「ガソリンや電気代補助に3兆円」より 省エネ機器更新と原発再稼働の加速を
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【本稿のポイント】
・経産省の省エネ補助は給湯省エネ事業570億円、家庭用蓄電池事業54億円、CEV補助金1,100億円。月4,500億円のガソリン補助との規模差が圧倒的。
・通常のHEV(ハイブリッド車)はCEV補助の対象外。化石燃料消費削減の効果が大きいにもかかわらず、政策の盲点となっている。
・GX経済移行債は10年間で20兆円規模の発行枠を持ち、フレームワークは22分野を資金使途に明示。EVバッテリーや水素ガスタービンへの追加も検討中。
政府は中東情勢の混乱長期化を受け、2026年度補正予算案の規模を3兆円程度とする方向で調整に入った。7〜9月の電気・ガス料金補助とガソリン補助の継続が柱となる見通しだが、巨額の財政資金を電気代の価格抑制に注ぎ続けることが本当に正解なのか。国民はインフレで節約に走り、高齢者ならずとも電気代を気にしてエアコンのスイッチを押すのをためらっている。今こそ補助金から省エネへ、財政出動の中身を切り替えるべきだ。原発再稼働も加速すべきである。
3兆円補正、何に使われるのか
政府は2026年度補正予算案の規模を3兆円程度とする方向で調整に入った。7〜9月の電気・ガス料金補助の財源として2026年度当初予算の予備費から5,000億円規模の支出を検討、補正で予備費を積み増す案が有力だ。ガソリン補助も継続する方向で、6月上旬の国会提出を予定する。財源は赤字国債で賄う見通しだが、金融市場の財政悪化懸念を受けて発行額をどの程度圧縮できるかが焦点となる。
ホルムズ海峡が事実上封鎖されているため、原油・LNG価格の上昇が電気・ガス料金に6月から影響し始める。政府は昨夏、電気・ガス料金補助に予備費から2,881億円を充てたが、今夏は大幅に超える財源が必要とみられる。高市早苗首相は5月18日の政府与党連絡会議で、「昨年夏の料金水準を下回るような支援を行う」と表明している。
こうしたなか、国民民主党の玉木雄一郎代表は19日の定例会見で、約3兆円規模の補正を求めた上で、月4,500億円規模のガソリン補助を漫然と積み続けることに「ただただ月4,500億円を投入していくことも、また限界が来ている」と述べ、出口戦略の必要性を強調した。
なぜ政府は「省エネ」を言わないのか──ホルムズ危機を契機にすべきだ
政府は景気への悪影響を恐れてか、「省エネに転換しよう」とは言わない。しかし、ガソリン補助や電気・ガス代補助をいつまでも続けていては財源がいくらあっても足りないのは自明の理だ。
それよりは、このホルムズ危機を省エネを加速される契機とすべきではないか。日本は2回のオイルショックを乗り越え、省エネを推進してきた過去がある。
資源エネルギー庁「エネルギー動向(2025年6月版)」によれば、家庭部門のエネルギー消費は2005年度から2023年度にかけて433PJ(ペタジュール:熱量やエネルギーの大きさを表す単位)減少した。日本全体が消費する年間エネルギーの約3.5%分にあたる。主な原因は省エネ性能の高い家電製品の普及である。機器更新は実際に成果を上げてきた。にもかかわらず、現下の補正予算議論で「省エネ」が中心テーマに据えられていないのは、政策設計として明らかにバランスを欠いている。
何兆円も使うなら、どこに財政出動を振り向けるべきか
経済産業省はすでに省エネ・電化への補助制度を整備している。問題は、燃料補助との規模差が大きすぎることだ。
第一に、ガソリン車からHEV(ハイブリッド車)への買い替え補助である。クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)はBEV(電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)などを対象に2026年度予算約1,100億円が措置されているが、通常のHEVは対象外だ。しかしガソリン車を一気にBEVに置き換えることは非現実的である。充電設備がまだ十分普及していないからだ。しかし、HEVへの乗り換えだけで燃費はおおむね2倍前後に改善する。月4,500億円のガソリン補助の一部をHEV普及に振り向ければ、補助の終了後も恒久的にガソリン消費は減る。
第二に、高効率給湯器への更新支援である。給湯は家庭エネルギー消費のおよそ3割を占める。経済産業省は「給湯省エネ2026事業」(令和7年度補正予算、総額570億円)でエコキュート1台あたり基本7万円、最大14万円の補助を実施している。だがその570億円は、月4,500億円のガソリン補助のわずか8分の1に過ぎない。ガス給湯を続ける家庭向けには、従来型をエコジョーズ(ガス消費を約10〜15%削減)へ更新する支援も拡充すべきだ。
第三に、家庭用蓄電池への補助である。「DR家庭用蓄電池事業」も令和7年度補正予算で54億円程度が措置されている。だが2025年度予算は数ヶ月で消化されており、需要に予算が全く追いついていない。蓄電池は太陽光発電と組み合わせれば家計の電気代を恒久的に下げ、電力需給ひっ迫時に放電する「ディマンド・リスポンス(DR)」は、巨額の発電所建設を不要にする「見えない発電所」でもある。54億円という規模は、月4,500億円のガソリン補助の約83分の1である。
第四に、エアコン・冷蔵庫など省エネ家電への買い替え補助である。資源エネルギー庁「機器の買換で省エネ節約」によれば、近年の省エネ型冷蔵庫は10年前と比べ約21〜30%、省エネ型エアコンは約14%の省エネ効果がある。家電買い替えへの国の直接補助制度は乏しく、自治体ごとの取り組みに委ねられているのが実情だ。
