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.国際  投稿日:2026/4/1

トランプ「五転六転」外交:イラン危機で亀裂が走る米欧同盟


執筆:宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026#13

2026330-45

本稿のポイント

・トランプ氏はイランとの停戦交渉を進める一方で軍事攻撃も示唆するなど発言が揺れ動き、米軍部隊の展開も含め情勢は極めて不透明である。

・イラン危機を背景に、ウクライナ戦争や対ロシア政策をめぐって米国と欧州の立場の違いが顕在化し、西側同盟内の亀裂が広がっている。

・中東では各国が停戦仲介に動く一方でパレスチナ側の存在感は薄く、地域情勢の複雑さと構造的な問題が改めて浮き彫りになっている。

2026330日から45日にかけての国際情勢について、宮家邦彦・キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問(立命館大学客員教授)は、イラン情勢を軸にトランプ政権の不安定な対応と軍事的緊張の高まりが、米欧関係やウクライナ戦争にも波及し、西側内部の亀裂を浮き彫りにしていると分析する。その上で、中東では各国が停戦仲介に動く一方、パレスチナの存在感が薄れるなど、地域情勢の複雑さと構造的課題が続いている現実を描いている。(Japan In-depth編集部)

トランプの対イラン政策はなぜ「五転六転」?不透明な交渉と軍事圧力の実態

今週もやはりイラン情勢から入ろう。トランプ氏は30日、停戦に向けてイラン側と「真剣な協議」を実施しており、交渉は「大いに進展している」とSNSで強調する一方、「ディール(取引)」がなければ全ての発電所と油田やカーグ島を「たたきのめす」とも主張している。これを筆者は「二転三転」ならぬ、トランプの「五転六転」と呼ぶ。

筆者はJapanTimesと産経新聞にそれぞれ二週間おきにコラムを書いているが、振り返れば、2月最終週以降のコラムは全てイラン関連だった。他にも重要ニュースはあるのに、中東以外への世間の関心は低い。中でも気になったのは、29日に北京の市場で中年男が運転するブルドーザーが群衆に突っ込んだニュースだ。

香港紙によれば、ブルドーザーは午前11時ごろ、北京市房山区の露天市場に通行止めを乗り越えて突入し、蛇行しながら複数の露店をなぎ倒したそうだ。逃げ遅れた買い物客ら7〜8人が轢かれて死亡したらしい。可哀そうに、まだ中国ではこんな事件が起きているのだ。

房山区といえば、北京市の西南にある、「房山ユネスコ世界ジオパーク」もある風光明媚な地域だが、当局は事件について公表せず、ネット上でも関連動画は削除されているそうだ。もうこれ以上は言うまい。中国国内の社会的動揺、経済的苦境はまだまだ続いている、ということだろう。

米軍部隊の中東展開は何を意味するのか?地上戦リスクと現実的シナリオ

話をイラン関連に戻そう。先週筆者はトランプについて、『言うこと』よりも実際に『やること』を重視している」と書いた。「行動」としては海兵隊の遠征部隊二つと第82空挺師団の部隊が派遣されているが、その目的は不明だ。カーグ島の石油に関心ありなどと言っているが、これは陽動作戦かもしれず、何をするか分からない。

しかし、一つだけ確実に言えることがある。これだけの部隊が動けば、1940年代ならいざ知らず、21世紀の今はロシアがその動きを正確に追ってイラン側に知らせているだろう。ということは、奇襲作戦は難しく、壮絶な上陸作戦と地上戦で多数の若い米兵が、国益ではなく、トランプの私益のために戦死する可能性があるということだ。

これで米国内は持つだろうか、大いに疑問である。それではホルムズ海峡は閉鎖されたままなのか。それとも、部分的にせよ、航行が再開されるのか。この点については今週の産経新聞WorldWatchに詳しく書くことにした。ご関心のある向きはご一読願いたい。

さて、次は吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週は同研究員がまとめた「イラン攻撃で広がる米欧の距離――ロシア・メディアから」を以下の通りご紹介する。ロシア・メディアが「欧州と米国の関係」を如何に見ているか知る上で興味深い。

(本文)

イラン危機を経て、米国と欧州の間でウクライナ戦争をめぐる立場の相違が一層鮮明になっている。トランプ大統領が3月27日にマイアミで行った演説や26~27日にフランスで開催されたG7外相会合でのルビオ米国務長官とカラス上級代表との応酬、さらに同長官とウクライナのゼレンスキー大統領との間での停戦条件をめぐる認識のズレなどに、ロシアのメディアは注目している。

 「イラン攻撃で広がる米欧の距離」――329日付独立新聞(要点)

