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.政治  投稿日:2026/6/1

「頑張って稼いだら手当が消えた」──障害児を育てる家族を直撃する”逆転現象”、国民民主が撤廃法案を再提出 


安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)

■本稿のポイント

・世帯年収1000万円の共働き夫婦は手当を受給できるが、世帯年収900万円の片働き夫婦は受給できない。1964年創設の制度がそのまま放置されてきた結果だ。

・岸田政権が2024年に一般の児童手当の所得制限を撤廃した際、より困窮している障害児への手当は対象から外れた。

・国民民主党が財源330億円の撤廃法案を参議院に提出しているが、厚労省・政府の動きは「全然ない」。

国民民主党の小林さやか参議院議員は2025年3月、障害児への手当に課された所得制限の撤廃法案を参議院に提出した。この制度は1964年創設のまま放置されており、家族の誰か一人の所得が制限ラインを超えると支給が停止されるため、共働き世帯が片働き世帯より不利になるという逆転現象が生じている。財源は約330億円にすぎないが、政府・厚労省の動きは依然として見られない。(Japan In-depth編集部)

👉対談の全編動画はこちらhttps://www.youtube.com/live/v2rhnIMy1EM?si=F7hh1otBIqmzHpxu

60年前の法律が今も生きている

問題の核心は制度の「古さ」にある。障害児を持つ家庭への手当には大きく2種類ある。一つは比較的障害の程度が重い子ども本人に支給される「障害児福祉手当」、もう一つは保護者が受け取る「特別児童扶養手当」だ。いずれも一定以上の所得があると支給が止まる仕組みになっているが、この制度の原型ができたのは1964年(昭和39年)のことだ。

東京オリンピックの年である。高度成長の真っただ中、専業主婦が「当たり前」だった時代に設計されたルールが、令和の今もほぼそのまま残っている。

共働きより専業主婦世帯の方が「お得」という逆転

この制度が生み出す最大の歪みは、働き方次第で支給の可否が逆転するという点だ。所得制限は「世帯年収」ではなく、「家族の中の誰か一人」が限度額を超えた時点で支給停止となる。小林議員はこう説明する。たとえば夫婦がそれぞれ年収500万円ずつ稼ぐ共働き世帯(世帯年収1000万円)の場合、お互いの個人所得は制限ラインを下回るため、手当は支給される。ところが妻が専業主婦で、夫の年収が900万円という世帯(世帯年収900万円)では、夫一人の所得が制限ラインを超えるため、手当は支給停止になる。世帯全体で見ると収入が少ない方が手当を失う。この「逆転現象」が現実に起きているのだ。

「誰か一人でもラインを超えたらダメという仕組みなので、共働きで頑張れば頑張るほど損をするという構造になっています」(小林議員)

就労意欲を奪う制度設計

この逆転現象が招く実害は、単なる「不公平感」にとどまらない。小林議員が有権者から聞いた話では、「本当はキャリアアップして給与を上げたかったが、所得制限に引っかかるので昇進を断った」というケースが後を絶たないという。前述の「部長になるのはやめてちょうだい」もその一例だ。

本来であれば昇給・昇進すれば税収も増えるはずだが、この制度がその意欲を阻害している。「働きたいのに働かせてもらえない制度になっている」と小林議員は指摘する。

さらに深刻なのは、所得制限が障害児福祉手当だけにとどまらないことだ。放課後等デイサービス(障害のある子ども向けの学童保育)の利用料も所得に応じて変わり、特別支援学校の就学奨励金も所得で変わる。一度、制限ラインを超えると、複数の支援がまとめて消えるという崖が待ち受けている。

「なぜ障害児の手当が置き去りにされたのか」

岸田政権下の2024年、一般の「児童手当」については所得制限が撤廃された。小林議員は当時NHKの記者として取材していたが、「てっきり障害児の手当の方が先に撤廃されると思っていた」と振り返る。どう考えても、より困窮している人たちだからだ。しかし実際には逆だった。

「少子化対策という旗印のもとで、”みんなに届ける”ユニバーサルな施策は通りやすかった。でも障害のある子を持つ家庭はパイが小さく、声が届きにくい。だから漏れてしまった」

「みんな」の網から漏れた人たちへの支援こそ、本来政治が率先すべき課題のはずだが、現実はその逆が起きた。

法案を再提出、しかし厚労省の壁は厚い

国民民主党は今年3月27日、この所得制限撤廃を盛り込んだ法案を参議院に提出した。昨年夏の参院選後に一度提出したものの、衆議院解散に伴い廃案になったため、今度は予算関連法案として仕立て直した再提出だ。

「財源は約330億円。決して大きな額ではありません。それでも厚労省の反応は…全然動かない」と小林議員は苦笑する。厚生労働大臣への質問でも、手応えはほぼゼロだという。

