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.国際  投稿日:2015/2/18

[文谷数重]【尖閣諸島問題は原野商法?】~“平和的睨みあい”日中にメリット~


 

文谷数重(軍事専門誌ライター)|執筆記事プロフィール

尖閣問題は原野商法に引っかかったようなもの

尖閣諸島に資源があり国益という主張は、原野商法と同じではないか。互いに争って自国のものにしても、現実的な利益はない。陸地に利用価値はなく、海底資源も怪しく、漁業資源は概略の話し合いが済んでいる。

尖閣諸島の陸上部には利用価値がない。土地は狭隘で真水も電気もない。大正時代に鰹節工場を作っても、最終的に撤退した立地である。人件費が安く、労働環境について「我慢しろ」が許された時代でも経済的に成り立たなかった土地だ。

海底にあるといわれた原油・天然ガスも怪しい。天然ガスはあるかもしれないが、経済的にはこれもペイしない。石油資源開発取締役だった猪間明俊氏は、「石油はないだろう、天然ガスも試掘や輸送の観点から商業化は難しい。」と言っている。

唯一、商業的に成り立つ漁業については、日中で話し合いが済んでいる。日中漁業協定では、排他的経済水域は双方の漁民がアクセスできるようになっている。島の領海部についてはそれぞれに都合よく解釈できるように有耶無耶にしているが、それは知恵というものだ。

つまり、尖閣諸島には争う実利はない。陸上部分、周辺海底には資源や利益はない。漁業資源はあるが、すでに日中で話し合いが済んでいる。実利として争うほどのものはない。

尖閣の資源云々といった話は、原野商法での騙しに似ている。まだ発見されてもいないし、見つかっても儲かる見込みもない。しかし、儲かるのではないかという色気で引き釣りこまれてしまっている。

結局は地図の上で何色に塗るかの問題である。これも、日本も中国も勝手に自国の色に塗れば済む。双方ともそれで満足する。逆に、相手の地図の色に文句をつけてもどうなるものでもない。

現実の利益がないことは、両国政府は承知している。

だが、ナショナリズムには抵抗できない。2010年の船長逮捕以降、日中双方でナショナリズムは吹き上がってしまった。領土は神聖である。また、領土を喪った政府は倒れることにもなりかねない。

そのため、日中は海上警察力を尖閣諸島に投入してゲームを行っている。ある意味、海上警備力の消費を自国国民に見せるだけの、一種のポトラッチ(注1)であり、仕方がないが馬鹿馬鹿しい話である。

ただしゲームも安定してきてはいる。中国公船が12マイル以内に入り込み、日本公船がそれに事務的に抗議する出来レースは安定してきた。両国とも軍隊は関与させない、民間活動家は島に寄せ付けないという暗黙のルールを守っている。日中双方とも12マイル以内に軍事力を展開させるようなことはしていない。中国は自国漁民や、香港・澳門の尖閣活動家の行動を完全に封止している。日本も民間船の接近阻止を図っている。

今の平和的睨みあい状態は、日中にとってそれほど悪いものではない。もともと争うほどの資源もない島である。自国のものとする利益よりも、相手国との軍事的対立や交易混乱といった不利益のほうが大きい。

日本としては、尖閣に日本の力を吸い取られないようにしたほうがよい。その意味では、現状の固定化を図り、平和的に安定させるのは悪い話ではない。中国は尖閣での安定を確信できれば、より核心的な利益である南シナ海での権益確保に向かう。そうなれば、東シナ海での対中対峙は穏やかにもなるためである。

(注1)北米先住民の儀式。地位や財力を誇示する為、お互いに高価な贈物の応酬を繰り返す行為。

「続き【尖閣問題:最善と最悪、2つのシナリオ】」をお読み下さい。

http://japan-indepth.jp/?p=15333

 


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