高市政権と国民民主党・榛葉幹事長が語る補正・年収の壁・参院1人区
安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)
【本稿のポイント】
・「対決より解決」を1年半続け、ガソリン暫定税率廃止と年収の壁見直しを国民民主党が実現。
・3兆円補正は本丸の給付付き税額控除へ向けた給付+減税の組み合わせ移行戦略。
・参院は32の1人区のうち28を自民が既得、自公維だけでは過半数も改憲発議の2/3にも届かない。
国民民主党の榛葉賀津也幹事長が、Japan In-depthチャンネルに緊急生出演した。発足半年を迎えた高市早苗政権の評価、国民民主党の歩み、そして来年に控える統一地方選と2027年参院選。「対決より解決」を掲げ続けてきた幹事長が、いま政治の現場で見ているものは何か。「強い自民党ではなく、参院過半数を持たない弱い高市自民党だったから、50年ぶりにガソリン暫定税率の廃止ができた」。榛葉幹事長の言葉には、戦後日本の政治構造を1人区の数字から読み解く冷静な視座があった。(Japan In-depth編集部)
◆「対決より解決」――1年半続けて、政策はどう動いたのか
「最近ネットで『榛葉幹事長は高市総理に近すぎる』というコメントがありますが」と問うと、榛葉氏は即座に否定した。
「我々は野党だけれども、今は国家危機の極みと言っても過言ではない状況です。野党であろうと、時の政権を外交、安全保障、エネルギーで支えるのは当然です」
「対決より解決」——国民民主党が掲げ続けてきたこの姿勢が、しばしば「与党にすり寄っている」と批判されてきたことに対する、榛葉氏の答えはこうだ。
「政策実現のために、我々の価値観をしっかり提示してきました。50年間できなかったガソリン税の暫定税率を廃止したのは、強い自民党じゃない。参議院で過半数を持たない弱い高市自民党だったんですよ。それを我々が補完して協力したから飲んでくれた」
榛葉氏が挙げた具体的成果は、暫定税率廃止だけではない。
103万円の年収の壁を178万円まで引き上げた。旧自動車取得税の環境性能割の3%も廃止した。トラックバスの軽油引取税の暫定税率もなくした。「財務省は減税なんてやらない役所だと思っていたけれど、見事にやってくれた」と榛葉氏は語る。
直近の動きはイラン情勢に端を発した3兆円規模の補正予算編成だ。
「ゴールデンウィーク明けには補正をやるとずっと言ってきました。案の定そうなった」。ガソリン補助、電気代・ガス代の激変緩和措置——「玉木代表が言った数字とほぼ同じになった」と榛葉氏は手応えを示す。
補正の中身をめぐる議論で、榛葉氏は注目すべき分析を披露した。
「本丸は給付付き税額控除なんです。ただこれはマイナンバーとの紐付けで2〜3年かかる。だから高市総理が出してきたのが食料品消費税のゼロ。我々が出したのが社会保険料の住民税控除。両方とも1年くらいかかる可能性がある」
つまり、給付付き税額控除という最終ゴールに向け、当面の措置として「中所得者・低所得者への給付」を先行させ、その間にマイナンバーカードと公金受取口座の紐付けを進める。「これは一石二鳥の移行戦略です」と榛葉氏は語る。
イラン情勢が補正を必須にしたいま、「今週、今月、今年をどう乗り切るか」のスピード感が問われている。「30年ぶりに経済が元気になって、GDPの6割を占める個人消費が回り出した矢先。これをなんとか乗り切らないと」。
◆連合の支持政党1位、自民2位——「反自民非共産」というステレオタイプは古いのか
ここで榛葉氏が強調したのは、既存メディアが描く「野党像」への根本的な異論だった。
「ある新聞が15の選挙データで『中道改革連合と国民民主党が足せば、自民党に量で勝てる』と書きました。つまり、国民民主党が引いて中道に一本化すれば自民党を倒せると。そんなね、足し算じゃない」
