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.国際  投稿日:2025/12/25

高市政権にとってのアメリカ、そして中国(中)中国の狂った日本威迫の真実


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

古森義久の内外透視

【まとめ】

・高市首相の台湾有事発言に、中国が外交官暴言と恫喝で強く反発。

・中国は日本を威圧する一方、米国には慎重という露骨な二面性。

・日本への脅迫の真意は、日米連携強化への中国の警戒にある。

 

一方、高市新首相に対照的な負の反応をみせたのが中国だった。 

高市首相が国会で台湾有事について中国軍の戦艦による武力行使があった場合、日本側としては安全保障関連法の規定する「国家存立危機事態」にあたると述べたことに、中国の大阪駐在領事が「汚い首を斬ってやる」という暴言を吐いたのだ。

高市首相の言はあくまで日本としての自衛権の行使範囲の提示だった。日本の国家としての存立への危機が生じ、その存立のためには集団的自衛権の行使による武力での反撃もありうるというこれまでの日本政府の政策範囲内の発言だった。

外国の外交官がその駐在国のトップに対して「汚い首を斬ってやる」とまでの暴言を発すれば、通常ならば、国外追放である。誹謗された側の国はその外交官をペルソナ・ノン・グラータ(好ましくない人物)とみなして退去を求めるだろう。だがわが日本国は主権を尊重する高市政権でもそんな措置には出ず、口頭の抗議ですませている。 

だが中国政府はその高市発言の撤回までも求めるにいたった。しかも共産党政権や人民解放軍の幹部まで動員して、日本への「痛撃を与える」とか「懲罰を加える」という脅しの言辞までを連発してきた。この種の言葉の恫喝は中国共産党政権の得意技である。今後も日本側をびくりとさせるような暴力団のはったり的な言葉の攻撃を予期しておくべきだろう。

なにしろ中国側は日本の台湾防衛への参加に対しては日本への核攻撃を加えるという動画を拡散した前歴もあるのだ。

2021年7月、中国の民間軍事評論集団とされる「六軍韜略」という組織が一般向けの動画サイト「西瓜視頻」に「核攻撃での日本平定」と題する動画を掲載した。7分ほどのその内容は、中国が台湾に武力侵攻して戦闘が起き、日本が参戦した場合、中国は即時に日本に核攻撃を加え、降伏させるという、核兵器で日本を恫喝する「対日戦略」だった。

一党独裁の中国では政府の意思に反する「民間活動」は存在しない。だからこの動画も明らかに中国当局の意向の反映だった。ところがアメリカの中国研究者たちがこの動画を即刻、発見し、糾弾した。核保有国の中国が非核の日本に対し、単なる脅しにせよ核攻撃を告げるのは中国自身の核先制不使用の誓約にも反するではないか、という糾弾だった。中国政府当局はこの非難を受けて、その動画の一般公開を禁止してしまった。

中国とはそういう国家なのである。日本に対しては暴虐無人の言動、アメリカには慎重な態度、その区分は相手が現実のパワーをどこまで保持しているか、である。今回の中国の日本への「怒り」も実は本音としてはアメリカへの抗議だという形跡が濃いのだ。

アメリカは歴代政権が中国の台湾への武力攻撃に対しては軍事介入で阻止するという可能性を表明してきた。バイデン前大統領は任期中に「中国の台湾攻撃には米軍を投入して戦う」と3回も言明した。この発言はバイデン政権の公式政策の「戦略的曖昧性」には反していたが、なにしろ大統領の言葉だった。しかもワシントンの国政の場では連邦議会の議員や国防関連当局者の間で台湾防衛のための米軍の軍事作戦はほぼ恒常的に語られてきたのだ。

だから今回の中国政府の日本への脅しに対するトランプ政権のジョージ・グラス駐日大使の反応はまさに一笑に付す、という基調だった。同大使は高市首相をののしった中国の薛剣駐大阪総領事に対してXへの投稿で「日本の首相と国民を脅す手口はつい数か月前にイスラエルをナチス・ドイツになぞらえた、この外交官の無法な本性を改めて暴露した」と書いた。グラス大使はさらに同じ日本への恫喝を書く環球時報の胡錫進・評論員に対し「外交と挑発の区別がつかず、魔女や魔術にとりつかれている」と書き、嘲笑した。「この種の日本への恫喝は日米の絆を強めるので感謝する」とも皮肉った。

これがトランプ政権の反応なのである。

トランプ大統領自身は米軍の台湾介入については歴代政権と同様、台湾関係法に従い、介入するとも、しないとも明言はしない。つまり戦略的曖昧性である。だがトランプ政権のルビオ国務長官やヘグセス国防長官は軍事介入も十分にありうるという意味の言明は頻繁に繰り返す。議会では民主党側でも同様の声が出る。

米軍当局も米軍と中国軍が台湾海峡でもし戦った場合のシミュレーション(模擬演習)をウォー・ゲームとして定期的に実施している。その内容は一部が公表もされる。だが中国当局は日本が示唆する台湾への軍事支援の仮定の方針には脅しの限りを尽くしても、アメリカ側の同様の動きにはほとんどなにも反応しないのだ。

実は今回の中国の日本への脅迫の真意はアメリカのトランプ政権に向けられているといえる。この点、日本はアメリカの身代わりなのだ。日本に高市新政権が登場し、トランプ政権との防衛面でのかつてない強固な連帯を誓うという状況は中国の台湾戦略にとっては大きな後退となりかねないのだ。

(下につづく)

※この記事は雑誌「月刊 正論」2026年1月号に掲載された古森義久氏の論文の転載です。

トップ写真:日米首脳会談、東京・迎賓館赤坂離宮(2025年10月28日)出典:首相官邸




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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