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.社会  投稿日:2026/5/22

高額療養費の自己負担、2026年8月から引き上げ——元厚生労働大臣・田村憲久氏が語る改革の論理


Japan In-depth編集部(堀川涼乃)

【本稿のポイント】

・高額療養費の自己負担限度額引き上げは「説明不足だった」と田村氏が認め、今回の設計の意図を詳説。

・医療技術の進歩で長期療養患者が急増したため「多数回該当の据え置き」と「年間上限の新設(69歳以下では初)」を盛り込んだ。

・「保険料を上げるか、給付を適正化するか」という二択を国民に正面から問う必要があると田村氏は強調。

 

高額療養費制度の自己負担限度額が2026年8月から段階的に引き上げられる。患者団体が反対署名を集め、石破政権下では一度凍結に追い込まれた「負担増」の再挑戦だ。厚生労働大臣を2期務め、社会保障政策の立案に深く関わってきた自民党の田村憲久・政務調査会長代行が、Japan In-depthチャンネル(5月21日)に出演し、改革の真意と制度設計の論理を語った。(Japan In-depth編集部)

 

高額療養費見直し、なぜ凍結から復活したのか——石破政権での経緯と今回の変更点

2025年3月、当時の石破政権が高額療養費の限度額引き上げを突然凍結したことは記憶に新しい。患者団体からの強い反発を受け、予算案審議の途中での方針転換という異例の展開だった。田村氏はこの経緯を率直に認めた。

「実は十分に説明しきれていなかった部分もありました。私も患者団体の方々からご要望をいただき、これではとてもじゃないけれどもというお話をいただきました」

その反省のもとで今回の見直しは設計された。まず田村氏が指摘したのは、現行制度の構造的な欠陥だ。

「今まで、所得に対する負担の分け方が大雑把でした。それをもう少し細分化して、負担の考え方を収入に応じて上がっていく形に分化して作ったのが今回です」

現行制度では年収約370万円の人と年収約770万円の人が同じ所得区分に分類され、月の自己負担上限も同じだ。今回の改正では2026年8月に月額上限を一律引き上げ、2027年8月には4区分を13区分に細分化する2段階の設計となった(出典:厚生労働省・第221回国会提出法律案)。「前回よりも緩やかにしています」と田村氏は述べたが、最大38%程度上がる所得層が存在することは認めた。

医療の進歩が制度の前提を崩した——69歳以下初の「年間上限」新設とは何か

田村氏が今回の改正の核心として強調したのは、医療技術の進歩によって制度の前提そのものが変わったという点だ。

「今まで、そういうような長期間、高額の上限に当たる方々はそうはいないだろうという前提で作ってきました。しかし薬が良くなったために、医療が進歩したがために、そういうことになってしまいました」

乳がん治療をはじめとする高額な分子標的薬の普及が背景にある。

「例えば乳がんの薬など、良い薬がどんどん出てきており、長期間使用する方々が増えてきています」

従来の制度は「2〜3か月それを受ければもうそれで終わりって方が多かった」という前提で設計されていたが、現実は変わっている。月4回目以降の自己負担が下がる「多数回該当」の仕組みも、年を超えて使い続ける患者には十分ではなくなってきていた。

「4回目どころか年間を通じてずっと、年を超えてという方々が出てきており、そういう方々の負担が実はもうずっと続くので、高額療養費の上限でもきついのです。これはまったくごもっともなことです」

この問題に対応するため、今回の改正では「多数回該当」の上限額を現行水準で据え置きつつ、69歳以下の高額療養費に対する年間上限を初めて新設した(出典:厚生労働省 第9回高額療養費制度の在り方に関する専門委員会資料(2025年12月25日))。年間の自己負担合計が一定額を超えた場合、保険者から還付される仕組みだ。

高額療養費の負担が増えるのは誰か——「単発の入院」と「長期療養」で異なる影響

今回の制度改正が誰を対象にした負担増なのか。田村氏はこう整理した。

「単発で、今回の私のように手術・入院をしたという場合に、ある程度の負担を今まではかなり抑えていましたが、一部の収入の方にはもう少し負担していただくということです。それは仕方ないと感じます」

