派閥復活の足音がきこえる 旧態依然の総裁選これで「解党的出直し」とは

樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)
【まとめ】
・高市早苗氏が制した自民党総裁選は、清新さに欠けた。
・昨年と同じ候補者の顔触れ、派閥単位の票集め、人事での〝恩賞〟など旧来型そのものだった。
・派閥の力をあらためて見せつけられたことで、その全面復活も予想される。
■幹事長に鈴木氏、政調会長は小林氏
高市新総裁は4日の選出後、党役員人事に着手、5日には党本部で麻生最高顧問と協議した。
これまで固まった人事をみると、麻生最高顧問は副総裁、党運営の要となる幹事長には麻生派の重鎮、鈴木俊一総務会長が起用される。
政調会長は高市氏と総裁選を争った小林鷹之元経済安保相、総務会長には有村治子両院議員総会長、萩生田光一元政調会長が幹事長代行に就任する。
選対本部は古屋圭司元国家公安委員長を長とし、野党への協力要請の窓口となる国会対策委員長には梶山弘志氏(無派閥)を充てる。
10月15日にも予定される首相指名、それに続く組閣では、総裁選で高市氏の対立候補だった茂木前幹事長が外相、内閣の番頭、官房長官にはやはり旧茂木派の木原稔前防衛相の名があがっている。
■麻生派優遇は支持への恩賞
今回の選挙戦、当初から決選投票では党内に残る唯一の派閥、麻生派がカギを握るといわれていた。
投票数時間前の10月4日午前、決選投票にもつれ込んだ場合は党員・党友票の1位候補を支援するよう麻生氏から指示が飛んだ。これが大きな原動力となり、高市氏は第1回投票で議員票トップだった小泉進次郎農水相を逆転で抑えた。
鈴木幹事長の姉は麻生氏夫人。両氏は義兄弟だが、それがなくても、これら人事は論功行賞であることは明らかだ。
■官房長官、国対委員長は茂木派の処遇
一方、外相に名前があがっている茂木氏は第1回投票で議員票34票を獲得したが、決選投票では高市氏支持に回った。「木原官房長官」、茂木氏の推薦人だった梶山氏の国対委員長を含め、茂木派への〝謝意表明〟だろう。
幹事長代行に予定される萩生田氏は選挙戦の早い段階、9月26日に高市支持を表明、派内を固めた。故安倍晋三首相に近かった高市氏の推薦人20人のうち6人までが旧安倍派だった。
同派内には、不記載のあった議員が少なくないが、総裁は「人事に影響はない。しっかり仕事をしてもらう」(当選直後の記者会見)という言葉を実践した。けじめより旧安倍派への配慮は、「全世代総力結集」(同)という言葉をむなしくする。
■新生自民党のはずが旧来型に逆戻りか
選挙戦にあたって、派閥頼みの票集めを展開したのは、高市陣営だけではない。
新総裁と決戦投票を争った小泉氏は、投票前日の3日、麻生氏のほか、石破首相、自らの後見人でもある菅元首相、岸田前首相を歴訪、協力を要請した。
しかし、決選投票で団結して票を投じたのは麻生派だけ。旧岸田派の票は、同派出身で第1回投票3位の林官房長官と高市、小泉氏に分散されてしまった。
麻生氏は、勝馬に乗ることで影響力を強め、キングメーカーとして君臨することがその目論見といわれるが、幹事長ポストまで手中に収めたことを考えれば、やはり派閥の団結力は強力というほかはない。
自民党はこれまで、派閥解消、復活を繰り返してきた。今回、派閥の効用を目の当たりにしただけに、不記載問題のほとぼりが冷めるのを待って派閥再興を求める動きが議員の間で台頭してくることも十分予想されよう。
派閥選挙に加え、長老の跳梁、露骨な恩賞の乱発、処分議員の復権―。閣僚人事でも、新総裁をとりまく〝女子会〟からの重用、起用、抜擢が相次いだ場合、期待は途端にしぼんでしまうだろう。
初の女性総裁によって新しい時代を迎えるはずの自民党が、逆に古い時代に逆戻りするー。皮肉な結果になるかもしれない。
トップ写真)新たに選出された自由民主党(自民党)総裁の高市早苗氏
出典)Photo by Kim Kyung-Hoon – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長
昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

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