[西村健] 【「オリンピックでレガシー(遺産)築く」実現可能?】~東京都長期ビジョンを読み解く!その6~
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
レガシーという言葉を辞書で引くと、
1 遺産。先人の遺物。
2 時代遅れのもの
とある。
この言葉は長期ビジョンにおいて頻発している。特に、都市戦略の前に「オリンピックによってもたらされるレガシー」について35ページから45ページにわたって記載されている。なかなか重要な位置づけのようだ。わざわざレガシーの考え方まで提示されている。
「オリンピック・パラリンピックをきっかけに東京がどのように変わっていくのか、長期ビジョンに掲げている2020年大会に向けた政策が将来、どのように実を結び、後世に残されていくのか、計画期間の10年後の更なる先をも見据え、都市としてのあるべき姿、理想とする姿について、基本的な方向性を分かりやすく示したものである」そうだ。
詳細を見てみると少しびっくりする。第一に、基本的な認識。1964年大会によって「国民が自信と希望を取り戻し、他者を思いやる心を回復」したと記載されている。確かに「国民が自信と希望を取り戻し」た、とは言われるし、伝説となっている。実際、実感ベースでそう思っている人は多いだろう。しかし、そのような「歴史認識」は科学的な根拠で検証できたのだろうか。ちなみに、1970年の自殺率(人口10万人対)は13.1なのだが、2013年は21.3となっている。
第二に、実現可能性。「文化・教育」面で2020年東京大会までの取組として心のバリアフリー化の推進が記載されている。ここでは「街中で声をかけられた時や困っている外国人を見かけたとき、誰もが親切におもてなしの心で対応」との記載。とても素晴らしい。
しかし、「困った外国人を見かけたときに」都民はどう対応するのか。この文章を作成した専門家に聞いてみたい。あなたはどうしているのか?と。行動についてのアンケート調査でそういった数値はでているのだろうか。
そもそも、時間に終われ、歩くのが早く、忙しい都民がそこまでできるのか。宮台真司首都大学東京教授が言う「知り合い以外は皆風景」の都会のジャングルで押し合いへし合いながら、物がぶつかっても「ごめんなさい」の一言も言わない人を多く見かけるのに。
心のバリアフリーについては「レガシーとして未来に引き継ぐもの」の記述も見てみよう。「2020年大会を契機に強まった都民としての誇り、人のつながり、東京への愛着が、他者を思いやる共助の心を育み、地域コミュニティの再生や安全・安心な暮らし等に寄与」するのだそうだ。
2015年度に「レガシービジョン(仮称)」が策定されるそうだ。この現実感と実現可能性を策定予定のビジョンにおいては過去のもの、負のレガシー(遺産)にしてもらいたいものだ。