少子化と孤立に挑むーーーネウボラ議連発足の意味
本田路晴(フリーランス・ジャーナリスト)
■本稿のポイント
・日本の少子化は出生数70万人割れ、虐待死70人前後という深刻な状況にあり、核家族化と地域の孤立が問題を悪化させている。
・妊娠期から家族を継続支援するフィンランドの制度「ネウボラ」を参考に、日本でも超党派の「ネウボラ議連」が発足した。
・東京都は「アーリーパートナーシップモデル事業」を通じ、保健師らが妊娠初期から出産後まで継続支援するネウボラ型支援を先行導入している。
・少子化対策には経済支援だけでなく、「孤立防止」「伴走型支援」という視点が不可欠である。
出生数の減少と虐待死の増加が続く日本では、核家族化と地域のつながりの希薄化により、子育て家庭の孤立が深刻化している。こうした状況を受け、妊娠期から家族を継続的に支えるフィンランドの「ネウボラ」制度を参考にした超党派の「ネウボラ議連」が発足した。本稿では、ジャーナリスト・本田路晴氏が、ネウボラ導入の意義と、日本の少子化・孤立問題に対する政策転換の必要性を読み解く。(Japan In-depth編集部)
出生率70万人割れ、毎年約70人前後に及ぶ虐待死。少子化をキーワードに検索すると、ネガティブな言葉ばかりが並ぶ。
核家族化が進み、地域のつながりも薄れている。このまま放置すれば、更なる子どもの虐待死にもつながりかねない。安心して子どもを育てられる環境整備は急務だ。
安心して子どもを育てられる社会の実現を目指す「妊娠期から家族を社会で支える議員連盟(ネウボラ議連)」が今月13日、発足した。
■ネウボラとは何か
議連の正式名称の後に括弧付きで記される「ネウボラ」は、フィンランド語で「助言の場」を意味する。
妊娠期から就学前まで、子どもと家族を切れ目なく支援する制度で、専門教育を受けた保健師や助産師が「かかりつけ」として一家族を継続的に担当する。同一の担当者が継続して支援を行い、育児不安や産後うつといった妊婦本人の問題だけでなく、家庭内暴力(DV)や経済的困窮にも目を向け、必要な支援へつなげる「伴走型子育て支援」が特徴だ。
歴史は古く、1922年に首都ヘルシンキで始まった。当時のフィンランドは1917年にロシアからの独立を果たしたものの、翌18年に内戦が勃発するなど経済状況はどん底で乳児の死亡率も高かった。フィンランド政府による母子救済が進まない中、小児科医のアルヴォ・ユルッポ氏と看護師、助産師たちでネウボラが考案された。1944年までに300箇所のネウボラが設置され、制度化されると、フィンランドの乳児死亡率は大きく改善したという。
同議連の発起人で会長に就任した長島昭久衆議院議員は10年前にフィランドを訪れた際にネウボラを知り、日本への導入を模索してきた。フィンランドでは子育て世代の98%がネウボラを利用し、一世紀にわたり浸透しているため、ネウボラを巡る世代間の対立もないという。
■東京都が進める「ネウボラ型支援」
ネウボラ議連設立総会では、東京都医学総合研究所・社会健康医学研究センター長の西田淳志氏による講演も行われた。講演では、東京都が進める25歳以下の初産婦を対象に、妊娠初期から出産後約1年まで、保健師ら同一自治体職員が継続支援する東京都の「アーリーパートナーシップモデル事業」が紹介された。
「問題が起きてから相談」、「虐待が起きてから介入」という従来型の発想を転換し、家庭訪問などを通じた積極的アプローチによって、ネウボラ理念に倣う妊娠期からの家庭支援を目指している。
西田氏によれば、虐待による死亡事例では0歳児の割合が高く、その多くが生後三カ月までに集中しているという。妊娠期からの支援がなければ出産直後から起きる虐待も止められない。
約1430万人の人口が密集する東京都では子育ても過酷だ。地方以上に核家族化が進んでいるので、周囲に助けてくれる親類もいない。西田氏が「子どもを親だけで育てるのは不可能」と語ったように、産後うつや児童虐待を未然に防ぐためにも、子育て家庭への支援は喫緊の課題となっている。
同事業は都内30以上の自治体で導入が始まっている。母親に心理的ゆとりが生まれ、従来型支援を受けた母親に比べ、産後うつの割合も大きく減少したという。
妊婦を問い詰めるように問題点を洗い出す従来の支援ではなく、まずは継続的な対話を通じて信頼関係を築くことが重視されている。一歳までの虐待通告事例のうち、妊婦面接で支援が必要とされなかった場合の割合(見逃し率)が高かった反省などがある。