榛葉氏が引用したのは、連合が発表した支持政党アンケート調査の結果だ。
「連合の中で支持政党1位は、ぶっちぎりで国民民主党。2位が自民党です。立憲も中道も全部入ってこの順位。もっと言うと、我々がいなかった時代は、自民党と書いていたということなんですよ」
中道改革連合と国民民主党を「足し算」で語る発想を、榛葉氏は明確に否定する。
「お互いの党のブランディングを毀損するだけです。そもそも経済政策が全然違うんですから」
立憲民主党と公明党が新たに結成した中道改革連合は、これまでの野党第1党とは違う政策パッケージを持つ。一方、国民民主党は安全保障・エネルギー・憲法では自民党と価値観を共有しつつ、経済政策では現役世代・中間層への手当てを重視する。「我々の価値観をきちっと提示している」というのが榛葉氏の自負だ。
「『反自民非共産』とかね、この枠って何ですか?野党はこうあるべき、というステレオタイプが変わらない。50年間できなかった暫定税率を高市自民党と一緒に廃止したのが国民民主党なんですよ」
◆参院1人区の壁——次の参院選で日本政治は本当に変わるのか
榛葉氏の分析が最も鋭利になったのは、参議院の選挙制度をめぐる構造論だった。
「衆議院は自民党が316議席、自民維新で352議席という圧倒的過半数。でも参議院は、自民維新でも過半数足りないんですよ。これが現実です」
衆参のねじれは、なぜここまで続くのか。榛葉氏が示したのは、参院選の選挙制度そのものから来る構造的な数字だ。
「過去25年間で、自民党が参議院単独過半数を持ったのは3年だけ。25年中の3年です」
参院は3年ごとに半数改選される。32ある1人区が勝敗を分けるが、現状は「自民党が28を取っている」と榛葉氏は語る。「これ以上自民が増える伸び代がない。野党が持っている残りの数席だけが争点。2つ取って3つ取って全部自民党、なんてことはできない」。
衆議院は小選挙区比例代表並立制で、ブームが起これば一気に勢力図が変わる。だが、参議院の1人区は「バブルが起こらない選挙制度」だ。榛葉氏は、自民党側からの「国民民主党、力を貸してくれ」というメッセージの背景を、こう代弁する。
「冷静に考えて、政治を安定させるには今の政府を安定させなきゃいけない。だから国民民主党、力を貸してくれと」
その上で、自民党執行部の現状認識についてはこう語った。「松山政司参院議員会長も、鈴木俊一幹事長も、参議院はそう簡単じゃないぞと、よく分かっていますよ」と。
参院過半数の問題は、改憲発議要件にも直結する。「自民維新だけでは過半数もない。自民維新国民でも2/3に届かない。参政党を加えても、2/3はどうなんだという話」。榛葉氏によれば、参政党の神谷宗幣代表からも「まずは憲法改正は参議院だから、なんとか合区を解消しないとダメだ」という問題意識が示されており、議論を続けているところだという。
合区——榛葉氏が長年問題視してきた、参院1人区の構造的歪みだ。徳島と高知、島根と鳥取。意外と県民性も歴史も違う2県を1つの選挙区にまとめる現行制度に対し、榛葉氏は「いきなり9条改正という議論も大事だが、まずは民主主義の根幹である選挙制度を整えるべき」と主張する。
国勢調査の速報値が今春に出る。「秋に確定するけど、間違いなく一票の格差が3倍を超えるのは山梨と福井です。福井と山梨を合区にできるわけがない。長野や石川が間に入ったりしますから」。
榛葉氏は具体的な合区解消の道筋を示した。「長野・山梨、石川・福井、佐賀・長崎と、人口の多い県と合区になると、ずっと長野・福井・佐賀から参議院議員がいなくなる。実際、島根・鳥取は今、参議院議員が2人とも島根から出ている。鳥取はゼロです。東京には12人いるのに」。
