無料会員募集中
.政治  投稿日:2015/2/10

[西村健]【都民の実感や声の反映も世界一を目指せ】~東京都長期ビジョンを読み解く!その2~


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

「西村健の地方自治ウォッチング」

執筆記事プロフィール

 世界都市、東京。森記念財団が実施した「世界の都市総合力ランキング 2014」では、総合ランキングで4位。世界に名だたる東京の「都市力」の強さを見せつけている。

しかし、通勤電車や盛り場の混雑は相変わらず、物価や家賃は高く、個人に許されるスペースは狭い等々。都民なら多くの人が一極集中のマイナス面を実感しているはずだが、長期ビジョンからはそういった意見は見えてこない。今回は、都民の実感や声が反映されているか、という観点から長期ビジョンを読み解いてこう。

第5章「都民及び区市町村からの意見の反映」を見てみよう。都民や区市町村から世論調査やパブリックコメント、区市町村調査を実施して、くまなく意見を聞いたそうだ。

中間報告についての都民からの意見は311 件、区市町村(62 団体)からの意向調査による回答件数は427 件。今後の東京の未来を考えるには少ないように思えるが、それは都民の意識の問題でもあり、都庁の公聴機能の問題でもあるが、大事なことはそこではない。長期ビジョンでの都民及び区市町村からの意見の反映についての問題は2つある。

第1に、多くの地方自治体で実施されているパブリックコメントと違い、住民からの様々な意見があまり紹介されていないことだ。最近のパブリックコメントでは、住民意見の原文そのまま記載され、それに対する自治体の回答が対応する形での丁寧な回答が掲載されている。長期ビジョンでは、主要テーマごとに分類・要約され、33項目、4ページにわたってしか掲載されていない。

これに対し、電話で都庁に問い合わせたところ、「東京都のビジョンに関係ない意見もあった」、「細かい意見を公開するつもりもない」との回答をいただいた。

第2に、記載の仕方のレベルである。くどくど説明する前に、「意見」とそれに対する「ビジョンへの反映」がどうなっているのか見てみよう。

集中豪雨対策についての「ゲリラ豪雨等で浸水被害が出ないよう、細やかにインフラを整備してほしい」という意見に対して、「ビジョンへの反映」の記述は「多発する局地的な集中豪雨への対策を強化(P157)」とある。

待機児童対策についての「待機児童の解消は必須であるが、どのように進めていくのか、きちんと検討してほしい」、「保育人材不足解消に向け、待遇面に関する施策を充実させてほしい」との意見に対しては、「保育サービスの拡充による待機児童の解消(P175)」との回答。

これまた一刀両断。いちいち回答しないよ、詳細ページを見にいけ!とでも言いたげな作者の叫びが行間から聞こえてくる。

さらに「都民生活に関する世論調査」がどう反映されていたのかも見えてこない。この長期ビジョン、「夢や希望の持てる社会の実現に向けた10年間の具体的な工程表」だったはずだが、住民意見がどのように反映されてかはさっぱり見えてこない。

長期ビジョン、都民からの意見を聞きたいという気持ちが感じられないというのが実感だ。「世界一の都市・東京」を目指すには謙虚に他自治体から学び、都民の声に耳をそばだてる必要があるのではないか。

タグ西村健

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."