『禁止』だけでは守れない:SNS時代の青少年保護を考える
執筆者:Japan In-depth編集部 小宮山葵
【本稿のポイント】
・SNSの依存的利用は、生活満足度を下げる要因となり得る。
・両氏は、強い制約を伴うオーストラリア型の利用制限に、慎重な立場を示し、「安全な利用環境の整備」の重要性が述べられた。
・子どもは「保護される客体でありながら、参加する主体」であることを前提とした制度設計の見直しが必要である。
2025年12月10日、デジタルプラットフォームへ、16歳未満がソーシャルメディアのアカウントを作成・保有できないよう義務付ける法律が、オーストラリアにて施行された。同法では、事業者への責任を義務付け、違反した場合の罰則も規定されている。
OECD等で青少年のネット利用に関する制度の調査研究に従事してきた経験を持つ社会情報学者の齋藤長行氏と、弁護士で、モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)事務局長を務めた経験を持つ上沼紫野氏は、同法について慎重な立場から、考察を展開した。
2026年5月18日、衆議院第一議員会館にて、「SNSの青少年利用規制について考える」と題し、院内集会が行われた。
有識者や事業者を交え、フィルタリング中心の従来型対策の限界や、プラットフォーム事業者・OS事業者に求められる責任について議論が交わされた。議論の中では、自画撮り被害や誹謗中傷、闇バイト、長時間利用といった問題に加え、オーストラリアで進む「16歳未満SNS禁止」政策にも言及。登壇者からは、「単純に禁止するだけでは問題は解決しない」との指摘が相次いだ。
特に焦点となったのは、従来の「見せない」対策の限界と、「危険な発信をどう防ぐか」へ、リスク構造が変化している点についてである。
■年齢規制より情報環境の整備を
仙台大学教授で、総務省情報通信政策研究所の特別研究員も務める齋藤長行氏は、SNS上の問題について「年齢制限での規制ではなく、安全に参加できる情報環境を作っていくことが最優先」と指摘した。

写真)質疑に応答する齋藤長行氏
撮影)筆者
レコメンド機能によるエコーチェンバーやフィルターバブル、ターゲティング広告により、利用者は偏った情報環境に置かれやすくなる。さらに、感情的な投稿ほど拡散されやすいアルゴリズムやエンゲージメント至上主義により、判断能力の脆弱な子どもの離脱を困難にしている構造的問題を提示した。
また、齋藤氏は、World Happiness Report 2026を引用し、SNSと生活満足度の因果についても指摘した。メッセージアプリをはじめ、コミュニケーションを支えるプラットフォームは、利用時間と幸福度に正の相関を示す一方、アルゴリズムにより誘導されるようなコンテンツは負の相関を示す。これらを踏まえ、利用方法やプラットフォームごとの用途・特徴を加味せず、「SNS」と一括りに論じることへの疑問を提起した。
オーストラリア型の「16歳未満SNS禁止」については、「妥当と言えるかは疑問」とした。プラットフォーム事業者を組み込んでいる点で一定程度評価できるとした上で、オンライン以外の交流機会が限られている場合や、地理的な孤立、マイノリティーなどの社会参加の経路としての価値を挙げ、配慮の必要性も併せて提示した。
最後に、齋藤氏は、子どもは「保護される客体でありながら、参加する主体」であると明言。権利を尊重し、安全に参加できる環境を整えるためには、教育が一番重要であるとした。加えて、人間は理性的に行動しているつもりでも、実際には衝動的な判断を行いやすいとし、「リテラシー教育だけでは限界がある」と説明。リスクを見直し、それに応じて事業を見直す、事業者の安全設計の取り組みへの必要性を訴えた。
■「見るリスク」より「発信リスク」への対処を
日本とニューヨーク州の弁護士資格を持ち、日米の通信政策や政府の審議会にも参加してきた経歴を持つ上沼紫野氏は、現在の青少年保護政策について、「フィルタリング中心の対策は限界を迎えている」と指摘した。

写真)実務家の立場から、子どもとSNSとの関係について論じる上沼氏
撮影)筆者
