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.国際  投稿日:2015/1/6

[岩田太郎]【「反日」映画『アンブロークン』を斬る 1】~非現実的な描写、ガラ空きの劇場~


岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

執筆記事プロフィール

 

注:本映画は日本での公開は現時点(1月5日)で未定だが、このシリーズ‘全4回)はネタバレが含まれるので注意。

公開の予定すら決まっていない日本で、「反日映画」と騒がれているアンジェリーナ・ジョリー監督(39)の『アンブロークン』を現地で観た。

筆者の地元シネマコンプレックスで一番座席数の多い、劇場のど真ん中に位置する300席以上のスクリーンでの上映だが、公開5日目にして観客は初老の白人カップルと筆者のみで、貸し切り状態。午後10時の最終回ではあったが、「これでは、コケる」と感じた。製作費用6500万ドルに対し、1月3日現在で8000万ドル(約96億円)の興収を叩き出しており、決して悪い数字ではないのだが。

『アンブロークン』は、クリスマスの映画公開の3か月前に97歳で死去した元ベルリン五輪選手の、ルイス・ザンペリーニ元米陸軍少尉の生涯をモデルに、小説家ローラ・ヒレンブランド氏(47)が執筆したフィクションに基づいて製作された。作品の大半は、ザンペリーニ氏が神奈川県の大船、東京都の大森、新潟県の直江津の捕虜収容所で受けた仕打ちをベースにしている。

日本人が残虐な者として描かれる一方、「残酷な理由は日本人だから」と、人種・文化に結び付ける体系的な思想はない。原作にある日本兵の食肉シーンもない。東京大空襲で死んだ多くの都民の遺体も見せる。そうした点で、日本人の西洋人との「違い」や「残酷さ」の根底に、人種的・文化的背景があると強く示唆する20世紀の欧米作品とは違う。

そうした映画の代表例は、日本人を極端な会社人間として描いた1986年の『ガン・ホー/突撃!ニッポン株式会社』、残忍な捕虜強制労働がテーマの1957年の『戦場にかける橋』などだ。

対する『アンブロークン』の意図は別のところにある。ヒーロー不在の、政治も社会も経済も機能しなくなってきた現在の米国に、どんな苦難も耐え忍んだ自国の英雄を思い起こさせ、希望を与えるためだ。

アンジー監督自身が、NBCニュースの著名ジャーナリスト、トム・ブロコウ氏によるインタビューで、映画の狙いがより普遍的な価値である、「人間の魂の耐久力と回復力は、驚異的である」ことを示すことだと語っている。だが結論を言えば、見事に失敗している。

      

まず、ダラダラと人生の出来事や収容所での虐待の描写が続き、主人公がなぜ、描写されるような崇高な精神を持つに至ったかが、説明されない。米『ニューヨーク・ポスト』紙の「作品に説得力がない」とのは、当たっている。

また、クライマックスで、ザンペリーニ少尉が、宿敵である看守の渡邊睦裕軍曹(映画内ではMIYAVI演じる大尉)に、重い材木を頭上に持ち上げて、そのままの姿勢でいるよう理不尽で無理な要求を受けるシーンがある。何と、虐待で極端に衰弱しているはずのザンペリーニ少尉は、超人的にその要求を実現する。

ショックを受けた渡邊大尉はザンペリーニ少尉の人間性の崇高さに恐れおののき、顔を醜く歪めてわめき散らし、さらなる暴行を加えるのだ。この超人シーンは、中国の反日ドラマで抗日ゲリラが日本兵を素手で真っ二つに切り裂いたり、手榴弾を戦闘機に投げて撃墜させたりする荒唐無稽さを思い起こさせる。

その渡邊大尉役のMIYAVIは、セリフ棒読みで上滑りだ。他の日本兵も「ぐずぐずするな」「早く歩け」と繰り返すばかりで、表情も単調すぎる。配役は、日本側の俳優が受諾するかは別として、渡邊大尉役には悪役で脂がのってきた高嶋政伸、副官役に飄々とした相島一之、看守兵役にウラのありそうなノンスタイル・井上裕介や豪快な雰囲気の吉田鋼太郎など、クセのある人物を起用できたのではないか。『アンブロークン』は、日本の芸能界を知らずに、「英語屋さん」で固めたミスキャストだ。

(つづく。今日から4日連続で掲載予定。第二回は、「機能しない米社会のヒーロー願望」、第三回は「アンジー監督が欲しい日本の過剰反応」、第四回は、「真の『アンブロークン』は誰か」。本記事には、参照した英文の元記事や動画・評論へのリンクが貼られているが、Yahoo!ではリンクが無効になる。お読みになりたい方は、Japan In-Depthのウェブサイトhttp://japan-indepth.jpをご覧いただきたい。)

 

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