[文谷数重]【尖閣問題:最善と最悪、2つのシナリオ】
【最善の展開】
日中が仲良く睨み合う現状を維持しつづけることである。それにより、尖閣問題はコントロールされ暴発を防ぐことができる。それにより、日中両国の利益は十分確保されるためだ。
実際に、仲良く睨み合うことで尖閣問題は沈静化しつつある。両国政府は相手国の国民感情を刺激せず、自国国民感情の暴発を防いでいる。現状維持を続けられれば、尖閣問題は国民意識のなかで徐々に矮小化される。
日中は深刻な対立を回避できる。資源のない無人島よりも重要な、相互の貿易や投資による経済発展や自国民保護を確実にできる。
また、日中双方が警備態勢を維持することで自称「愛国者」の行動を抑圧できる。日本と香港、澳門、台湾を含む中国の尖閣問題活動家は、日中双方のナショナリズム・コントロールについての不安要因である。彼らの上陸を阻止することは、両国にとって対立を回避できる点で相互に利益である。
【最悪の展開】
日中いずれかが尖閣を上陸占拠することである。これは、日中対立が事変レベルまでエスカレーションする点で双方にとっての不利益であり、しかも双方に何の利益も産まない点でも無意味である。その意味で最悪である。
尖閣は、無人島であるかぎりはそれほどの問題はない。島に相手国が上陸して占拠されない限り、日中双方の国民は、互いに自国領土であるとする想像し、確信しつづけることができるためだ。つまり、無人島であるかぎり、神聖な領土が侵略されたという感覚は想起されない。
しかし、相手国の軍隊、警察、「愛国者」が上陸し、占拠したとすればそれは侵略である。国土を奪われたとする感覚から、侵略された国民は激怒する。政府も、国民感情から取るに足らない島であることを知りつつ、対処せざるを得ない。
この場合、日中は交戦あるいは交戦前夜となる。まず、交戦するほどの利益もない島のために戦争をするほど無駄なことはない。また、交戦はなくとも互いに軍事的に対立し、経済的制裁を加え合い、在留相手国民の利益制限に走る点も、利益を産まず不利益だけ積み上がる行為である。
なによりも馬鹿馬鹿しいのは、占拠した側も何の利益も得られない点である。占拠を許した側は、島の「奪回」や、島の利用拒否に力を注ぐ。仮に尖閣に海底資源があったとしても、その開発も使用も許さない状態となるということだ。
つまり、日中は上陸占拠により、した側も、された側も、互いに損耗し現実利益を失うということだ。このような点からみると、日中にとって危険なのは、自分たち政治的の利益だけで動く日中(香港、澳門、台湾を含む)尖閣活動家といえる。現状では、日中政府と台湾政権は活動家をコントロールできているが、これは運用による抑制であって、制度による管理ではない。
【最悪シナリオを避ける方策】
その点からすれば、日中台での、暗黙の了解による「民間人の接近・上陸制限」は必要ではないか。例えば、水産資源保護と屁理屈つけて、「島から12マイル以内を漁労禁止」とするものである。またあるいは、アホウドリの生息「環境維持のための絶対的な上陸禁止」といったものを、日中台がそれぞれ独自に、自分の領土に自主的に掛けるようなやり方はあってもいいだろう。