沖縄にとって中国とは何か
目黒 博(ジャーナリスト)
【本稿のポイント】
・沖縄県民は、中国の強硬で暴力的な姿勢に反感を抱く。
・中国は、日米同盟を揺さぶるために「沖縄工作」を仕掛けるが、空振りに終わっている。
・複雑な沖縄事情を中国はつかみかねている。
「台湾有事」の可能性が盛んに論じられている昨今、「沖縄にとって中国とは何か」という問いは重みを増している。しかしながら、現代沖縄の政治・社会との関連で中国が議論されることは、あまりなかった。そこで、本稿では、予定を変更して、このテーマを取り上げる(「流動化する沖縄政治(上)」の続編は、後日寄稿したい)。
「台湾有事」と日中関係の悪化は、沖縄でどう見られているか
中国が台湾に対し武力を行使すれば、米軍が出動し、自衛隊が米軍を支援することが想定される。そのような事態に至れば、台湾のすぐ隣に位置し、多くの米軍や自衛隊の基地が存在する沖縄は、間違いなく戦場になる。
2010年代から、南西諸島に次々と自衛隊基地が開設されてきた。「基地があれば、中国からの攻撃にさらされる」と、危機感を抱く県民は少なくない。彼らは、沖縄における軍事力の増強に不安を感じるが、一部の人たちは、基地の存在そのものに否定的だ。
一方で、中国の軍拡と台湾への強硬な「統一」圧力を見せつけられ、沖縄周辺の海が「中国の海」になりかねないと懸念する人も多い。戦争を抑止するには軍事力のバランスが不可欠であり、米軍の存在と自衛隊の増強もやむなしとする考え方が、軍事アレルギーの強かった沖縄でも、若い世代を中心に広がりつつある。
中国の強硬な外交方針は、日本の国内政治にも大きな影響を及ぼしている。
昨年11月以降、高市首相の「台湾有事」に関する国会答弁を発端として、日中関係は急激に悪化し、中国政府による「対日制裁」が続く。
「制裁」の目的は、日本国民の間に「高市批判」を広げることだった。だが、中国の高圧的な姿勢が目立ったため、高市ファンが少なかった沖縄ですら、中国への反発が強まり、穏健な県民からも、「高市頑張れ」との声が出たほどだ。
2月8日の総選挙では、他の地域同様、沖縄でも自民党が圧勝したが、中国ファクターこそが、高市人気を異常に押し上げた最大の要因だったのではないか。
なぜ沖縄県民は反中感情を抱くのか①:反日暴動と尖閣問題
沖縄に、数百年にわたって中華文化が流入して定着したこともあり、中国に親近感を抱く県民は多かった。
ところが、2012年に状況は一変する。当時の野田民主党政権が尖閣を国有化した直後に、中国国内で暴力的な反日デモが荒れ狂う。しかも、中国政府は「すべての責任は日本にある」として、破壊行為を止めなかった。
沖縄では、政治的暴力を嫌う伝統がある。民衆の暴走を止めるどころか、容認する中国政府の姿勢に県民の多くがショックを受け、中国への信頼は一挙に失われた。
中国の尖閣諸島への対応も、県民感情を逆なでする。同諸島は、石垣市の一部であり、沖縄県域に属する。だが、中国は「尖閣は自国の領土」と主張し、海警局所属の公船を日常的に尖閣周辺に送り込む。

尖閣領海に侵入した中国海警船(奥)と対峙する海保巡視船(手前) 提供:第十一管区海上保安本部
5トン程度の小型の沖縄漁船は、海警の大型船(3,000~5,000トンと推測される)による大波を受ければ沈没する恐れがある。そのため、石垣などの漁民は、高級魚が豊富な尖閣海域での漁を諦めざるを得ない。中国に対する怒りは強い。
なぜ沖縄県民は反中感情を抱くのか②:中国人と中国系企業の行動
中国人や中国系企業の行動も、沖縄県民の中国嫌いを増やしている。
沖縄を訪れる中国観光客は、ゴミのポイ捨てなどマナーの悪さが目立つ。しかも、中国の旅行会社が団体旅行をアレンジし、中国人が経営する店に案内することが多く、沖縄の業者が得る利益は少ない。一時は、偽造の運転免許の使用、白タク(違法タクシー)の利用などの違法行為も横行するなど、中国人観光客のイメージは悪い。
