正義は理屈さえつければ、敵にも味方にもなるものだろうか?

牛島信(弁護士)
正義は武器に似たものである。武器は金を出しさえすれば、敵にも味方にも買われるであろう。正義も理屈をつけさえすれば、敵にも味方にも買われるものである。
私の文章ではない。芥川龍之介の『侏儒の言葉』からの抜粋である。
芥川のいうとおりだろうか?正義は理屈さえつければ、敵にも味方にもなるものだろうか?
我々は違うと思って日常を暮らしている。ところが、なにか問題が起こると、自分は当然のように正義の側にいるのに、多数派が反対側にいるのを発見してしまうことがある。あちらでも正義は我にありという顔をしているから始末に負えない。正義は反対派に先に買われてしまった武器と同じことになって、こちらを脅すのである。
どうやって正義を自分の側のものとするか?
理屈をつけて。
しかし、理屈と膏薬はどこへでも付く、という俗諺もある。
はて、困ったことである。
そもそも、正義が勝つのか、勝ったのが正義なのかすらハッキリしない。その証拠には、勝てば官軍、負ければ賊軍という俚諺もあるほどである。
国際的な問題になると、理屈をこねる舞台もあってなきが如しである。正義は武器に似ているどころか、文字通り武器が正義というこになりかねない。
いやいや、今の時代、国連があるじゃないかという向きもあろう。そこで、理屈のつけあいをする。今度は政治だから、国内の裁判のようなわけには行かない。言いっ放しもありである。
国際世論?
それがさほど頼りにならないから、シリアの悲劇は出口が見えない。
「知りたくないね、僕は愉しく暮らしたいのだ」と言う立場もあり得る。しかし、愉しく暮らすためには、正義が貫かれていると実感できることも、たいていの人々にとっては必要条件なのである。宮沢賢治のように、「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」、とまでは云わないとしても、誰もが、程度こそ違え似たようなものなのである。
なんとも人の世は難しいことである。
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