高市政権は中国にどう対処すべきか「中」「戦略的互恵関係」という無意味な言葉を捨てよ
執筆者:古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」1091回
本稿のポイント
・中国は米中関係が悪化すると対日融和に転じる傾向があり、その象徴として自民党の二階俊博氏らを北京・人民大会堂に招いた。
・自民党・古屋圭司議員が中国から入国拒否(ペルソナ・ノン・グラータ)とされるなど、対日圧力が政治家個人にも及んでいる。
・古森氏は北京駐在時代、日米共同ミサイル防衛をめぐり中国外務省高官から「日本人がそんなことを言うのか」と激しい対日感情をぶつけられた。
国際政治の現場を長年取材してきたジャーナリスト/麗澤大学特別教授の古森義久氏は、高市総理の台湾有事発言が中国の対日本音を引き出したと分析した。安倍政権の「戦略的互恵関係」という標語の曖昧さや、米中関係と連動する中国の対日姿勢の変化を、自身の北京駐在時代の体験を交えて論じた。 (Japan In-depth編集部)
日本戦略研究フォーラムでのシンポジウムでの私(古森義久)の討論発言の紹介を続ける。主題は高市政権の対中政策のあり方だった。
以下が古森の発言の続きである。
なぜ高市発言が中国の”本音”を引き出したのか?
「高市総理の国会での台湾有事の日本にとっての意味に関する発言によって、中国が 日本に対して抱いている本音を露骨に出してきました。長年、日本は官民ともに中国の 敵性的な対日姿勢を認めようとしてこなかった。そして「戦略的互恵関係」という、意味 が曖昧な言葉で表面を糊塗してきた。中国共産党政権が本来持っている厳しい対日政 策や対日感情を、なるべく表に出さないようにしてきたのが戦後の日中関係の大きな特徴でした。より正確には日本側の対中政策の最大の特徴だったといえます。しかし日本がどれだけ軟化しても、譲歩しても、中国の対日政策は柔らかくなるどころか、むしろ逆に厳しくなっていった。だから、高市発言の最大の意義は、中国に「本当の顔」をみせる結果を招いたことだともいえます。
「戦略的互恵関係」という言葉の限界
「戦略的互恵関係」という言葉は、安倍政権の時に出てきました。経済面で日中両国 が利益を得ているという意味では間違っていないと思います。しかし国家間関係は経済 だけで成り立つものではない。どの二国間関係でもまず基本は安全保障です。さらに政治態勢での共通点と相違点、基本的な価値観としての人権や法の統治も二国間関係の基盤となります。その基本部分に大きな断層があるのに、「戦略的互恵関係」とは何なのかを誰かに説明してもらいたいくらいです。
安倍政権の「自由で開かれたインド太平洋」構想は大きな実績だったと思います。しかし対ロシア外交は、結果として成功しなかった。ロシアは北方領土返還に全く応じず、寧ろ強硬化した。また、「ロシアと接近すれば中国が警戒して対日姿勢を和らげる」という期待も、実際には起きなかった。また安倍政権の当初の「戦略的互恵関係」という政策標語での対中アプローチもなんのプラスも生み出さなかったという印象です。
米中関係が対日姿勢を左右する
中国の対日政策に最も大きな影響を与えるのは、やはりアメリカです。米中関係が悪化すると、中国は日本に対しては柔らかくなる。その象徴が、二階俊博氏らを北京に招いた大規模訪中団でした。私も取材しましたが、数千人規模で人民大会堂に招かれ、中国側首脳が総出で歓待しました。つまり、中国はアメリカとの関係が悪化すると、日本には融和的姿勢を取る。この点は、過去 20 年を見ても非常にはっきりしていると思います。
しかし中国とビジネスや研究で関わる人々にとっては、厳しい状況が予想されます。たとえば、自民党の古屋圭司議員が中国から入国拒否(ペルソナ・ノン・グラータ)とされた事例もあります。中国政府によるこうした措置は、研究者にとってはキャリアそのものに関わる重大な問題となり得ます。実際、オールドメディアにも中国専門の記者が多く存在し、彼らが個別に圧力を受けるケースもあります。こうした中国の恫喝や圧力は今後日本の 経済界にも頻繁に仕掛けられる可能性もあります。中国側では対米関係が厳しくなって も高市政権下の日本に対しては本音を保って、辛辣な言動をエスカレートさせそうな新た な局面が生まれてきたとも思えるのです。
北京駐在時代に見た中国側の”本音”
中国の本音といえば、私自身、北京駐在時代に象徴的な体験をしました。当時、北京政府は日米共同のミサイル防衛網の構築にものすごい勢いで反対を表明していました。 政府の多様な機関の代表が連日のように、日本に対してアメリカとの共同のミサイル防 衛は危険だから止めろと高圧的な発言を続けていたのです。
その一例として中国外務省の後に「戦狼外交官」と呼ばれるようになった高官が対日 政策に関する特別の記者会見を開きました。そして「日米共同ミサイル防衛は中国に対する敵対行為だ」と強硬な発言をしました。私はその発言に強い反発を覚えて、「中国は すでに日本に届くミサイルを何百発も持っている。だが日本は中国に届くミサイルは 1 発も持っていない。ミサイル防衛はあくまで防御手段なのに、なぜ中国への脅威になるのか」と質問しました。
するとその外務省高官は激怒して、「日本人がそんなことを言うのか。中国を侵略し、 民間人を多数、殺し、反省もしていない日本人が、我が国に向かってそんなことを言うのか」と、私をどなりつけたのです。ミサイル防衛とはまったく関係のない日本への憎しみの爆発だと思いました。そこにはアメリカ大使館の人もいましたが、口を開けてびっくりして いました。中国政府の日本に対する本音の噴出だったといえます。こうした部分こそが中国側の日本への敵性国家としての真実なのです。
ちなみにこの日米共同のミサイル防衛に対し、中国と全く同じ論調だったのは朝日新聞でした。「ミサイルごっこは危険だ」などとも朝日新聞は書いていました。朝日新聞は そもそも日本政府の防衛庁を防衛省に格上げすることにも反対していた。「庁が省にな ると日本の軍国主義化につながる」という論調でした。あまりにも無理な主張ですね」
(下につづく)
【よくある質問(FAQ)】
Q1. 「戦略的互恵関係」とはどのような外交方針ですか?
A. 2006〜2008年頃の日中間で用いられた、経済分野を中心に互いに利益を得る関係を築こうとする外交方針を指す言葉です。安倍政権期に打ち出されました。
Q2. 「ペルソナ・ノン・グラータ」とは何ですか?
A. 外交上、特定の人物を「好ましからざる人物」として受け入れを拒否・追放する措置のことです。
Q3. 「戦狼外交」とはどのような外交スタイルですか?
A. 中国の外交官が強硬・攻撃的な発言や態度で自国の立場を主張する外交スタイルを指す言葉です。
Q4. 台湾有事とは何を指しますか?
A. 台湾をめぐって中国と台湾(および関係国)の間で武力衝突などの緊急事態が発生する事態を指します。
Q5. 「自由で開かれたインド太平洋」構想とは何ですか?
A. 安倍政権が提唱した、インド太平洋地域における法の支配や自由な経済活動を重視する外交ビジョンです。
写真)軍事パレードで検閲車から兵士・観衆に向かって挨拶する習近平国家主席
(本稿のポイント、リード、FAQの文責はJapan In-depth編集部)
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

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