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.国際  投稿日:2026/9/18

中国の反日教育の実態その1 なぜ中国の教科書を調べるのか


執筆:古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」1102回

【本稿のポイント】

・中国共産党政権の対日認識を知るには、次世代に日本を何と教えているかを検証するのが有効である。

・中国の教科書は日本を侵略と殺戮を繰り返して反省も謝罪もしない集団と断じ、戦後の平和主義やODAには一切触れない。

日本側の中国研究者はその内容に踏み込まない。

 

中国政府の対日姿勢を知るには、中国が次世代に日本を何と教えているかを見ればよい。中国の教科書は日本を、侵略と殺戮を繰り返して反省も謝罪もしない集団と断じ、戦後の平和主義や巨額のODAには一切触れない。それなのに日本の中国研究者は誰一人、その内容に踏み込まない。ジャーナリストの古森義久氏が、20数年前に自ら行った国定教科書の調査をもとに、その実態を報告する。Japan In-depth編集部)

 

 日中関係がさらに険悪となってきた。正確に述べるならば中国政府の日本に対する言動がますます敵性にあふれ、攻撃的となってきた。そもそも中国共産党政権の日本に対する政策や認識とはなんなのか、日本側でも改めて基本的な再点検が必要になったといえる。

 

中国は次世代に日本を何と教えているのか?

 その中国側の政府としての日本への基本認識を知るには、共産党政権が自国の次世代の若者たちに日本についてなにを教えているのかを、検証することが有効である。つまり中国共産党の日本に対する自分たちの認識、そして後継の次の世代の中国人民に日本についてどんな認識を持つように教育していこうとするのかの実態である。

 

 中国側のこの日本についての教育は一言で特徴づければ、反日である。日本という国家、日本人という国民を中国に侵略して、攻撃や殺戮を大規模に続け、その反省も謝罪もしていない悪逆非道の集団と断じて、怒り、憎むことを教えているのだ。その一方、戦後の日本が自国の防衛さえも抑えるような消極姿勢の憲法を採用し、中国には平和や友好を唱え、巨額の経済援助(ODA)を供与してきた事実などには一切、触れない。こんな偏向教育を幼い子供のころから受ける一般中国人が日本への敵意や憎悪を抱くのは当然となる。

 

なぜ日本の中国研究者は踏み込まないのか?

 日本側でも「中国の反日教育」を指摘する声は官民に存在する。だがその教育の実態が具体的にどんな内容なのか。日本側でこの内容を報告する中国研究者は私の知る限りただの1人もいない。あえて問いたいが一体、なんのための中国研究なのか。日本側に基点をおいて中国の動向を研究し、報告する日本側研究者はその中国の反日教育にはただ表題の言葉を口にするだけで、内容にはまったく踏み込まないのだ。

 

 中国側の反日教育の内容を知る作業は実はきわめて簡単である。中国側の各種の教科書で小学生、中学生、高校生に日本についてなにを教えているかを読めば一目瞭然なのだ。だがそのごく簡単な作業を日本側の何百、何千という多数の中国研究家はだれ1人、試みようとはしない。日本政府も同様である。

 

 なぜなのか。私の推測では、日本側の研究者たちが中国の反日研究の内容の調査や報告に踏みこまないのは、中国側の反発が怖いからなのだと思う。人間の心の中身を読むことは難しいから、この推測が間違っているのかもしれない。だとすれば、いますぐにでも日本人研究者のだれかが中国の各種国定教科書を調べて、そのなかの日本に関する記述を公にしてほしい。日本にとって超重要なその作業にあえて手をつけないというのならば、一体、なんのための中国研究なのかと問いたい。

 

筆者はどのように反日教育の実態を調べたのか?

 私はこの中国側の反日教育の実態について詳しい調査と報告を果たしてきた。主にいまから20数年前、産経新聞中国総局長として北京に駐在した2年ほどの間に中国側の国定教科書を徹底して調べたのだ。その調査では小、中、高校の多数の歴史や社会の教科書では日本についてなにを教えているかに焦点をしぼった。

 

 その探査では中国語を完璧に身につけていた研究者の矢板明夫氏に協力を得た。当時、新進の学者だった矢板氏は父親が日本人の残留孤児で、中国で生まれ、16歳まで中国で育ち、現地の教育を受けていた。同氏は日本の大学を卒業後、産経新聞の記者となり、北京や台北の駐在となり長年、活動した。現在は台湾に拠点をおき、研究や報道の活躍を多彩に続けている。あえて矢板氏の協力を指摘するのは、中国語の教科書の内容の理解には誤りがないという点を強調したかったからである。

 

いま再び報じる理由は何か?

