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.国際  投稿日:2026/7/20

高市政権は中国にどう対処すべきか「下」 アメリカに学ぶべき部分


執筆者:古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

  「古森義久の内外透視」1092回

本稿のポイント

・米下院には、中国問題を専門に扱う組織が複数存在し、対中監視・非難の法案・決議案は300本以上に上る。

・クリス・スミス下院議員らは、法輪功信者への強制的な臓器移植の実態を今年末のG20首脳会議の議題とするよう働きかけている。

・中国は新疆ウイグル自治区の元共産党書記・陳全国氏への入国禁止・資産凍結に加え、著名な中国研究者への入国禁止措置も講じている。



国際政治の現場を長年取材してきたジャーナリスト/麗澤大学特別教授の古森義久氏は、中国の人権弾圧を批判するアメリカ議会の取り組みを紹介し、日本もこれに学ぶべきだと主張。「隣国だから譲歩すべき」という発想への疑問を投げかけ、現実に基づいた対中認識の重要性を説いた。(Japan In-depth 編集部) 

 

 日本戦略研究フォーラムでのシンポジウムでの私(古森義久)の討論発言の紹介を続ける。主題は高市政権の対中政策のあり方だった。

 以下が古森の発言の続きである。

 

アメリカ議会はなぜ中国の人権問題に厳しいのか? 

 「日本の中国に対する姿勢に関して、アメリカのそれに学ぶべきだと思える部分もあります。それはまず中国の人権問題に関する指摘です。中国政府の自国内での人権弾圧を指摘し、批判するという作業です。この点についてアメリカの状況について申し上げます。私は長年、ワシントンにおり、アメリカ議会を頻繁に訪れていましたが、現在の議会では中国問題が非常に大きなテーマとなっています。

 連邦議会の上下両院では外交委員会、軍事委員会、情報委員会など、様々な委員会で中国に関する多様な課題が取り上げられています。そのなかでは中国政府による自国民に対する人権弾圧というのも主要なテーマとなっています。

 中国問題全般については下院に近年、新設された中国特別委員会のような委員会も動きが活発です。この委員会は下院で共和党が多数派となってから共和党の主導で設置された、文字通りの中国に関する問題を集中的に扱う異色の組織です。その正式の名称は「米国と中国共産党間の戦略的競争に関する特別委員会」とされています。2022年の中間選挙で下院では共和党がそれまでの民主党多数を逆転して、多数派となり主導権を握りました。その結果、米中間の経済・技術・安全保障問題などを集中的に議論し、対中政策の提言をする特別機関を結成したのです。

 その委員会の名称にとくに「中国共産党」という用語を入れて、強調したのは調査や批判の対象はあくまで中国の国民ではなく、中国の共産党政権だとする基本姿勢の反映だとされています。中国問題についてはどちらかといえば、共和党の方が民主党よりも厳しいのですが、他の案件にくらべて民主党も共和党の姿勢に近く、中国共産党政権のあり方に対しては超党派のコンセンサスがほぼ成立しているともいえます。だから民主党議員の多くも中国政府の国内での人権弾圧などに対しては手厳しい対応をみせているのです。

 

中国の人権弾圧を追及する米議会組織とは 

 アメリカ議会で中国側の人権弾圧をとくに集中的に糾弾している組織としては「中国に関する議会・政府委員会」という存在もあります。この委員会は立法府である議会と行政府である政府とが合体して、中国側の人権問題や社会問題を取り上げ、その調査結果をアメリカ側全体の対中政策に反映させることを任務にしています。この委員会も超党派ですが、共和党側ではクリス・スミス下院議員がもう30年ほども中心となり、中国政府による民主活動家やチベット、ウイグルの民族活動家への弾圧を糾弾してきました。 スミス議員はこの委員会の共同議長を務めてきました。ちなみに他の共同議長には上院議員だったマルコ・ルビオ現国務長官も歴任してきました。この委員会は毎月2回ほど

 中国側の具体的な人権弾圧の実例を取り上げ、被害にあった当事者や実情に詳しい専門家を証人として招いて、報告を受けています。最近の実例では中国政府から邪教と断定され、多様な迫害を受けてきた気功集団の「法輪功」への弾圧を取り上げています。スミス議員らは最近では中国政府が法輪功信者を逮捕して、強制的な臓器移植を実施していると報告し、この問題をアメリカが議長国となる今年末のG20の首脳会議での議題にすると宣言しています。

 アメリカ議会ではこのスミス議員を中核とする委員会が主体となって、新疆ウイグル自治区でのウイグル民族に対する中国政府の組織的な人権弾圧にも厳しい姿勢をとってきました。この自治区の共産党書記だった陳全国という人物に対してアメリカ議会は政府を通して、アメリカへの入国禁止とアメリカ国内の資産の凍結という制裁措置を取りました。陳全国氏はその後、共産党内部で昇進して、同党中央政治局委員にまでなっています。