中東での軍事行動は、これまでの米国の戦争とは異なり、米欧同盟の結束を強めるどころか、むしろ弱める結果となっている。

トランプ大統領はイラン攻撃に距離を置く欧州への不満を強め、マイアミの演説で、「(メルツ独首相のように、欧州がこれを自分たちの戦争ではないと言うなら、)ウクライナ戦争も米国の戦争ではない」との見方を示した。これは、米国がロシアとの対立から距離を置く可能性を示唆するものと受け取られる。(注:実際には、トランプ氏はこの発言に続けて「それでも我々は支援している」とも述べている)

実際、米Axiosによると、G7外相会合の場でルビオ国務長官も、EUのカラス上級代表との間で対ロシア政策めぐり激しい応酬を行った。

こうした動きについては、中東対応をめぐり同盟国に圧力をかけているとの見方と、米国がウクライナ戦争およびNATOにおける自らの役割を根本的に見直しつつある兆候と捉える見方とが可能だろう。

なお、ルビオ国務長官は、ウクライナ向けの兵器が、中東の米軍に振り向けられる可能性を否定していない。

G7外相会合では、カラス上級代表とルビオ米国務長官の間で対立が生じ、ウクライナ危機や対ロシア政策をめぐる認識の違いが浮き彫りになった。米Axiosによると、ルビオ氏は米国がウクライナの交渉プロセスから離脱する可能性も示唆した。

イラン作戦をめぐる見解の相違も重なり、ウクライナ問題に関する西側同盟国間の分裂は一層顕在化している。

また、停戦条件をめぐっては米国とウクライナの間でも認識の食い違いが生じ、ルビオ国務長官とゼレンスキー大統領の間で応酬が起きた。こうした異例のやり取りは、キエフがもはやワシントンの不興を恐れていないことを示している

一方で、米政権側もゼレンスキーの立場を変えさせる有効な手段を見いだせておらず、三者間交渉の行き詰まりを示唆している。

続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。今週はイースター休暇のせいか、量は少ないが、欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

3月31日 火曜日 シリア大統領の訪英

 仏大統領の訪日(3日間)

 EU外相会合(於ウクライナ)

4月2日 木曜日 仏大統領の訪韓(2日間)

4月4日 土曜日 米政府、インドのロシア原油購入許容の期限

4月5日 日曜日 OPEC+ 8か国がテレビ会合

最後はガザ・中東情勢だが、今回も冒頭でイラン関連を取り上げたので、一点のみ補足する。最近メディアでは、中東諸国の外交活動が目立つ。エジプト、サウジアラビア、トルコの外相がパキスタン外相とともに米イラン停戦の仲介役を果たそうと動いていることは御承知の通り。だが、ここで一つ、誰かが欠けていませんかね、というか、その動静が殆ど報じられていない当事者がいませんか?そう、パレスチナ人ですよ。ハマースの動きはまだわかるが、パレスチナ自治政府のアッバース大統領は今一体何をしているのか?イラン戦争だって、そもそもはパレスチナ問題が発端でしょ?これが、悲しい中東の実態なのである・・・今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

世界情勢を紐解くためのFAQ

Q1. 米国はなぜイスラエルを重要視しているのか?
A.アメリカ合衆国にとってイスラエルは中東における民主主義の価値を共有する長期的な同盟国であり、安全保障・外交・国内政治の多方面から戦略的な支援関係を維持している。

Q2. エルサレムは中東情勢でなぜ重要なのか?
A.エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地であり、イスラエル・パレスチナ双方にとって政治的主権の象徴でもあるため、和平交渉における最も困難で重要な焦点となっている。 

Q3. トランプ政権下で、ウクライナ支援とイラン問題はどう結びついているのか?
A.米国(トランプ政権)が、ウクライナへの軍事支援を継続する背景として、欧州諸国に対して対イラン政策でのさらなる協調を求める姿勢を示しているためである。これにより、本来は別の地域課題であるウクライナと中東の情勢が、米欧間の外交的な協力のバランスを測る材料として一体化して扱われるようになっている。

Q4. 西側同盟(NATO等)における現在の課題とは何か?
A.米国と欧州の間で、対ロシア政策と対イラン政策の優先順位や対応方針に温度差が生じており、同盟内の結束をいかに維持しつつ、複数の地域危機に同時対処するかが大きな課題となっている。

Q5. パレスチナの外交的影響力が低下しているのはなぜ?
A.国際社会や周辺アラブ諸国の関心が、イラン情勢やエネルギー安全保障といったより広域的な戦略課題に集中しているため、パレスチナ問題が外交上の優先順位において後景化しやすくなっている。 

シリーズ・アーカイブの紹介

本連載は、国際情勢を独自の視点で鋭く分析する宮家邦彦氏による「外交・安保カレンダー」シリーズのアーカイブです。過去の記事も併せて読むことで、複雑に絡み合う世界情勢の推移を深く理解することができます。日本経済

▶︎ [連載「外交・安保カレンダー」バックナンバーはこちら]

写真)President Trump Meets With His Cabinet At The White House
出典)GettyImages / Chip Somodevilla / スタッフ

 

 

 




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