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.政治  投稿日:2013/11/21

[清谷信一]【速報】[仏パリ“ミリポール”リポート]防衛産業の輸出を阻害しているのは防衛産業を擁する大企業トップの無知蒙昧と保身


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

執筆記事プロフィールWebsiteTwitter

 

現在パリ郊外の見本市会場で開催されている、世界最大級の軍・警察・セキュリティ関連の見本市、ミリポールを取材中だ。ミリポールは隔年で開催されているが、筆者は毎回これを取材してきている。

今回目立ったのは日本企業の出展だ。常連であるパナソニック(タフブック)、ニコン、キャノン(軍隊や警察では両社の一眼レフを情報収集に使用している)、富士フィルム(旧フジノン、監視装置など)、ヤマハ、帝人(防弾繊維など)などに加え、三菱電機、リコー、YKK、ケンコートキナ(光学機器)なども出展している。また、9月にロンドンの軍事見本市に出店したコンサルタントのクライシスインテリジェンス社も、町田の工業団地と共同開発したLED投光機を出展している。これらの多くは直接的な火器や武器ではなく汎用品だったり、コンポーネントだったりする。

DSCN1493  YKK

クライシスインテリジェンス ケンコートキナ

(出展している日本企業の数々)

大手企業の場合、実際に出展しているのは現地法人や、代理店、あるいはそれらに本社の防衛・セキュリティ部門が相乗りした形が多い。出展担当者の悩みは本社の経営陣の無理解だ。「軍事」というだけで毛嫌いする経営陣が多い。このため手足を縛られて泳げといわれているようなものだ、と嘆く出展者は多い。経営陣の本音は自分が役員でいる間はスキャンダルやトラブルが起こりそうな、あるいは世間や株主から「死の商人」と株主総会で糾弾されるのが怖いだけだ。だから面倒が起こりそうなことはやるなと、商売拡大に反対する。

ニコン パナソニック

ヤハマ 三菱電機

(出展している日本企業の数々)

だったら軍隊にはひとつたりとも製品は売らないと、いかなる形でも自衛隊を含めて潔く軍隊へのセールスを止めればいいのだが、軍隊相手に商売もしたいというのが本音だ。要は小役人のような事なかれ主義であり、卑怯だ。光学製品やエレクトロニクスの場合、ハイエンド製品は軍用だ。赤外線レンズなどはの高性能品は殆ど軍・警察用だ。ところがここを諦めてミドルエンドやローエンドの市場では韓国、台湾、中国などのメーカーが追い上げてきており、価格では日本企業は太刀打ちできない。日本企業が生き残るためにはハイエンドを目指すしかないのだ。

帝人

(出展している日本企業の数々)

例えばファスナー一つにしても軍の特殊部隊は極めて先端的な物を要求する。彼らの意見を取り入れて新型製品を作れば、それが軍の一般部隊に広がり、その後アウトドアなどの民間市場に広がる。防水素材のゴアテックスなどはその好例である。

しかも国内市場である自衛隊は先端的な装備の調達や開発に意外に不熱心だ。例えば外国であれば百個千個単位でオーダーするようなものですら、年に数個である場合が多い。決断に時間がかかり、調達も非常にスローモーで世の中から完全に出遅れている。また開発するための予算も潤沢にない。国内の「軍事市場」だけを相手にしていると完全に出遅れる。しかも既存の防衛産業メーカーの利権やしがらみがあり、新規参入は難しい。帝人のアラミド系防弾繊維トワロンはデュポン社のケブラー次いで世界第二位の売上を誇っているが、帝人は防衛省に入り込めていない。同社はこのような国内市場を見捨て、世界を相手にしている。

技術的な優位を維持し、生き残るためには、世界市場の中の軍事分野で先端装備の開発に関わっていく必要がある。中小企業には大企業のようなしがらみがないので、リスクをとって海外に進出しようとしているメーカーは増えている。無論無差別に技術や製品を売っていいわけではない。ことに中国などに対するセールスは汎用品といえも軍事的に価値が高く、サプライヤーが限られているものは厳格に制限すべきだ。

企業としてきちんとしたコンプライアンスと哲学を持ち、その上で節度をもって世界の軍事市場に参入するのであれば問題はあるまい。それが嫌だ、弊社は「平和企業」だと言いたいのであれば、一切軍用のセールスをやめるべきだ。これは直接的なセールスだけではなく、間接的なセールスも含めるべきだ。例えば販売後の追跡調査を行い、違反があればその取引先とは商売をやめるぐらいの覚悟と、コスト増を覚悟する必要がある。多くの日本企業の経営陣はそこまで真剣に考えてもいないだろう。

安倍首相は軍事部門の輸出を拡大したいのであれば、現場の邪魔をする大企業のトップに意識改革を求めるべきだ。そうでなければいくら武器禁輸政策を緩和しますといっても、輸出は伸びないだろう。首相が軍事見本市を視察するぐらいはすべきだ。また併せて軍事=死の商人的な短絡的な発想は現実的ではないと、国民を説得し世論を変えるべく努力すべきだ。それから現在の武器関連の輸出の人治的な規制を見直す必要がある。役所ごとに(役所の中でも課でごとに違ったりするが)見解が違い、また課長クラスが変わると基準が変わるという現状見直す必要がある。

武器輸出緩和に関しては政府の果たす役割は極めて大きい。

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