[角谷浩一]日本長期信用銀行事件
角谷浩一(政治ジャーナリスト・映画評論家)
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日本長期信用銀行事件を覚えているだろうか。
1999年6月、東京地検は粉飾決算容疑で、大野木元頭取ら旧経営陣3名を証券取引法違反で逮捕した。国有化時の債務超過は2兆円。投入された公的資金は7兆9000億円。翌年3月にアメリカの企業再生ファンド・リップルウッドや外国銀行らから成る投資組合New LTCB Partners CVに売却され、同年6月に新生銀行となった。
ところが2008年7月、最高裁は一審及び二審の判決を破棄し、違法はなかったと無罪を言い渡した。
昨年末の衆院選挙で医療法人「徳洲会」が職員を派遣し、違法な選挙運動をしていた事件は選挙から10カ月になろうとしている今、なぜ東京地検が着手したのか多くの疑問が残る。
ある政界関係者は「長銀事件と同じではないか」と絵解きする。「今までも徳洲会の選挙違反は幾度となく繰り返されてきていたものの、当局は立件どころか着手すらしてこなかった。ところが急に事件が動いた。最大の原因は今年2月、徳田ファミリーから放逐された元徳洲会専務理事のNが地検に話しているからだと言われるが、特捜部は闇の中にあった徳洲会の金の流れの解明だ。その中では野党党首2人の関与が囁かれている」。
だが、それは事件の本質ではなさそうだ。政界ルートヘの波及は核心からの目くらましや世間の注目を集めさせる術だろう。
事件発覚当初から病院の存続に関する記事がちらついており、この機会に当局は徳田家から徳洲会を切り離そうとしているのではないか。以前から厚労省も医師会もコントロール下に入らない徳洲会を解体したいと思っていたはずだ。その環境が今整おうとしている。
前出の政界関係者が言う。
「最終的な狙いは全国にある66箇所の徳州会病院をそっくり別の経営者に付け替えるということではないか。まさに不良債権を抱えた長銀の頭取らを逮捕した後、外資が参入。この流れを徳州会に当てはめようとしているのではないか。ではその目的と買取先はどこだろうか。ずばり、そんな荒技と資金力があるのは日本医師会か外資系しかないだろう。そう、この66の病院の引き取られ先はTPPによる米国の医療チェーンではないか」。
米国医療界参入の突破口ということか。
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