地方創生を掲げながら、地方の代表を失っていく構造——これを変えるには法律改正で足りるのか、それとも憲法に「参議院は都道府県代表を必ず置く」という趣旨を加えるべきなのか。榛葉氏の党は、徳島選出で全国知事会の元会長でもある飯泉嘉門参院議員(編注:徳島県知事を5期務め、2025年参院選で初当選)を軸に、この議論を深めている。
「2027年参院選で参院過半数を、と自民党は思っているかもしれないけれど、そう簡単じゃないですよ」——榛葉氏の言葉は、来年の統一地方選から再来年の参院選までの政治日程を読み解く上で、極めて重要な視座を提供している。
◆「強い自民党」ではなく「弱い自民党」と組んで政策を動かす
榛葉氏が繰り返し語ったのは、「強い政府ではなく、参院過半数を失った弱い政府だからこそ、政策が前に動いた」という逆説だった。
「我々が国民民主党を強くすることで、政治はもっと前に出る。誤解を恐れずに申し上げると、高市内閣も安定する」
国民民主党が掲げる「対決より解決」は、政権との対立を回避するための便法ではなく、衆参ねじれという制度的現実の中で政策を実現するための戦略だ。
「日本の政治が大きく変わる時、我々が変わらなきゃいけない。だから真っ先に我々は変わろうとしているんです」
来年の統一地方選、9月の党代表選、そして2027年の参院選——榛葉氏の言う「変化」がどこまで具体的な成果に結びつくか、有権者の目線で見守りたい。
◆本編動画で語られた他の主な論点
対談動画では、本記事で取り上げた政権評価と党の総括に加え、以下の論点も詳しく語られています。ぜひ動画本編をご覧ください。
・ホルムズ海峡危機と米イラン交渉の4論点(23分~)レバノン、核、資産凍結、ホルムズ開放のうち、最初に動くのはどれか
・自由と繁栄の弧からFOIPへ、そしてAZECへ(26分~)日本外交、20年の歩み
・G2時代の日本外交(27分~)G0世界の到来、日米同盟だけでは荒波を越えられない
・太平洋側の守り(30分~)中国海軍の太平洋進出、太平洋島嶼国との連携の重要性
・沖縄知事選(14分~)オール沖縄でも自民でもない「第3の道」、40歳の新人候補
・小選挙区制の限界と中選挙区復活論(57分~)連用制(1票2枚)導入で日本政治はどう変わるか
・9月の党代表選(1時間2分~)若手の出馬は
動画本編はこちら:https://www.youtube.com/watch?v=Wcuka82fAuI
■よくある質問(FAQ)
Q. 激変緩和措置とは何か。
A. ガソリンや電気・ガス料金など、エネルギー価格の急騰時に政府が補助金を支給して価格上昇を緩和する措置。原油や天然ガスの輸入価格が高騰した際、家計や事業者の負担を軽減する目的で実施される。
Q. 1票の格差とは何か。
A. 有権者1人あたりの投票価値が選挙区によって異なる状態を指す。人口が少ない選挙区と多い選挙区で、1議席を選ぶのに必要な有権者数に大きな差が生じることが憲法上の平等原則との関係で問題視されてきた。最高裁は3倍を超える格差を違憲状態と判断した先例がある。
Q. 小選挙区比例代表並立制とは。
A. 衆議院で採用されている選挙制度。有権者が小選挙区(1選挙区1議席)と比例代表ブロックの2つの選挙に同時に投票し、両者の議席が独立して配分される。比例代表で復活当選が可能な点が特徴で、近年は中選挙区への回帰論や連用制への変更論が議論されている。
Q. 地方6団体とは。
A. 全国知事会、全国都道府県議会議長会、全国市長会、全国市議会議長会、全国町村会、全国町村議会議長会の6つを指す。地方自治の代表組織として、国に対して政策提言や要望を行う。参院合区解消については、6団体すべてが解消を求めている。
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