能性を示唆しているからだ。
野党の連立協議の行方次第では、展開は大きく異なる。
衆院での現在の議席は自民196、公明24。両党あわせても過半数の233には達せず、昨年の特別国会での首相指名選挙でも、石破総裁(当時)を含めてどの党首も過半数を獲得することができなかった。決選投票では多数の無効票が出たため、かろうじて石破氏が選出された。
■野党連合政権も否定できず
立憲民主党の議席は148で自民党との差は48議席。日本維新の会、国民民主が連携すれば、210議席、35議席あるその他の党の動向次第では野党連合に勝機がでてくる。
これまで、野党第一党でありながら、自民党総裁選を通じて「昨年の敗者復活戦だ」(野田佳彦代表)などと揶揄するだけで、野党協議に消極的だった立民は、公明の政権離脱でにわかに勢いついてきた。
立民は、連立政権の首相には、国民民主党の玉木雄一郎代表をかつぎだす構想も明らかにしている。
維新、国民ともこれまで自民との連立は明確に否定してきたが、現在は「話し合いには応じる」(藤田文武維新共同代表)、「首相になる用意はあるが、(立民は)まず、重要政策で党内を一致させるべきだ」(玉木国民代表)など、姿勢に変化も生じ始めている。
しかし、自民、立憲民主がそれぞれ中心となる連立政権、いずれが登場しても、土壇場での数合わせによる急ごしらえ、国民が望む政権とほど遠い存在になる。
■ 解散権を持つのはなお石破首相ひとり
むしろ、ここは衆院の解散、総選挙で民意を問うてみるのも一つの方法だろう。
乱暴なアイデアを承知であえて言えば、どんな政権が登場しても、早期解散が予想されるのだから、現時点でそれを断行、国民の意志が反映された連立政権を作ることの方がよほど有益だ。
選挙結果によって、どこの党が議席を伸ばし、どこが退潮したかを鮮明にしたうえで、政権協議を行えば、現時点よりは容易になろう。
現時点で次の首相は決まっていないので、新内閣の下での解散・総選挙は不可能だが、現在なお解散権を持つ石破現内閣に、それを任せる。総選挙後の特別国会で、次期首相が指名され、現内閣は総辞職するー。
政治空白をこれ以上長引かせることはできないという指摘があるかもしれないが、参院選後すでに3か月、この間の時間浪費を考えれば、さらに空白が伸びても国民本位の政権が登場するなら歓迎すべきだろう。欧州などでは連立協議に何週間も費やすことは決して稀ではない。
総裁選中すっかり影がうすくなっていた石破首相は、10日に念願だった戦後80年の所感を発表するなど、動向が再び脚光をあびている。本人も、「総総分離」による首相職にしばらくとどまることを意識しているのかもしれない。
トップ写真:自民党総裁選で勝利を収めた高市早苗氏(右)と、石破茂首相(2025年10月4日東京・千代田区、自民党本部)出典:Kim Kyung-Hoon – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長
昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

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