かつて日本では、第三者機関による認定制度などを通じ、危険なサイトへのアクセスを制限する方式が取られていた。しかし、スマートフォンの普及とともにフィルタリング利用率が低下。現在では、XなどのSNSが緊急時の情報収集インフラになっていることも踏まえ、コンダクトリスクをフィルタリングで予防する方式は現実的ではないという。その結果、問題の核心は「何を見るか(受信)」から、「何を送るか(発信)」に移っていると訴えた。
具体的には、自画撮り画像や個人情報の送信、誹謗中傷投稿などを「やっちまった系」と題し、重大な被害につながっていることを強調した。ここで重要になるのが、投稿前のコントロールだ。
たとえば、肌色の多い画像を送信しようとした際の警告機能や、誹謗中傷的な表現へのワーニング表示など、AIを活用した「発信前制御」の重要性を提示した。加えて、「毎回出る警告には意味がない。本当に危ない時だけ止めることが重要」と説明。実際、ReThink社のサービスでは、投稿前警告によって93%のユーザーが投稿を思いとどまったというデータが、上沼氏によって紹介された。
加えて、上沼氏は、「小さく失敗できる環境」の必要性も訴えた。
現実世界では、子どもは、いきなり社会全体と接触するわけではなく、段階を踏み社会へ順応していく。しかしSNSでは、幼い段階から突然“世界”へ接続されるため、そのギャップを埋める仕組みが不足しているとの指摘である。「SNSを使い始めて最初の3か月が最も事故が多い」という統計データを用い、オーストラリア型の16歳未満への全面禁止へ警鐘を鳴らした。16歳になるまで全面禁止し、そこから突然SNSデビューさせることの危険性を指摘すると、会場からは同意や感嘆の反応が見られた。
また、自身がアマチュア無線を利用していた経験に触れ、「自分の会話を知らない誰かが聞いているかもしれない、という感覚を自然に学べた」と説明。インターネット上における「誰が見ているかわからない」という感覚は、実際の経験を通じて身についていく側面があると語った。
■排除ではなく、安全な環境の整備を
院内集会全体を通じて浮かび上がったのは、「禁止するか否か」という単純な二項対立ではなく、「どうすれば安全に参加できる環境を設計できるか」という視点だった。登壇者らはいずれも、保護者や子ども本人だけに責任を負わせる現状には限界があると指摘。OS事業者やプラットフォーム事業者を含めた「環境設計」の重要性を強調した。
青少年の知る権利と安全性の両立や、ユーザーの「デジタル主権」という観点から、全面禁止は果たして最善策と言えるのか。技術革新の便益を最大限享受するためにも、議論を積み重ねていく必要がある。
■よくある質問(FAQ)
Q1.SNSにおける「コンタクトリスク」とは何ですか?
A.オンライン上で他者と接触することによって生じ得るリスクを指します。具体的には、児童が出会い系アプリによって出会った大人から性被害を受けるケース、詐欺や「トクリュウ」をはじめ、闇バイトへの勧誘から犯罪の実行犯になってしまうケースなどが問題視されています。
Q2.SNSにおける「コンダクトリスク」とは何ですか?
A.子どもがSNS上でとった不適切な行動によって生じ得るリスクを指します。具体的には、自画撮りした性的画像を第三者に送付する行為や、受信した児童ポルノ画像を他者へ転送する行為が挙げられます。
Q3.SNSが依存的に使用されてしまう背景にはどのような要因がありますか?
A.ビッグデータを活用したターゲティング広告やレコメンデーション機能、無限スクロールによる受動的なSNS利用、プッシュ通知などが挙げられます。それらのアルゴリズムにより、無意識のうちにSNSが生活に浸出していることなどが、依存性を生む要因の一部とされています。
Q4.今、SNS事業者は、具体的な対策を講じているのでしょうか?
A.事業者ごとに、専門家の助言などをもとに対策が講じられています。例えば、今回の院内集会では、TikTok Japanから、16歳未満のダイレクトメッセージ機能の利用制限や、コメント欄での攻撃的な発言を検知し、警告を発出する注意機能などが挙げられました。
トップ写真)NPO法人うぐいすリボン主催「SNSの青少年利用規制について考える」
2026年5月18日 衆議院第一議員会館第一会議室(東京都千代田区)
(筆者撮影)




























