「バズらんかなぁ」がつないだ日本製企業「推し活」の先に生まれた新たな連帯
中川真知子(ライター/インタビュアー)
中川真知子のシネマ進行」
【本稿のポイント】
・「日本製の覚悟店」には2日間で3000人が来場し、X経由の来場者は82.1%に達した。
・閉幕後、国産品を作る企業が「バズらんかなぁ」と自社の製品や技術を発信する流れが広がった。
・一過性の話題を商売と産業の継続につなげられるか。第二回開催に向けた動きが始まっている。
岡山県津山市の笏本縫製と、兵庫県多可町のコンドウファクトリー。SNSで出会った二人の経営者がハンカチの”推し活”を仕掛けてから、約10カ月。あの挑戦は、その後どんな景色にたどり着いたのか。東京・有楽町の会場で交わされた言葉と、閉幕後もやまなかった動きを、映画・エンタメ分野を中心に活躍するライター・インタビュアーの中川真知子が追った。
以前、Japan In-depthで「推し活が地方工場を救った」と題し、播州織ダブルガーゼハンカチをめぐる物語を紹介した。
岡山県津山市でネクタイを製造する笏本縫製と、兵庫県多可町で播州織を手がけるコンドウファクトリー。廃業寸前の町工場を引き継いだ二人の経営者がSNSで出会い、生地の製造と縫製・販売を分担した。販売したハンカチは90分で1500枚が完売した。
記事の取材時、笏本縫製の笏本達宏社長は「私たちは失うものがありません」と語っていた。
地方の小さな工場が単独でできることには限界がある。それでも、職人同士がつながれば、新しい市場をつくれるかもしれない。前回の記事は、そんな可能性を追ったものだった。
あれから約10カ月。その挑戦は、一枚のハンカチを超えて広がった。
2026年7月3日と4日、東京・有楽町の東京交通会館で「日本製の覚悟店」が開催された。全国から集まった16社が、ネクタイ、衣類、革鞄、帽子、時計、布団、器、絆創膏などを販売した。

写真説明:「日本製の覚悟店」会場の様子。来場者は各ブースを巡り、商品だけでなく、その背景にある技術や思いにも触れていた 撮影:中川真知子
イベントは2日間で3000人を集め、開場前には約150人が並んだ。主催者によると、来場者の82.1%がXをきっかけに会場を訪れ、関連投稿は1万2000件を超えたという。
ただし、今回注目したいのは、イベント当日の盛況ぶりではない。
会場の扉が閉じたあと、日本製をめぐる発信がX上で続いていることである。
■「バズらんかなぁ」と名乗り始めた作り手たち
「みんな、なんでそんなバズってんの? うちもバズらんかなぁ」
イベント終了後、笏本縫製の公式Xに、そんな言葉が投稿された。
同じ頃、Xでは国内企業が自社の製品や製造工程を紹介し、「バズらんかなぁ」と呼びかける投稿が相次いだ。
国産の革鞄、縫製工場、ぬいぐるみ用バッグ、木工品。扱う商品も会社の規模も異なるが、共通していたのは、自分たちの仕事を知ってもらいたいという思いだった。日本製の覚悟店に出展した企業も、この流れに次々と加わった。
笏本縫製の中村圭吾専務は、「国産〇〇がめっちゃバズってる」とした上で、「これってもしや日本製の覚悟店が火付役になってる?」と投稿した。
「バズらんかなぁ」は、単なる流行語ではない。
これまで発信をためらってきた作り手が、「自分たちの仕事も見てほしい」と名乗るための、少し照れくさい合言葉になっている。
■職人は「伝えるのが苦手」だった
前回の取材で、筆者は笏本氏とコンドウファクトリーの近藤良樹氏に、職人は営業が苦手なのではないかと尋ねた。
高い技術を持ち、品質にも自信がある。それでも、製造の苦労や商品の価値を自ら語ることを格好悪いと感じる職人は少なくない。
笏本氏も「自分たちが良いものを作っている自信はあります。でも、それはあまり言いません」と認めていた。
問題は、作り手が黙っていても、消費者が商品の背景を読み取ってくれるとは限らないことだ。
価格だけを見れば、海外の大量生産品より高い。店頭に並んだ完成品からは、素材を作った人、縫った人、加工した人の姿までは見えない。
日本の製造業は分業によって発展してきた。一方で、その分業が細かくなるほど、製品の背景は消費者から見えにくくなった。
前回の記事で笏本氏は、繊維産業では上から流れてきた仕事を担うだけで、工程に関わる者同士が交流する機会も少ないと説明していた。近藤氏も、職人同士のつながりを作ることで、できることが増える事実を示したいと話していた。
日本製の覚悟店は、その分断を一時的に取り払った。
会場では、作り手が自ら売り場に立った。来場者は、商品を手に取り、なぜこの素材を選んだのか、どのように作ったのか、なぜこの価格になるのかを直接聞くことができた。

