ペルーのフジモリ新大統領も「極右」なのか
執筆者:古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「小森義久の内外透視」1099回
■本稿のポイント
・フランスの公営テレビ「フランス24」は麻薬カルテルへの強硬姿勢や妊娠中絶反対などを理由にケイコ・フジモリ新大統領を「超保守」と特徴づけたが、筆者は日本メディアが同様に「極右」と呼ぶかどうかを問題提起する。
・フジモリ大統領はトランプ政権の「米州の盾」構想への参加表明、F-16戦闘機24機の購入決定、駐米大使館勤務経験者の外相起用など、親米路線を鮮明にしている。
・一方でペルーがこれまで進めてきた中国の一帯一路参画やチャンカイ港建設容認については縮小する意向を示しており、対米重視・対中距離化という外交姿勢の転換がみられる。
南米ペルーの新大統領ケイコ・フジモリ氏は、麻薬組織への強硬姿勢や保守的な社会政策から「超保守」と評され、トランプ政権との連携を強め、これまで密接だった中国との関係を縮小する構えをみせている。民主的な選挙で選ばれた指導者を安易に「極右」と呼ぶことの是非も問いながら、その政策の実像をジャーナリストの古森義久氏が読み解く。(Japan In-depth編集部)
◆「超保守」と呼ばれた新大統領――「極右」のレッテルは正当か
南米ペルーの新大統領にケイコ・フジモリ氏が就任して一ヵ月以上が過ぎ、新政権の政策が軌道に乗り始めた。ケイコ・フジモリ氏はいうまでもなく日系人のアルベルト・フジモリ元大統領の娘、ペルーでは初の女性元首である。さてこのフジモリ新大統領は内政、外交ともに保守志向、アメリカのトランプ大統領との親密な絆も築こうとする政策の骨格を明らかにしてきた。さてではこのフジモリ新大統領の保守志向を日本の主要メディアや識者は「極右」と呼ぶのだろうか。
フランスの公営テレビ「フランス24」はケイコ・フジモリ新大統領を「超保守」と特徴づけた。同氏が国内では麻薬カルテルや過激テロ勢力には断固たる武力対決でのぞみ、社会政策でも妊娠中絶への反対や家族の連帯の重要性を強調する保守志向が強いことに注目しての定義づけだった。
となるとイタリアのメロ―二首相やイギリスの新興保守政党に「極右」という短絡なレッテルを貼ってきた日本の主要メディアやそこに登場する一部識者たちはこのフジモリ大統領までも「極右」と断ずることになりそうだ。
だが民主的で透明な選挙で国民の多数派によって選ばれた国家や政府の元首が極端とか特殊を意味する「極」という表現で片づけられることが正当なのか。適切なのか。
そんな表現を使う側が極端な左傾であり、そうした「極左」の視点からみれば、中立でも中道でもみな「極端な右翼」となってしまうのではないか。フジモリ氏への同様のレッテル貼りはそんな疑念をも浮かびあがらせてしまうようなのだ。
◆4度目の挑戦で当選――親米路線を鮮明に
しかしケイコ・フジモリ氏の保守志向は疑いの余地がない。しかもアメリカのトランプ大統領への接近をみせているのだ。その一方でペルーがこれまでとってきた中国との交流を減らす構えをもみせている。
ケイコ・フジモリ氏は父親の跡を継ぐ政治指導者として大統領選への立候補を過去4回も試み、今回はその4回目の挑戦でみごとに当選を果たした。今回は社会主義に近い左派の対抗候補と決戦投票にいたるまで徹底して戦った選挙戦ではフジモリ氏の親米保守傾向が明白となった。
さらにフジモリ氏はトランプ大統領が今年3月に発足させた中南米諸国との治安維持や安全保障の連携網「米州の盾」にペルーも加わるという新政策を提示するようになった。同時にフジモリ新大統領は前政権時代から懸案だったアメリカ製のF16戦闘機24機の購入を決めて、トランプ政権を喜ばせた。さらにフジモリ大統領は自分の政権の外務大臣にペルーのアメリカ大使館に勤務していたカルロス・エスパ氏を登用して、親米の姿勢を顕著にした。
◆中国との距離を置く新政権
一方、ペルーはこれまで中国の一帯一路の構想に加わり、首都リマからもそう遠くないチャンカイ港に中国資本による大規模な港湾施設の建設をも認めてきた。アメリカ側からはこの港湾施設が将来、中国海軍の基地にもなりうるとして懸念が表明されていた。中国のペルーへの投資はその他にも広範であり。貿易面での両国の交流も広がっていた。
しかしフジモリ大統領はこうした中国との結びつきをも縮小する意向を述べて、トランプ政権への接近の基本を明確にしてきた。
フジモリ新大統領のこうした外交姿勢は明らかに中国よりもアメリカに、という基本を示している。しかもトランプ政権との連帯を目指している点ではペルーの新たな保守化と呼べるだろう。そんな変化がケイコ・フジモリ新政権下のペルーでは起きてきたのである。さて日本側のトランプ叩きに走る陣営がこの動きをにどう反応するか。その実態をみるのは楽しみである。
【よくある質問(FAQ)】
Q1:「米州の盾」とは何ですか?
A:トランプ大統領が今年3月に発足させた、中南米諸国との治安維持や安全保障面での連携を目的とした枠組みです。記事では、フジモリ大統領がペルーもこの枠組みに加わる意向を示したことが、親米路線の一例として紹介されています。
Q2:「一帯一路」とはどのような構想ですか?
A:中国が推進する広域経済圏構想で、インフラ整備などを通じて沿線国との経済的なつながりを強化するものです。記事では、ペルーがこれまでこの構想に加わり、中国資本によるチャンカイ港の建設を認めてきた経緯が紹介されています。
Q3:「チャンカイ港」とはどのような施設ですか?
A:ペルーの首都リマに近い港で、中国資本によって大規模な港湾施設が建設されました。
Q4:「フランス24」とはどのようなメディアですか?
A:フランスの公営国際ニュースチャンネル。
Q5:「決戦投票」とはどのような制度ですか?
A:選挙で有効投票の過半数を得た候補者がいない場合に、上位2名で改めて行われる投票のこと。
(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真:Keiko Fujimori Holds Closing Rally Campaign
出典:Raul Sifuentes / 特派員 / GettyImages
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

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