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.政治  投稿日:2025/2/13

沖縄市長選挙結果の分析(下):保守系候補の勝因と「オール沖縄」の苦境


目黒博(ジャーナリスト)

目黒博のいちゃり場

【まとめ】

・保守系花城大輔候補の勝因は、桑江市政の継承の強調、「弔い合戦」、組織動員の成功などである。

・「オール沖縄」のエース惨敗について、玉城知事から「ひとごと」のような発言が飛び出した。

・経済・産業政策に関心を示さない「オール沖縄」は、基地問題でも新しい局面に向き合わず、苦境打開は難しい。

 

<花城候補の勝因>

なぜ、花城大輔候補は下馬評の高かった仲村未央候補に圧勝したのか。4つの要因が考えられる。

まず、故桑江前市長の業績を称え、安定した市政の継承を打ち出したことだ。たとえば、バスケットボールの「聖地」となった「沖縄アリーナは、防衛省や内閣府などからの補助金や特定事業推進費を活用して建設したものだ。高く評価されてきた桑江市政の継承は、花城氏の選挙スローガンの肝であった。

写真)沖縄アリーナ内観

出典)沖縄市役所HP

また、故桑江前市長の「弔い合戦」を強く押し出した作戦も効果的であった。1月19日の告示前には、仲村候補優勢とされたが、「弔い」は市民の共感を呼び、その流れを逆転させた。

第三に、各業界に広く呼びかけ、組織動員を行ったことが挙げられる。1月23日に沖縄市民会館で開催した総決起大会には、定員1,500名を超える約2,000名が参加し、会場からあふれた。選挙戦最終日(1月25日)の「Vロード」で、花城候補が打ち上げ式に向かう道路沿いに集まった支援者は1.5㎞におよび、動員力を見せつけた。

第四に、10年前まで続いた革新市政に戻れば、政府とのパイプが失われ、経済が低迷するとアピールしたことだ。「オール沖縄」系市長が行政を停滞させ、次々と落選してきたことを考えると、この訴えは説得力があった。

写真)花城ダイスケ総決起大会(2025年1月23日)

出典)花城ダイスケ後援会Facebook

<選挙結果をめぐる知事発言の波紋>

エースのまさかの惨敗が、「オール沖縄」勢力に与えた打撃は計り知れない。その痛手をさらに深めかねない発言が、玉城デニー知事から飛び出した。

1月28日付『沖縄タイムス』は、投開票の翌27日に、知事が「私は(「オール沖縄」という)団体のオーナーでも何でもなく、私を支援している団体の一つと捉えている」と述べたと報じた。玉城知事は、沖縄市長選での敗北は自分の責任ではない、と強調したかったのだろう。だが、知事自身の地元である沖縄市で、自分の支持勢力のエースが惨敗したのだ。「まるでひとごと」との声が聞かれた。

また、「オール沖縄」は「団体」ではない。普天間の辺野古移設反対に賛同し、知事選で故翁長氏、ついで後継の玉城デニー氏を応援してきた勢力の「総称」であり、知事支持派と同義である。

「オール沖縄」とは別に、「オール沖縄会議」が存在する。この組織は、2015年12月に、政党、組合を始め、多様な団体が参加して設立されたが、実質的に辺野古工事への反対運動に特化し、選挙には関わらない。名前が似ているだけでなく、両方に関与する人もいるので紛らわしいが、「オール沖縄」の「象徴」である玉城知事は、その違いを認識していないようだ。

県議選や市長選で敗戦が続く。だが、玉城デニー氏の好感度は高く、来年秋に予定されている知事選で3選される、と見る人が多い。

自らの人気に自信を深める知事は、具体的な政策より、県民向けのパフォーマンスを好む。彼のこのような姿勢が、県庁職員の士気低下を招き、幹部の調整力の欠如も重なって、行政の機能不全をもたらしている。手続きミスが多く、本島北部での大雨災害の際には、初動の遅さが批判された。定年前に退職する職員が若手を中心に増えている。玉城知事が自身の責任の重さを明確に認識し、課題を克服できるかどうか。

写真)玉城デニー沖縄県知事

出典)沖縄県HP

<「オール沖縄」は苦境を打開できるか>

「オール沖縄」は、年が明けて早々、1月19日の宮古島市長選に続き、沖縄市長選でも敗北した。さらに、2月9日に投開票された浦添市長選では、保守系の松本哲治現市長が4選を果たし、1月と2月で、市長選3連敗を喫している。

巻き返しをはかる同勢力にとって次の山場は、4月27日に投開票されるうるま市長選挙だ。この選挙には、「オール沖縄」のもう一人のエース、社民党県連前代表の照屋大河県議が出馬する。保守分裂の可能性もあり、照屋氏にもチャンスがある。

さらに、7月の参議院議員選挙でも同勢力に勝機がある。自民党の人材難もあり、高良鉄美・現議員が再選される可能性があるからだ。ただし、高良氏再選のためには、彼が代表を務めるローカル政党社会大衆党と、立民や他の革新系政党、連合などとの間の相互不信を解決することが条件となる。

(注) この「オール沖縄」内の軋轢については、拙稿「2024年後半の沖縄政治を振り返る(下)」(“Japan In-depth”2025年1月19日/https://japan-indepth.jp/?p=86126 )を参照。

「オール沖縄」の弱点は生活・経済と安全保障である。沖縄市長選と同時に行われた市議会議員補欠選挙で、革新系候補が保守系を破ったことに、同陣営が進むべき道に関するヒントが見られる。高江洲みどり氏は給食費助成に焦点を絞って当選し、生活に直結する具体策が支持されることを示した。とは言え、この勢力にしっかりした経済・産業政策がない状態は続く。

「オール沖縄」の原点である辺野古問題は、2024年3月に裁判闘争で県の敗訴が確定し、過去の問題になりつつある。工事が進む間は、少数の活動家たちが実力阻止闘争を続けるだろうが、県民全体の関心は薄い。

基地問題の焦点は、辺野古から南西シフト(九州から八重山諸島にいたる地域への自衛隊の配備)に移っている。「迷惑施設の負担問題」から、中国・台湾問題に起因する「東アジアの安全保障」へと、局面は大きく転換しているのである。だが、立場の違う政党を抱える「オール沖縄」は選挙協力を優先し、このような新しい課題の検討を怠った。このままでは、時代の流れから取り残されるだろう。

 

上はこちら

 

トップ写真)当確が出て花束を受け取る花城大輔候補(2025年1月26日)

提供)花城ダイスケ後援会




この記事を書いた人
目黒博ジャーナリスト

1947年生まれ。東京大学経済学部(都市問題)卒業後、横浜市勤務。退職後、塾講師を経て米国インディアナ大学に留学(大学院修士課程卒)。NHK情報ネットワーク(現NHKグローバルメディアサービス)勤務(NHK職員向けオフレコ・セミナー「国際情勢」・「メディア論」を担当)、名古屋外国語大学現代国際学部教授(担当科目:近現代の外交、日本外交とアジア、英文日本事情)、法政大学沖縄文化研究所国内研究員などを歴任。主な関心分野:沖縄の「基地問題」と政治・社会、外交・安全保障、日本の教育、メディア・リテラシーなど。

目黒博

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