要するに、政府は省エネ・電化への補助をやってはいるが、その規模が小さすぎるのだ。月4,500億円のガソリン補助、夏3か月で1.35兆円規模の電気・ガス補助に対し、給湯省エネ570億円、家庭用蓄電池54億円、自動車CEV補助1,100億円——これでは燃料消費の削減につながらない。3兆円の補正を組むなら、この予算配分そのものを根本から見直すべきである。
5月19日の会見で本誌・安倍編集長が「化石燃料から離れ、省エネ推進の契機にすべきではないか」と問うと、玉木代表は同意したうえで、「単に今の制度を前提に補助を積み増していくのではない。エネルギーの転換とか省エネとか、そういったものも含めて、トータルとしてエネルギーコストが下がるところに効果的に財政出動を使っていくべきだ」と述べた。野党に言われるまでもなく、政府が率先して旗を振るべき課題である。
なぜ原発再稼働を加速すべきなのか
省エネと並行して進めなければならないのが、安定した国産(準国産)電源の確保、すなわち原発再稼働の加速である。2025年2月18日に閣議決定された第7次エネルギー基本計画は、2040年度の電源構成として再生可能エネルギーを4〜5割程度、原子力を2割程度と位置付け、原子力の「最大限活用」を明記した。しかし現実の原発再稼働のペースは遅々として進まない。ホルムズ海峡の事実上の封鎖が現実となった今、化石燃料依存リスクはもはや机上の議論ではない。電気代の安定にも、原発再稼働の加速は不可欠である。
GX経済移行債20兆円との「ねじれ」をどう解消するか
政府は2050年カーボンニュートラルに向け、すでにGX経済移行債(クライメート・トランジション利付国債)を10年間で20兆円規模発行する枠組みを動かしている。世界初の国によるトランジション・ボンドであり、償還財源は2028年度導入の化石燃料賦課金と2033年度からの発電事業者への有償オークション収入で賄う設計だ。
2025年6月改訂のフレームワークは、水素・アンモニア、次世代再エネ、蓄電池サプライチェーン、次世代革新炉、省エネルギー、次世代自動車など22分野を資金使途として明示。EVバッテリーや水素ガスタービンへの追加も検討されている。
ところが現実の補正予算は逆を向いている。3兆円の補正で化石燃料の価格を抑え、消費を温存する構造を維持する一方、脱炭素・省エネ・電化への20兆円の枠組みは補正予算の議論と分離されたままだ。このねじれは早急に解消されるべきである。化石燃料補助を縮減した分の財源をGX経済移行債のフレームワークと整合的な分野に振り向ければ、補正予算とGX政策の方向性は一致する。
補助金で短期の痛みを和らげるだけでなく、エネルギー消費そのものを減らし、国産電源比率を高める──この二正面で構造を変えてこそ、真の電気代対策であり、エネルギー安全保障である。3兆円の使い道を、もう一度考え直すときだ。
【よくある質問(FAQ)】
Q. 化石燃料賦課金とは何か?
A. GX推進法に基づき2028年度(令和10年度)から導入予定の制度。化石燃料の輸入事業者等に対し、輸入する化石燃料に由来するCO₂排出量に応じた金額を賦課する。GX経済移行債の償還財源となる。徴収事務はGX推進機構が担う。
Q. 家庭の電気消費はどの用途が多いか?
A. 資源エネルギー庁のエネルギー動向によれば、家庭部門のエネルギー消費は動力・照明他、給湯、暖房、ちゅう房、冷房の5用途に分類される。動力・照明他のシェアが最も大きく、給湯がこれに次ぐ。
Q. GX経済移行債とは何か?
A. GX推進法に基づき2024年2月から発行が始まった国債で、個別銘柄として「クライメート・トランジション利付国債」が発行される。10年間で20兆円規模の発行を予定し、官民あわせて150兆円超のGX投資を呼び込む。償還財源は2028年度導入の化石燃料賦課金と2033年度からの発電事業者への有償オークション収入。所管は内閣官房GX推進室、金融庁、財務省、経済産業省、環境省の5府省。
Q. 第7次エネルギー基本計画における原発(原子力)の位置付けは?
A. 2025年2月18日に閣議決定された同計画では、2040年度の電源構成として原子力を2割程度、再生可能エネルギーを4〜5割程度と位置付け、原子力の「最大限活用」が明記された。
関連リンク
- 第7次エネルギー基本計画が閣議決定されました(経済産業省)
- GX経済移行債発行に関する関係府省連絡会議(内閣官房)
- 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案(経済産業省)
- クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(経済産業省)
- 給湯省エネ2026事業(経済産業省)
- 令和7年度補正 DR家庭用蓄電池事業(環境共創イニシアチブ)
- 機器の買換で省エネ節約(資源エネルギー庁)
- エネルギー動向(2025年6月版)第1章第2節 部門別エネルギー消費の動向(資源エネルギー庁)
トップ写真:都内のガソリンスタンドのガソリン価格表示版(2026年5月)ⒸJapan In-depth編集部
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。












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