 私が20数年前のこうした調査報道の結果をいま再び、報道する理由は、まず第一にこの重大な課題をその後、日本側の官も民も厳しいタブーであるかのように誰も取り上げないことである。第二には中国側のその反日教育が中国共産党政権の年来の日本に対する政策の敵性を雄弁に証明していることが現在にいたって、いやというほど明確になったことである。第三には中国側のこの国定教科書での反日教育の内容がその後も変わらず、その成果がいまになって十二分に発揮されるようになったと思えることだった。

 

 だからここではすでに産経新聞の連載記事やその後の集大成の古森義久著の「日中再考」という単行本で紹介した内容を適所に追記や再編集を加えながらを伝えていく。

 

 そんな再度の報道にいまの私を駆り立てるのは、日本側の無数の中国研究者が誰一人、この重大テーマに触れないことへの怒りかもしれない。あるいは率直に述べて、侮蔑の念かもしれない。日本側でなんのために中国を研究するのか、と問いたいほどなのだ。

 

問われるのはなぜ日本の教科書だけなのか?

 日本と中国との間では国交樹立後の50余年、何度も何度も教科書が紛争の原因となってきた。教科書で歴史をどう教えるかが焦点だった。ただしその検討となるのは常に日本側の教科書だった。日本と中国と、歴史に対する視点が異なってもふしぎはない。

 

 「一国にとっての愛国者は他国にとっての暗殺者となる」という趣旨の格言がある。国と国との衝突では、いや衝突ではなくても、一般の認識でも歴史的な出来事の解釈が異なるのは当然である。たとえば伊藤博文を暗殺した韓国の安重根という人物は韓国側では救国の英雄とされる。だが日本側では暗殺者である。

 

 しかし日本と中国との歴史にからむ教科書問題では検証され、糾弾されるのはいつも日本の教科書だった。中国側の教科書での歴史の記述が問題になったことはただの一度もない。中国側の歴史認識が神聖不可侵の絶対正義だとされるのだ。その中国側の歴史認識に日本側の教科書などが少しでも異なる解釈を載せれば、中国側からの一方的な非難を浴びる。その中国側からの一方的な非難には日本側でも同調する向きが少なくなかった。中国に侵略したのはあくまで日本側だから、という大前提での加害者と被害者の構造ということだった。

 

 要するに日中関係での歴史認識というのは常に中国側だけが、これこそ真実の歴史だとして表示する枠組みが唯一の基準だった。日本側がその枠組みにほんの少しでも疑義を呈すると、日本に対して「反中」、「極右」、「侵略美化」、さらには「軍国主義者」などというレッテルが貼られた。中国側だけでなく、日本の内部でもそんな日本叩きに走る勢力が必ず存在していたのだ。

 

 だがそれでは中国側の歴史認識とはなんなのだろう。日本がとにかく侵略、殺戮、残虐を繰り返し、反省も謝罪もしていないと断ずることが自動的に正当化されるのだろうか。

 

 この大きな疑問を解明する有効な手段が中国側の教科書の歴史認識をまず客観的に解明することだろう。

 

 以上のような思考から中国の日本に関する歴史教育の内容を再報告する次第である。(つづく)

写真)『日中再考』

出典)Amazon

 

【よくある質問(FAQ)】

Q1.日本の対中ODAはいつ始まり、いつ終わったのですか。

A1.1979年に始まりました。円借款とJICAが実施する無償資金協力は2007年度までに新規採択を終え、技術協力も2018年度で新規採択を終了し、2022年3月にすべてのODA事業の実施が終わりました。

 

Q2.中国の歴史教科書を分析した研究にはどんなものがありますか。

A2.海外では、米スタンフォード大学の「Divided Memories and Reconciliation」プロジェクトが、日本、中国、韓国、台湾、米国の高校歴史教科書を比較しています。同大学のアジア太平洋研究センターは、日本の教科書には愛国心を促す記述が比較的乏しく、南京事件についても一般に思われているより多くの記述があるとし、対照的に中国の教科書は愛国主義教育の一環として国家主義的な歴史観を意識的に推し進めていると整理しています。

 

(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)

 

トップ写真:清明節を迎え、南京大虐殺の犠牲者を追悼する中国の人々 2010年4月4日 中国・南京

出典:Photo by China Photos/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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