安倍編集長自身、取材直前に手術を受け、高額療養費制度の恩恵を実感したと語っていた。田村氏の設計思想を要約すれば、急性疾患・短期入院については所得に応じた一定の負担増を求める一方、がんや難病などで長期にわたって高額な医療費を支払い続ける患者については多数回該当の据え置きと69歳以下初の年間上限新設で守る——というものだ。

「保険料を上げるか、給付を適正化するか」——2040年に向けて国民に問われる社会保障の選択

視聴者から「合理的な引き上げなのか」という質問が寄せられると、田村氏は制度の持続性という観点から踏み込んだ。

「薬品などさまざまなものがこれからどんどん出てきます。高額療養費は普通の一般の医療費の伸びよりも伸びているので、これからのさまざまな高額医療を考えると、一定程度このような形をとらなければ抑えていけないところがあります」

さらに田村氏は、今回の改正の本質的な論点を二択として示した。

「どちらがいいかという話です」

この「どちら」とは保険料を上げるか、給付を適正化するかという選択だ。田村氏は「保険料を上げれば(制度は)持つ」と前置きした上で、若い世代の手取りを守るためには給付の適正化が必要だという立場を示した。

2040年に向けて85歳以上の人口がさらに300万人増え、生産年齢人口は1,000万人以上減る見通しだ(出典:内閣官房 全世代型社会保障改革資料)。「負担する側が減って、サービスを受ける側が増えていく」という構造変化の中で、田村氏が語った言葉は社会保障の選択肢を国民に正面から問うものだった。

「今私が申し上げたようなことをしっかりとご説明し、これは医療の費用がかかるリスクに対しての保険ですから、長期間ずっと高い医療費を払わなければならない方々については、今までよりもしっかりと抑えていきます——そのような趣旨をなんとかご理解いただきたいのです」——田村氏はそう締めくくった。社会保障の制度設計に長年関わってきた当事者の言葉として、重く受け止める必要がある。

なお番組では、このほかにもOTC類似薬の保険外し、出産費用の現物給付化、金融所得の保険料反映、医療機関の経営危機と診療報酬、新薬のドラッグラグ問題、終末期医療のあり方など多岐にわたるテーマが論じられた。詳しくはJapan In-depthチャンネルの本編動画をご覧いただきたい。

 

【よくある質問(FAQ)】高額療養費制度の見直しを知るために

Q1. 高額療養費制度とは何か?

医療機関や薬局の窓口で1か月に支払った医療費が自己負担限度額を超えた場合、超えた分を払い戻す制度だ。上限額は年齢と所得に応じて異なる(出典:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」)。入院時食事代・差額ベッド代は対象外となる。

Q2. 「多数回該当」とはどのような仕組みか?

直近12か月以内に3回以上、高額療養費制度の自己負担限度額に達した場合、4回目以降の上限額がさらに引き下げられる仕組みだ(出典:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)」)。今回の改正では、この多数回該当の上限額は現行水準で据え置かれる。

Q3. 今回新設される「年間上限」とは何か?

69歳以下の高額療養費に対して初めて設けられる年単位の上限制度だ。月単位の自己負担限度額に届かない場合でも、1年間の自己負担合計が一定額を超えた場合に超過分が還付される。まず患者本人からの申出を前提とした償還払いで開始される(出典:厚生労働省 第9回高額療養費専門委員会資料(2025年12月25日))。なお70歳以上の外来特例には従来から年額上限があったが、69歳以下については今回が初の導入となる。長期療養患者で月額上限に達しない患者の負担軽減が主な目的だ。

Q4. 2026年8月以降、自己負担はいくら増えるのか?

第1段階(2026年8月)は現行の所得区分のまま月額上限を引き上げる。所得区分によって4〜7%程度の増加が見込まれる。第2段階(2027年8月)は現行4区分を13区分に細分化し、最大38%程度上がる所得層も生じる(出典:厚生労働省 第9回高額療養費専門委員会資料(2025年12月25日))。一方、多数回該当に該当する長期療養者の負担額は変わらない。

 

【関連リンク】

厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」

厚生労働省 第221回国会提出法律案(健康保険法等の一部を改正する法律案)

厚生労働省 第9回高額療養費制度の在り方に関する専門委員会資料(2025年12月25日)

内閣官房 全世代型社会保障改革 第21回会議資料

 

写真)田村憲久衆議院議員 2026年5月21日

ⓒJapan In-depth編集部




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