写真:来場者にバッグの特徴や背景を説明する「ヌノニシタイ」の中矢佳希代表取締役。日本製の覚悟店では、商品そのものだけでなく、作り手の思いや製造の背景を直接伝える光景が会場のあちこちで見られた 撮影:中川真知子
来場者アンケートには、当初は応援するつもりで来場したが、最後には「欲しいから買う」に変わったという趣旨の回答も寄せられた。主催者が掲げたのは、「日本製だから買ってほしい」ではなく、実際に見て、触れて、話した上で選んでもらうことだった。
ここに、前回の「推し活」と今回のイベントの違いがある。
推し活は、応援したいという感情から始まる。
しかし、事業を続けるためには、応援だけでは足りない。商品そのものが選ばれ、適正な利益が残り、次の生産につながる必要がある。

写真:会話が弾むICHORA+のブース 撮影:中川真知子
日本製の覚悟店は、「助けてください」と訴える場所ではなく、自分たちの商品が商売として通用するのかを試す場所だった。
■「出る杭」が並んだあとに残ったもの
主催者の発表によれば、出展企業の中には過去最高の売り上げを記録した会社、新たな商談につながった会社、SNSのフォロワーを大きく増やした会社があった。
なかには、売れなければ事業を続けられないと「最後の挑戦」のつもりで出展し、イベント後にもう一度挑戦しようと前を向いた企業もあったという。
ただし、これらは現時点では主催者側の総括であり、各社の売上額や継続的な受注状況が公開されているわけではない。
3000人が集まったことと、日本製企業の経営が安定することの間には、大きな距離がある。
SNSで一度注目されても、話題が消えれば売り上げも止まるかもしれない。注文が急増しても、小さな工場では生産が追いつかない。価格を抑えすぎれば、売れても利益が残らない。
前回のハンカチ販売でも、1500枚を用意したものの、サーバーが停止し、購入希望者全員に届けられないという課題が生まれた。笏本氏はその後、期間限定の受注販売を検討していると語っていた。
注目を集めることと、注文を受け止めること。
商品を売ることと、作り手が持続できる利益を残すこと。
この二つを両立できなければ、「バズ」は一時的な祭りで終わる。
その意味で、日本製の覚悟店の成否は、まだ定まっていない。
■第二回は、熱狂を仕組みに変えられるか
笏本縫製は、来場者から再開催を望む声が寄せられたことを受け、第二回の準備を始めると表明した。
第一回で見つかった課題として、運営体制、会場内の導線、在庫、情報発信を挙げている。X上では、第二回に向けて会場視察へ出発したことも報告された。
重要なのは、規模を大きくすることだけではない。
第一回で生まれた作り手と買い手の接点を、どう継続させるかである。
イベント会場では、作り手が商品の背景を直接説明できた。しかし、毎日イベントを開くことはできない。会場に来られなかった人もいる。購入後に別の商品を探したくても、16社を横断して見つけられる場所はまだない。
第二回を開催するだけでは、二日限りの熱狂を繰り返すことになる。
必要なのは、イベントの外でも作り手を知り、商品を選び、買い続けられる仕組みだろう。
前回、笏本氏と近藤氏が一枚のハンカチを通じて示したのは、地方の工場が単独で生き残る物語ではなかった。
異なる技術を持つ作り手がつながり、消費者がその過程に参加することで、新しい市場が生まれる可能性だった。
そして今回、「バズらんかなぁ」という言葉に呼応するように、日本各地の企業が自らの仕事を語り始めた。
これは、日本製が突然復活したという話ではない。
発信を苦手としてきた作り手たちが、ようやく声を上げ始めたという話である。
一枚のハンカチから始まった推し活は、16社が集まる場を生み、今度は会場の外にいる作り手たちを動かし始めた。
この流れが一過性の「バズ」で終わるのか。それとも、企業同士の連携と継続的な商売につながるのか。
「日本製の覚悟店」の本当の挑戦は、閉幕してから始まっている。

写真説明:イベント開始後に覚悟を見せる16社 撮影:中川真知子
よくある質問(FAQ)
笏本縫製とはどんな会社ですか?
岡山県津山市に本社を置く1968年創業の縫製会社です。2015年に自社ブランド「SHAKUNONE(笏の音)」を立ち上げ、代表取締役は笏本達宏氏が務めています。
コンドウファクトリーとはどんな会社ですか?
兵庫県多可郡多可町で播州織を手がける織物会社です。1961年に「近藤織布」として創業し、2013年に法人化。現在は3代目の近藤良樹氏が代表取締役を務めています。
播州織とはどんな織物ですか?
兵庫県播州地方の地場産業で、糸を先に染めてから織ることで柄を表現する先染め織物です。後から染色するプリント生地と異なり、色落ちしにくいのが特徴とされています。
「日本製の覚悟店」の問い合わせ先はどこですか?
主催の笏本縫製が窓口で、メールはinfo@shakumoto.co.jp、電話は0868-57-3577です(担当:笏本、中村)。
(リード、FAQは文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真:イベント開始前に覚悟を語る笏本縫製の笏本達宏社長 撮影:中川真知子
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この記事を書いた人
中川真知子ライター・インタビュアー
1981年生まれ。神奈川県出身。アメリカ留学中に映画学を学んだのち、アメリカ/日本/オーストラリアの映画制作スタジオにてプロデューサーアシスタントやプロダクションコーディネーターを経験。2007年より翻訳家/ライターとしてオーストラリア、アメリカ、マレーシアを拠点に活動し、2018年に帰国。映画を通して社会の流れを読み取るコラムを得意とする。

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