沖縄市長選挙結果の分析(上)「オール沖縄」エース大敗の背景

目黒博(ジャーナリスト)
【まとめ】
・「オール沖縄」のエース、仲村未央候補がまさかの惨敗を喫した。
・「オール沖縄」陣営はまとまりが欠け、選挙運動の熱量も不足していた。
・「オール沖縄」の選挙戦略は、仲村候補の個人人気頼みで、政策があいまいであった。
本年1月26日に投開票された沖縄市長選挙で、「オール沖縄」が立てた仲村未央候補が予想外の大差で落選した。花城候補約31,300票、仲村候補約22,800票で、その差は8,500票に上る。地元メディアに「『横綱』大敗」との見出しが躍るなど、衝撃的な結果であった。
本稿、「選挙結果の分析(上)」では、「オール沖縄」エースの惨敗をもたらした要因を探り、同勢力の現状を考える。続く(下)で、保守系候補花城氏の勝因と「オール沖縄」の危機について述べる。
<各政党支持別と年代別の投票先から見える特徴>
『琉球新報』(1月28日)が掲載した出口調査の結果は、今回の選挙の特徴を如実に示している。以下、各候補者の政党別支持割合と年代別支持割合を記す。
政党別支持割合
年代別支持割合
*小数点以下は四捨五入。
政党支持別データで目立つのは、れいわ新選組(れいわ)支持者が4割以上、ローカル政党社会大衆党(社大)支持者も25%が花城候補に流れたことだ。その背景には、昨年秋の総選挙4区の「オール沖縄」統一候補決定をめぐる混乱があった。
統一候補決定に不満を持ったれいわが「オール沖縄」を離脱して独自の候補を立て、同陣営の統一候補になった立憲民主党(立民)公認、金城徹氏が落選した。社大が金城候補を積極的に応援しなかったとみなされたことも加わって、立民の両党への怒りは収まらず、勢力内の雰囲気は悪化した(*)。その結果、れいわ、社大両党の支持者の一部が、立民
に反感を抱き、立民県連代表だった仲村候補を嫌ったのだろう。
(*)この件については、拙稿「2024年の沖縄政治を振り返る(下)4区の「オール沖縄」分裂とミニ政党などの存在感」(“Japan In-depth”2025年1月19日)を参照。
共産党とれいわは左翼支持層を奪い合っているため、老舗の共産にとって、新興のれいわは腹立たしい存在だ。立民とれいわ、立民と社大の関係悪化などのほか、共産に対する他の政党の警戒感もある。「オール沖縄」勢力内では、政党間の相互不信が常にくすぶっている。
公明支持者の3割弱が仲村候補に流れたことも目を引く。創価学会婦人部内に、女性候補への親近感があるだけでなく、同時に花城候補の保守系右派的な政治志向を嫌ったことなどが推測されるが、公明関係者はむしろ出口調査の信ぴょう性を疑う。実際にはどうなのか、はっきりしない。
年代別の投票先に目を転じると、花城氏が若い世代の支持を集めたことは明白である。特に、働き盛りの40代では同氏が仲村氏を圧倒した。「オール沖縄」の支持者は高齢者に偏っており、同勢力内にも、支持層の先細りを懸念する人が増えてきた。
なお、投票率は前回市長選より約4%上回ったが、それでも50%を切る低さだった。逆に、期日前投票数が前回より約2,000票増え、組織票が多い自公側に有利な選挙であった。
写真)沖縄市役所に初登庁する花城大輔新市長 2025年1月27日
提供)花城ダイスケ後援会
<仲村未央候補の敗因>
第一に指摘できることは、先述したように、「オール沖縄」勢力に遠心力が働き続けたことだ。政党同士が反目し合い、十分連携できなかった。「オール沖縄」成立以来、まとめ役を果たしてきた新里米吉元県議会議長が2022年に逝去し、今や調整役は不在である。
第二に、「オール沖縄」の選挙戦略は、仲村候補の個人的な人気頼みになり、政策の新鮮さと具体性が欠けたことがある。人材育成、子どもや高齢者の支援などを掲げ、「みんなのこえ市民会議」を設置して、広く市民の声を集めることなどを提唱した。しかし、「市民会議」については、「これまで、広く市民の声を聴いてこなかったのか」と、冷ややかな反応を招いてしまう。仲村氏は、議員としては優秀で人気も高いが、行政感覚は欠けていると見る人も多い。
第三に、仲村氏にとって、難しい選挙だったことが挙げられる。桑江市長が亡くなったのは昨年12月9日であったが、その2日後に県議会で質問に立った仲村県議(当時)は、冒頭で、故桑江氏の功績を称え、お悔やみを述べている。仲村未央氏は、前市長を追悼しつつ、「弔い合戦」を旗印に掲げた花城候補と戦わねばならなかった。
写真)仲村未央氏
仲村候補は市政刷新を訴えたが、前市長の功績を認め、その死を悼む以上、桑江市政の批判は封印せざるをえず、何をどう「刷新」するのかがあいまいになった。
革新のエースである以上、窮地に立つ「オール沖縄」からの出馬要請に応えざるを得なかったし、本人も自信があったと見られる。だが、政界通の中には、今回の選挙の難しさを十分認識しなかった、仲村氏の政治判断の甘さを指摘する声もある。
さらに、告示前には優勢と言われ、陣営の緊迫感が薄らいだと証言する関係者もいる。花村氏サイドとの熱気の差が大きく、選挙戦終盤には「勝てそうもない」との見方が出る有様だったという。
(下につづく)
トップ写真)当確時の花城大輔陣営 2025年1月26日
提供)花城ダイスケ後援会
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この記事を書いた人
目黒博ジャーナリスト
1947年生まれ。東京大学経済学部(都市問題)卒業後、横浜市勤務。退職後、塾講師を経て米国インディアナ大学に留学(大学院修士課程卒)。NHK情報ネットワーク(現NHKグローバルメディアサービス)勤務(NHK職員向けオフレコ・セミナー「国際情勢」・「メディア論」を担当)、名古屋外国語大学現代国際学部教授(担当科目:近現代の外交、日本外交とアジア、英文日本事情)、法政大学沖縄文化研究所国内研究員などを歴任。主な関心分野:沖縄の「基地問題」と政治・社会、外交・安全保障、日本の教育、メディア・リテラシーなど。

