高市政権は中国にどう対処すべきか「上」北京政府の反日教育を報知せよ
執筆者:古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」1090回
本稿のポイント
・2026年4月22日、日本戦略研究フォーラム主催のシンポジウムで、高市政権の対中国政策のあり方が議論された
・中国は日米同盟への反対や、尖閣諸島・沖縄への武力を背景とした領有権主張など、日本の安全保障を否定する行動を続けている
・中国共産党は「抗日」を名目とした反日教育を通じて、自らの統治の正統性を国民に訴えている
高市政権が直面する対中国外交の核心が、外交・安全保障に関する専門的な議論の場において浮き彫りとなった。国際政治の最前線を歩んできたジャーナリストの古森義久氏が、実体験に基づく鋭い視点から、隣国との向き合い方について提言する。 (Japan In-depth編集部)
日本戦略研究フォーラムは「高市政権の外交・安全保障課題―中国とどう向き合うか」 と題する大規模なシンポジウムを開いた。2026年4月22日だった。同フォーラムの顧 問の私(古森義久)もその場での講演者、かつパネリストの一員として参加した。主題は 高市政権の対外政策、とくに中国に対する政策のあり方についての討議となった。
この講演・パネル討論の参加者は他に元陸上幕僚長の岩田清文氏、東京国際大学の 特命教授の村井友秀氏、元総理秘書官付の佐藤陽一郎氏だった。このシンポジウムでの討論部分での私の発言を紹介したい。講演部分はすでに紹介し た。この討論では高市政権の中国への対応のあり方が主題となった。以下は古森の発言である。
「中国に対しては現状では高市政権だけでなく、日本国全体が新たな認識を持つべき です。厳しい言葉になりますが、中国は日本にとって基本的に敵性国家だということで す。英語で言えば「アドバーサリー(adversary)」です。何故かというと、私自身、中国に駐在した経験があり、その後もワシントンや東京から中国を見てきましたが、中国は根本的 な部分で日本とは相容れず、日本という国家のあり方を否定しているからです。

写真)APEC首脳会議で韓国訪問中に行われた日中首脳会談で、習近平中国国家主席と握手を交わす高市総理 2025年10月31日 韓国・ソウル
出典)官邸 X より
中国はなぜ「アドバーサリー」なのか?
たとえば、国際秩序をどうするかについて、中国が求めるものは日本とは全く違います。中国は日本の基本的な安全保障政策を否定しています。日米同盟にも反対です。勿 論、反対を叫んでも日米同盟そのものがなくなるわけではないので常に言うわけではありませんが、日米同盟を強化する政策――たとえば日米共同のミサイル防衛などが出てく ると、中国は猛烈な勢いで反対してきます。
私が中国に駐在していた時も、日米共同ミサイル防衛について、中国政府高官らが 毎日のように「やめろ」と日本に抗議してきました。しかしアメリカに対しては反対はぶつけないのです。
選挙によって政権が変わるシステ ムとは全く異なります。中国は共産党一党独裁の下で対抗する野党は存在しない。一般 国民による政権を選ぶ権利も与えられていません。日本の主権在民とはまったく異なり、 共産党の永遠の絶対支配なのです。
尖閣諸島・沖縄への中国の姿勢
さらに、中国は日本の領土を武力を使ってでも奪おうとしている。尖閣諸島がその実 例です。中国政府は武装艦艇を尖閣諸島の日本の領海や接続水域に連日のように侵入させています。しかも歴史を無視して、尖閣諸島は中国領土だと一方的に宣言してい るのです。さらに中国政府は日本側の沖縄の領有権も認めたことがありません。琉球が 昔、中国の朝貢国に近かったことだけを取り上げて、現在も沖縄が中国に帰属している かのような言動をとっているのです。
これらの諸要因を並べれば、中華人民共和国が日本に対して徹底した敵性を示して いると断言するほかないでしょう。
もう 1 つ重要なのは、中国共産党政権が「抗日」の名の下に、日本を悪として描き、そ れを次世代へ伝える、いわゆる反日教育を徹底して行っていることです。この事実だけで も中国という国家の日本への敵性の象徴だといえます。
反日教育の実態とは?
日本からみてもその「反日教育」の実態は、具体的に何かは簡単にわかります。私が 中国に駐在した時、時間をかけて中国側の小学生から中学生向け、さらに高校生向け の国定教科書で、日本について何を教えているのかを網羅的に調べました。その内容は あまりにひどく事実を曲げていることが判明しました。
中国側の国定教科書の内容は日本は悪い国で、中国人をさんざん殺し、今も反省し ていない、謝罪していないと教えているのです。しかも、戦後日本がどんなことをしてきた か、をまったく教えない。憲法 9 条の存在や、中国との友好関係の模索、ODA 供与など については一切教えません。教師用ガイドラインの教えの手引きも簡単に手に入るのですが、「生徒に日本への憎しみや怒りを抱かせるように教えよ」と明確に書かれています。 私はかなり具体的に調査・報道しました。
中国研究者・日本政府はなぜ動かないのか
しかし、その後も、いま現在も、日本側では中国の反日教育が深刻な問題になってい るにも拘わらず、日本の中国研究者はだれもこの重大課題に手をつけません。中国の反 日教育の実態を日本国民に向かって明らかにしないのです。日本政府もやりません。そ の理由はたぶん中国の反応が恐ろしいからです。中国側の日本についての教育の実態 に少しでも踏み込もうとすると、日本人が想像する以上の圧力がかかるようです。しかしなにも、秘密を探るわけではありません。中国で使われている教科書を淡々と分析して紹 介するだけです。日本側の官民はそれすらできないのです。
ではなぜ中国が日本を悪者にするのか。中国共産党こそが中国にとって最大の敵だっ た日本軍国主義を打倒し、中国人民を解放したという実績を強調して、共産党による 「統治の正統性」を喧伝することがその最大理由だといえます。つまり、「中国共産党は日 本軍国主義を打ち破ったからこそ、永遠に中国人民を統治する資格がある」という論理 です。そのためには日本をいつまでも悪者にしておく必要があるわけです。ぜひ、日本側 の中国研究者には中国の反日教育の中身を調査して欲しいと改めて訴えたいと思います」
(中につづく)
【よくある質問(FAQ)】
Q1. 「アドバーサリー(adversary)」とはどういう意味ですか?
A. 英語で「対立関係にある相手」を意味する言葉です。軍事的な「敵(enemy)」よりも広く、外交・安全保障上、価値観や国益が相容れない相手国を指す際に使われます。
Q2. 中国の「反日教育」とは何ですか?
A. 中国の学校教育において、抗日戦争の歴史を強調し、日本を否定的に描く内容を教えるものです。教科書や教師用指導書にその方針が示されているとされます。
Q3. 尖閣諸島問題とは何ですか?
A. 沖縄県石垣市に属する尖閣諸島の領有権をめぐり、日本と中国(および台湾)の見解が対立している問題です。中国は公船を周辺海域に頻繁に派遣しています。
Q4. 日本戦略研究フォーラムとはどのような団体ですか?
A. 日本の外交・安全保障政策について研究・提言を行う民間の政策研究団体です。
Q5. APEC首脳会議とは何ですか?
A. アジア太平洋経済協力(APEC)加盟国・地域の首脳が集まる国際会議で、経済協力の議論に加え、首脳間の個別外交対話の場としても活用されます。
写真)APEC首脳会議で韓国訪問中に行われた日中首脳会談 2025年10月31日 韓国・ソウル
出典)外務省
(本稿のポイント、リード、FAQの文責はJapan In-depth編集部)
あわせて読みたい
この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

執筆記事一覧



