沖縄を訪れる外国人観光客の中では、台湾人が圧倒的に多く、中国本土からの観光客は台湾人の3分の1強にすぎない(2025年)。そのため、中国政府による(沖縄を含む)日本への渡航自粛が与える沖縄観光への打撃は限定的だ。業界からは、「来なくてよい」との強気の言葉も出る。
そのうえ、中国人富裕層が高級住宅を買収し、それに伴って閉鎖的な中国人コミュニティが形成されていることも重なり、県内に中国人への警戒感が広がっている。
かつて、沖縄県庁や経済界は、中国経済の活力を取り込めば、沖縄経済を活性化できる、との期待があった。だが、日本本土や外国から投機マネーが大量に流入して、県内の地価が高騰し、一般県民は土地を買えなくなった。今では、地元経済界は、中国からの投資には慎重だ。
この数年、中国当局との関係が噂される台湾マフィア(竹聯幇)が、沖縄の暴力団、旭琉会と関係を深めていることにも、不気味さを感じる人がいる。
なぜ沖縄県民は反中感情を抱くのか③:「琉球地位未定論」
一部の中国人学者らによる「沖縄は中国の一部」との主張には、憤慨する県民が多い。かつて琉球王国は中国(明と清)の朝貢国(衛星国)ではあったが、中国の領土になったことはない。独立した王国であったことは、沖縄人の誇りである。
さらに、中国メディアに盛んに登場する、「沖縄の帰属は未定であり、日本に返還されるべきではなかった」とする「琉球地位未定論」に対しても、ほとんどの県民は冷ややかだ。
その背景には、終戦後の米軍統治によって深刻な人権侵害に直面し、約20年にわたって熱烈な「祖国復帰運動」を展開して「本土復帰」を実現した、県民の苦難の歴史がある。「日本に返還されるべきではなかった」という説は、到底受け入れられない。
復帰後、米軍基地の大幅削減は実現しなかった。県民の間に、過重な基地負担への不満がくすぶる。それでも、日本に復帰して「良かった」と感じる人が多数を占める。
中国による「沖縄工作」とは①:「琉球独立運動」との連携
中国は、基地負担によって生じる沖縄と本土の間の心理的な溝に着目し、「沖縄工作」を仕掛ける。その狙いは、日米同盟の「要石」とされる沖縄で、反本土・反基地感情が広がることだ。
2013年設立の「琉球民族独立総合研究学会」(以下「独立学会」)は、「沖縄工作」の対象の一つだ。このグループは、琉球民族は日本人とは異なる民族であると主張する。1879年に日本による琉球王国の解体・併合、いわゆる「琉球処分」を、植民地化の歴史と認識し、「独立」してこそ、本来の「琉球」の姿がよみがえるとする。
中国政府直轄の研究機関である社会科学院日本研究所(所長:楊伯江氏)などが、「独立学会」との「学術交流」を行なってきた。だが、県内での「独立」の支持率は3%程度(「沖縄タイムス」2022年5月12日)に過ぎず、県民の間で話題にもならない。

東京開催の国際会議に出席した社会科学院日本研究所・楊伯江所長撮影:筆者
「琉球処分」から約150年がたち、自らを「日本人」であると感じる県民が圧倒的に多いからだ(反面、「沖縄人アイデンティティ」もまた非常に強いのだが)。
核大国や独裁政権などがひしめく東アジアには、地政学上のリスクもある。不安定な地域における小国の「独立」は、多くの県民には危うい「夢」に見える。
沖縄の人々は、「地元の民意」と「自己決定権」を主張し、本土政府と対峙してきた。だが、「台湾人の民意」を無視して「台湾併合」を公言する中国が、なぜ沖縄に接近するのか。大国の怪しげな思惑を感じ取る人もいる。
中国による「沖縄工作」とは②:玉城県知事と鳩山元総理
「平和・地域外交」を掲げる玉城デニー沖縄県知事も、「工作」の対象だ。2023年7月に同知事の中国訪問時には、李強首相との会談にも招かれたが、訪問団約80人のうち、同首相と直接言葉をかわしたのは、国際貿易促進協会の河野洋平会長と玉城知事だけであった。

2023年7月13日中国訪問直後の沖縄県知事定例記者会見
