[西村健]【曖昧、抽象的な、戦略という名の幻想】 ~東京都長期ビジョンを読み解く!その5~
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
地域戦略、まちづくり戦略といったものを策定する仕事に長年関与してきた私。住民の意識調査や首長の経営方針を元に、現状分析結果をもとに内部で議論し、意見交換を重ねて、施策レベルや事務事業レベルでの優先順位をつけていく、そんな活動だ。
北川元知事がリーダーとして進められた三重県で始まる行政改革。その成功を受けて、各自治体は「運営から経営へ」という大きなブームが巻き起こり、多くの自治体が企業からその経営手法を学んできた。
組織や市役所、地域としての戦略は必要だと思う。しかし、都市レベル、特に人口100万人以上の都市、東京のような世界レベルのグローバルな都市においては戦略など描けるのかという疑問が少なからずある。
東京都の長期ビジョンでは、政策の方向性を示す8つの「都市戦略」が掲げられている。
1 成熟都市・東京の強みを生かした大会の成功
2 高度に発達した利用者本位の都市インフラを備えた都市の実現
3 日本人のこころと東京の魅力の発信
4 安全・安心な都市の実現
5 福祉先進都市の実現
6 世界をリードするグローバル都市の実現
7 豊かな環境や充実したインフラを次世代に引き継ぐ都市の実現
8 多摩・島しょの振興
それぞれの都市戦略を見てみると、2020年、2024年頃にかけての、「東京の姿」、「政策目標」(社会や都民生活の指標・状況、主な取組の到達目標)と大きく2つの項目から構成されている。
この戦略、3つの特徴がある。
第一に、戦略というにはバラ色すぎる未来であることだ。都市戦略2の2024年頃の東京の姿「東京の持続可能な発展を支える、人と環境に優しい交通体系が実現され、東京が世界一便利で快適な都市となっている」という文言を読んでどう思うか。素晴らしい理想ではあるが、抽象的でもある。
第二に、未来の社会や科学技術動向などの予測が十分でないことだ。5年後、9年後に社会がどう変わっているのだろうかを検討した跡すら感じられない。社会の前提が今のまま進んでいくわけではないだろう。2005年と今を比較してみたらわかるはずだ。企業の先端技術研究、資本の動き、世界の動きなどの前提を示す必要がある。
第三に、言葉の定義の曖昧さだ。「レガシー」といった都民が理解できるのか疑問な言葉の数々、さらに「子供からお年寄りまで誰もが安心して快適に利用できる交通体系を実現」「誰もが安心して医療を受けられる環境の実現」という雲をつかむような体言止め。まさに「東京文学」「東京夢物語」と言っては皮肉だろうか。
これほど具体性のないものは戦略とは言えるのだろうか。東京都知事選挙での争点化・議論は十分だったのか。都民へのわかりやすい広報・ワークショップなどの相互対話が重ねられたのか。この疑問を解決するためにも、多くの都民の認知度、理解度、納得度の調査から再出発してみてはどうか。