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.経済  投稿日:2014/10/7

【消費税率10%引き上げNO】~黒田日銀、産業界の悲鳴に耳傾けよ~


田村秀男(産経新聞特別記者・編集委員)「田村秀男の“経済が告げる”」

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恐れ多くもだが、かつては「法皇」とまで称された日銀総裁に「ちょっと軽すぎしませんか」と言いたくなった。無論、黒田東彦現総裁のことだ。黒田さんは3日、衆院予算委員会で最近の円安について「日本経済全体としてマイナスになるというようなことではない」と答えたが、それまでの発言からしても「円安容認」にすっかり前のめりだ。

産業界では中小企業の集まりである日本商工会議所が円安に伴うコスト高を問題視しているばかりか、円安に伴う収益増を享受する製造業大手が主力メンバーの経団連の榊原定征会長までもが「これ以上の円安は日本全体にマイナスの影響が大きくなる」と言い出した。いずれも、切実な現場の声を集約しているのだが、黒田さんはいかにも「我、関せず」だ。

黒田さんは日銀が掲げる2%のインフレ目標(消費税率アップ効果を除外)の達成に執念を燃やす。量的・質的両面の異次元金融緩和によって、期待インフレ率を高めて実質金利をマイナスにして、家計や企業の余剰資金を消費や投資に流れ出すようにする。半面で、実質金利の低下はただちに円安につながって、輸入コストを押し上げ、消費者物価に波及する。

景気の好転で実質賃金の上昇を伴っていないと、円安は家計消費を減らしかねない。金融緩和・円安によるリフレ策は脱デフレのための唯一の処方せんには違いないが、消費や投資全般に効果が及ぶまでには時間がかかるし、その効果を邪魔する増税は避けなければならないと、拙論は消費税増税に反対する論陣を張ってきた。

ところが黒田さんはほぼ1年前、金融緩和政策によって消費税増税の負の副作用を相殺できるとして、安倍晋三首相を増税実施に踏み切らせたのだが、それでは異次元緩和やアベノミクスの効果を自ら殺すようなものだ。脱デフレを果たすためには、インフレ率以上に賃金など家計の収入が伸びる状態を定着させなければならないのだが、金融緩和1年程度で15年以上もの慢性デフレから抜け出すはずはない。黒田日銀はいかにも甘く、機動性にも欠ける。

懸念した通り、消費増税で人為的に物価を押し上げ、実質収入を大幅に落ち込ませてしまった。使えるカネが細った家計は消費を減らす。消費は増税前駆け込みの反動減が薄れるはずの7月以降も大きく落ち込んだままだ。企業は過剰在庫を抱え、減産に追い込まれている。

今後、雇用にも響けば、慢性デフレに舞い戻る。おまけに、最後の頼みの株価は、アベノミクス1年目のように円安の度合ほど上がらず、グローバル投資家の尺度であるドル建てMSCI指数では、9月以降下落する始末だ。金融緩和・円安の効力は消費税増税で吹き飛んだのだ(グラフ参照)。

黒田さんはこのまま異次元緩和を続け、米国の量的緩和打ち切りに伴う市場反応をテコに、もう一段の円安に進行するのが、自然の流れだと考えているようだ。その結末は、コスト・プッシュ型インフレだ。2%のインフレ目標自体は楽々と達成できるだろうが、それが黒田日銀の本懐なのか。

産業界の悲鳴が示すように、内需型業種の多い中小企業や地方経済は疲弊する。多国籍化にまい進する大企業が停滞する内需をみて国内生産・雇用に重点を移すはずはない。慢性デフレから一転して、不況下の物価高「スタグフレーション」の到来だ。

今、黒田日銀に必要なのは、のっぺりした円安容認、異次元緩和策ではないはずだ。まずは、消費税増税による致命的なマイナス効果をきちんと検証し、安倍首相に来年10月からの消費税率10%への引き上げを思いとどまらせる。次には、金融政策の弾力性と機動性を取り戻し、一本調子の円安には毅然と対応することだろう。

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