 アメリカ議会にはこのほかにも「米中経済安保調査委員会」という組織があり、米中間の経済関係が米側の国家安全保障にどのような影響を与えるかを調査しています。米中間の経済の交流がアメリカ側の安全保障を害することがあってはならないという前提から始まった米中関係の監視をする機関です。なにしろ現在のアメリカ議会には中国の動向を監視する、あるいは非難するという趣旨の法案や決議案が300本以上も提案、あるいは審議されているというのです。

 このような動きは日本の国会ではまったくみられません。しかし日本側でも中国政府による人権弾圧を普遍的な人道主義という立場から提起し、批判することは中国からの日本非難を相対化、あるいは骨抜きにする効果があるでしょう。あるいはアメリカの議会や政府と連帯しての中国の不当な言動への批判を表明することも、意味があると思います。日本に無法な圧力を多々かけてくる中国への日本からの圧力ということにも意義があるでしょう。

 

中国は日本の研究者にも圧力をかけている 

 中国政府は最近は日本側の特定の個人、たとえば中国駐在の日本人ビジネスマン、あるいは日本側の中国研究者への弾圧にも走っています。逮捕とか入国禁止という制裁措置です。中国政府は長年、アメリカ側の学者たちに対しても似たような制裁、恫喝の措置をとってきました。まず第一段階としては中国に批判的な研究者にビザを発給しないといった対応です。

 たとえば、著名な中国研究者のペリー・リンク氏は早い段階で中国入国を禁止されました。またコロンビア大学のアンドリュー・ネイサン教授や、ペンシルベニア大学のアーサー・ウォルドロン名誉教授といった実績のある研究者も同様の圧力を受けています。みな中国政府の気に入らない学術研究をしたという理由です。

 さらにハドソン研究所のように、所属しているだけで中国に入国できないとされるケースもあります。中国人民解放軍の研究で有名なマイケル・ピルズベリー氏のように、それを避けるためにハドソン研究所を離れた例もあります。こうした個別の圧力は当然ながら論調や主張の変化を促すことを狙った脅しです。

 

「隣国だから譲歩すべき」は現実的か? 

 日本でも、「中国は隣国であり引っ越せないのだから配慮すべきだ」という議論が長く存在してきました。しかし隣国であることが必ずしも協調や譲歩の必要性を意味するわけではありません。引っ越しができない、つまり隣国であるからこそ、対立が起きて、その相手には断固として対応せねばならない、というの国際的な現実なのです。インドとパキスタン、イスラエルと周辺諸国など、隣接しながら対立している例は世界中にあります。従って、「隣国だから譲歩すべき」という考え方は現実的ではありません。むしろ重要なのは、現実を踏まえた上での対中認識です。

 現在、日本国民の多くが、中国に対する正しい認識を深めつつあり、「譲歩しても状況は改善しない」という理解が広がっています。日本は民主主義国家であり、最終的には国民の多数派の意見が政策に影響を与えます。その意味で、現実に基づいた対中認識が広がっている現状は、大きな意味を持つでしょう。

 

(終わり。上、中)

 

【よくある質問(FAQ)】

Q1. 「米国と中国共産党間の戦略的競争に関する特別委員会」とは何ですか?
A.2023年に米下院で共和党主導により新設された、中国問題を専門的に扱う特別委員会です。名称にあえて「中国共産党」を入れ、批判対象が中国国民ではなく共産党政権であることを明確にしています。

Q2. 「法輪功」とは何ですか?
A.中国発祥の気功・瞑想を中心とした団体です。中国政府から「邪教」と認定され、弾圧の対象となっています。

Q3. 新疆ウイグル自治区の人権問題とはどのようなものですか?
A.新疆ウイグル自治区において、ウイグル族などの少数民族に対する中国政府による組織的な人権侵害が国際社会から指摘されている問題です。

Q4. 「米中経済安保調査委員会」とはどのような組織ですか?
A.米中間の経済関係がアメリカの国家安全保障に与える影響を調査する、米議会に設置された委員会です。

Q5. クリス・スミス下院議員とはどのような人物ですか?
A.共和党の下院議員で、「中国に関する議会・政府委員会」の共同議長を長年務め、中国の人権問題を継続的に追及してきた人物です。

 

写真)新疆ウイグル自治区とみられる街並み。中国国旗が掲げられた通りで会話をする住民たち  カシュガル、新疆/中国 – 2017年10月4日

出典)Christian Ader /getty images

 

(本稿のポイント、リード、FAQの文責はJapan In-depth編集部)




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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