同モデル事業支える伴走型子育て支援を実現するため、専門人材の養成にも力点が置かれ、113時間の専門人材研修プログラムも用意されている。
■ネウボラ導入を拒む人材不足
東京都のモデル事業は先駆的な試みとして注目される。しかし全国レベルで見ると、ネウボラ型の伴走支援を本格的に導入するには大きな壁がある。最大の課題は、人材不足だ。
2024年12月18日の地域・子ども・デジタル特別委員会で、野党議員から、フィランドのネウボラの例に倣い、日本にも助産師ら専門家による伴走型子育て支援が必要ではないかと問われた三原じゅん子こども政策担当大臣(当時)はネウボラの良さは認めつつも、「市町村の保健師は約3万人いても、母子保険以外にも、高齢者保健や障害者保健も担当している。母子保健に詳しい助産師さんは約千五百人、市町村に配置されている人数が千五百人しかいない」と答弁、フィンランド型ネウボラのような「かかりつけ型」の伴走支援を全国展開するには、専門人材が不足している現状を素直に認めた。
伴走型支援の理念については岸田政権の「出産・子育て応援交付金」の中で、無料の妊婦への継続相談が導入された。妊娠届出時、妊娠八カ月前後、出産後の計3回にわたり、保健師、助産師などが面談する仕組みだが自治体によっては委託事業として外部に丸投げしているところもあり、「毎回相談員が違う」、「安心して悩みを打ち明けられない」などの苦情も寄せられている。
フィンランドで成功した、母子と家族に対する支援を継続し行うネウボラの日本導入を掲げる同議連設立の背景には。出産の無償化などの経済的支援だけでは現在の少子化は止められない、という議員たちの危機感がある。
少子化の要因にしても経済的困窮だけで片付けられない。子育てに伴う孤立や地域共同体の弱体化も、無視できない要因となっている、ネウボラ型支援は、妊娠段階から行政や地域が継続的に関わることで、「困った時に相談できる」「孤立しない」という安心感を提供できる点が重要視されている。また、虐待死についても、「事後対応」でなく「予防」へと発想転換できれば、防げる可能性は十分にある。
ネウボラ型支援が全国の自治体で展開されるようになれば、多くの困難を経て生まれてきた子どもたちが、より守られる社会につながるかもしれない。従来の現金給付中心の少子化対策に加え、「社会的孤立の解消」という視点を政策に取り込もうとするネウボラ議連の視点には注目すべきものがある。その理念を実現するためには、伴走型支援を支える専門人材の育成を同時に進めていかなければならない。
■FAQ
Q1. 「ネウボラ」とは何か?
A1. フィンランドで1922年に始まった、妊娠期から就学前まで子どもと家族を継続支援する制度。保健師や助産師が一家族を継続担当し、健康管理・育児相談・家庭問題の早期発見などを行う「かかりつけ型支援」が特徴。
Q2. 「伴走型子育て支援」とは?
A2. 妊娠期から出産後まで、同じ支援者(保健師・助産師など)が継続的に家庭をサポートする支援方式。単発の相談ではなく、継続的な関係構築を重視し、産後うつ・虐待・孤立の予防につながるとされる。
Q3. 「アーリーパートナーシップモデル事業」とは?
A3. 東京都が導入しているネウボラ型支援モデル。25歳以下の初産婦を対象に、妊娠初期から出産後約1年まで同一職員が継続支援する仕組み。家庭訪問や相談を通じ、産後うつの減少などの成果が報告されている。
Q4. 「出産・子育て応援交付金」とは?
A4. 政府が導入した支援制度で、妊娠届出時・妊娠8か月前後・出産後の計3回、保健師や助産師との面談を行う仕組み。妊娠期からの継続相談を目的とするが、自治体によっては外部委託が多く、担当者が毎回変わるなどの課題も指摘されている。
写真)長島昭久・ネウボラ議連会長が設立総会で挨拶する(5月13日、衆議院第一議員会館
撮影)本田路晴
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この記事を書いた人
本田路晴フリーランス・ジャーナリスト
沖縄平和協力センター上席研究員。

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