出典:沖縄県HP
同知事は、中国側による異例の厚遇に舞い上がったようだ。「平和・地域外交」のパフォーマンスを重視する玉城氏にとって、中国の下心を見極めるのは難しい。
一方、玉城知事は、台湾との交流には消極的だ。台湾訪問の直前に、中国大使館からけん制されて腰が引けた。結局、経済団体との交流にとどめ、台湾メディアなどから「親中派」のレッテルを貼られる。これでは、「平和外交」は看板倒れだ。
「友愛」を掲げて「東アジア共同体」をめざす鳩山由紀夫元首相も、恰好のターゲットである。鳩山氏は、「台湾は中国の内政問題であり、日本が関わってはならない」と力説し、中国を喜ばせる。彼は、台湾が自力で民主主義体制を築いたことには無関心だ。
同元首相は、2014年4月には「東アジア共同体研究所 琉球・沖縄センター」を那覇市に開所し、沖縄と中国との懸け橋を構想するが、支持する県民は少ない。
同氏は、2009年秋の首相就任時に、海兵隊の普天間飛行場を「最低でも県外」に移設すると宣言し、辺野古への移設を否定した。ところが、代替案の目途が立てられず、迷走した挙句に辺野古移設案へと舞い戻る。
県民の熱狂的な期待は裏切られた。同首相(当時)が沖縄県知事に「辺野古への回帰」を伝えるために県庁を訪れた時、多くの県民から罵倒された。現場に駆け付けた県民は、「石を投げつけられた首相を始めて見た」と回想する。
沖縄では、「独立学会」や鳩山元首相の影響力はほとんどない。タレント出身の玉城知事は、人気は抜群だが、世論を動かす政治力はない。中国は、沖縄の事情をつかみそこねて、「工作」は空振りに終わっているようだ。
中国はなぜ沖縄県民感情を誤解するのか
中国指導層や有識者が沖縄を誤解する背景には、日本メディアやリベラル系有識者の「沖縄観」があると考えられる。
普天間基地の代替施設の建設を阻止しようと、工事現場の「辺野古」に座り込む人たちがいる。現在では、座り込み参加者のほとんどは、県内各地や日本本土から集まった活動家たちであり、地元の人たちではない。

辺野古工事現場近くの活動家テント村 撮影:筆者
活動家たちは、地域の人々とは交流しない。座り込みによって生活道路が通行止めになり、地元住民に迷惑をかけることも多いが、「正義」を振りかざす活動家たちはお構いなしだ。地元コミュニティにとって、彼らは「招かれざる客」である。
ほとんどのメディアは、この事実を報道せず、「身体を張って権力に抵抗する市民たち」と、彼らを「英雄視」してきた。故大江健三郎氏や宮崎駿氏、吉永小百合氏、故坂本龍一氏など、多くの有名人も「辺野古反対運動」を支持したことで、中国の学者たちが、この座り込みを「沖縄を象徴するすばらしい運動」と思い込んでも不思議ではない。
また、辺野古反対派「オール沖縄」勢力は、中国による人権抑圧や台湾に対する威嚇を非難しない。中国を非難すれば、「中国脅威論」の肯定につながり、抑止力としての米軍基地が必要かどうかの議論が避けられなくなる。「オール沖縄」の存立基盤を揺るがしかねない議論を嫌い、中国問題をスルーするのである。
しかし、県民の大半は中国に対して批判的だ。「オール沖縄」の姿勢は、県民世論から乖離しているが、そのギャップは中国からは見えにくい。
また、沖縄には中国や台湾の専門家がほとんどいないため、沖縄のメディアは中国問題を取り上げにくい。中国情報を求める人々はSNSに頼る。結果として、「中国を叩けばよい」とする、情緒的な右寄りの主張に同調する人が、沖縄でも増えてきた。
中国の台湾に対する軍事的圧力が強まるほど、東アジア情勢の緊張は高まる。沖縄の人々が、「台湾有事」抑止を冷静に議論するには、中国と台湾に関する詳細な情報と専門的な分析が必須だ。沖縄の大学は、是非、中国・台湾の専門家を養成してほしいものだ。
トップ写真)駐日中華人民共和国大使館 撮影:筆者




