所得制限をかけるラインの引き上げすら実現していない。物価と賃金は上昇しているのに、制限ラインは1964年の設計からほとんど変わっておらず、かつてなら「引っかからなかった」所得層が今は対象に入ってしまっているという問題も生じている。

「しつこく言い続けるしかない」

国民民主党といえば、103万円の壁やガソリン暫定税率廃止など、「しつこく言い続けて実現させた」政策がある。小林議員は「壁が好きですね、と言われながらでも、言い続けることが大事」と語る。

まず目指すのは、①所得制限の完全撤廃、それが難しければ②制限ラインの引き上げ──という現実的な二段構えの戦略だ。

障害児を育てる家族が、「頑張れば頑張るほど損をする」制度の中で疲弊している現実がある。昭和の専業主婦前提で設計された法律を、令和の家族の実態に合わせて直す。それだけのことがなぜ60年経っても実現しないのか。小林議員は今日も国会でしつこく問い続ける。

対談の全編はこちら──「障害児手当の所得制限撤廃、なぜ60年間放置されてきたのか」

本記事で扱った障害児福祉手当の所得制限撤廃の議論は、Japan In-depthチャンネルでの小林さやか参議院議員と安倍宏行編集長による対談(2026年5月29日配信)の一部である。本編動画では、「所得制限撤廃にとどまらない、障害児・家族を取り巻く制度的課題の全体像」が議論されている。

👉動画を視聴する 

なぜ親の年収で線引き? 障害児支援「所得制限」を撤廃せよ|国民民主党小林さやか参院議員が登壇! https://www.youtube.com/live/v2rhnIMy1EM?si=1nYCnUu9Yn7kTctF

2026年5月29日(金)19:00〜ライブ配信。元NHK記者の小林さやか議員と安倍編集長が、障害児福祉手当の所得制限・18歳の壁・放課後ケアの地域格差という3つの制度的課題を約1時間で深掘り。

本編動画で語られた他の主な論点:

・「18歳の壁」問題(14分~)ーー障害のある子が18歳になると放課後等デイサービスが使えなくなり、親が突然仕事を続けられなくなる実態

・地域格差の深刻さ(23分~)ーー千葉県内でも都市部と房総では施設数に大きな開きがあり、複数施設を掛け持ちせざるを得ない家庭の現状

・子育て支援は「福祉」ではなく「投資」(39分~)ーー国民民主党が訴える、所得制限撤廃を子育て全般の社会投資として捉え直す考え方

■ よくある質問(FAQ)

Q1: 障害児福祉手当と特別児童扶養手当はどう違うのか? 

A: 障害児福祉手当は比較的障害の程度が重い子ども本人に支給されるものです。一方、特別児童扶養手当は障害のある子どもを育てる保護者が受け取るものです。どちらも所得制限の対象となっており、国民民主党の法案はこの2つを撤廃対象としています。

Q2: なぜ共働き世帯が片働き世帯より不利になるのか? 

A: 所得制限が世帯年収ではなく、家族の中の誰か一人の個人所得を基準にしているためです。夫婦それぞれ500万円(世帯年収1000万円)なら支給されますが、夫一人が900万円(世帯年収900万円)を稼ぐ片働き世帯は支給停止となります。より多く稼ぐ世帯が手当を受け取れるという逆転現象が生じています。

Q3: なぜこの制度は60年以上改正されてこなかったのか?

A: 制度が設計された1964年当時は専業主婦が前提の社会であり、共働き世帯の増加を想定していませんでした。また所得制限のラインも当時からほとんど変わっておらず、物価・賃金の上昇により、かつては対象外だった所得層が今や制限に引っかかるケースも増えています。

Q4: 一般の児童手当の所得制限は撤廃されたのに、なぜ障害児の手当は置き去りにされたのか? 

A: 岸田政権が2024年に児童手当の所得制限を撤廃した際、「少子化対策」というユニバーサルな旗印のもとで「みんなに届ける」施策が優先されました。障害児を持つ家庭はより困窮しているにもかかわらず、対象人数が少なく声が届きにくいため、結果的に網から漏れてしまいました。

Q5: 撤廃に必要な財源はどのくらいで、実現の見通しはあるのか? 

A: 必要な財源は約330億円と比較的小規模です。国民民主党は2025年3月に予算関連法案として参議院に提出しましたが、政府・厚労省の動きは現時点では見られません。同党はまず所得制限の完全撤廃、それが難しければ制限ラインの引き上げという二段構えの戦略で、引き続き国会での働きかけを続けています。

関連リンク(一次情報)

👇法案

国民民主党「特別児童扶養手当等支給法案」ほか3法案提出(2026年3月27日) https://new-kokumin.jp/news/diet/20260327_2

👇制度

特別児童扶養手当について|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jidou/huyou.html

👇党の政策方針

国民民主党 政策各論「人づくりこそ国づくり」 https://new-kokumin.jp/policies/specifics/specifics3 




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