あなたは大阪・関西万博のコンセプトを知っているか?②【日本経済をターンアラウンドする!】その29
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・大阪・関西万博の意義として「イノベーション創出」が謳われている。
・SDGs達成を目指し、多様な主体が関わり共創することが期待される。
・世界で競争力が低下する今の日本でこそ、万博の重要性は高まっている。
2025年日本国際博覧会(以後、大阪・関西万博)で実現することとしては、以下の5つがあげられている。
- 最先端技術など世界の英知が結集し新たなアイデアを創造発信
- 国内外から投資拡大
- 交流活性化によるイノベーション創出
- 地域経済の活性化や中小企業の活性化
- 豊かな日本文化の発信のチャンス
ここにおいても、明確に「イノベーション創出」が謳われている。やはり、万博にとってはイノベーションはキーとなる理念であることがわかる。そう、今回の万博の意義は「イノベーション」にあるといってもいいだろう。
【出典】筆者撮影
□なぜ「イノベーション」が必要なのか?
さて、イノベーションとは何か。定義では「モノや仕組み、サービス、組織、ビジネスモデルなどに新たな考え方や技術を取り入れて新たな価値を生み出し、社会にインパクトのある革新や刷新、変革をもたらすことを意味」とされている。ながらく「技術革新」「改善」という狭義の意味に捉えられてきたが、結構広い概念である。しかも、範囲は広く及ぶ。プロダクト、プロセス、マーケット、サプライチェーン、オーガニゼーションなど各段階において、イノベーションが存在する。
株式会社ターンアラウンド研究所の小寺昇二が言うには、
「イノベーションは五つに分類されています。
・新しい財貨の生産
・新しい生産方法の導入
・新しい販売先の開拓
・原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
・新しい組織の実現(独占の形成やその打破)
このように、イノベーションの定義は単なる「技術革新」なのではなく、多様な「革新」全般を表した言葉」(オリックス社HP、小寺昇二「イノベーションによって、会社の未来創造を!」)だそう。
また、こうした分類とは別に、大きく分けて、2つのイノベーションがある。それは、既存の概念にとらわれず、新たな発想を積極的に取り入れることで、新製品や新サービスを生み出していく「破壊的イノベーション」と顧客の意見や要望を取り入れながら進める「創造的イノベーション」である。
こうした中で、「イノベーション」において重要なのは「新たな要素の組み合わせ・新結合」による新商品・新サービスの開発である。例えば、パソコンと携帯電話を「新結合」したアップル社のi Phoneもそう。誰でも手軽にキャンプをやりたいというニーズにこたえたグランピングもそう。面倒なクレジットカード入力が一度で済むようになったアマゾンの1click注文などがこれにあたる。日本、大阪で言うと、日清のカップラーメンなど様々なイノベーションが存在する。
□大阪・関西万博でどういったイノベーションができるのか?
今回の大阪・関西万博でどういったイノベーションができるのか。万博向けの企画・商品開発、海外との対話、様々なプロセスでの準備、現場での客からの意見交換、フィードバック・・・においてイノベーションが可能になる。もちろん、万博というお披露目の場が企業にとって提供されていることは、経済活動にとっても非常にありがたいことだ。そこに世界各地から顧客が集まる。よく東京ビッグサイトとかで「国際見本市」とかが行われているか、あの民間企業のイベントが限りなく大きい「場」として提供されるということだ。
といっても、大企業向けのイベントでしょ?
と思うかもしれない。今回の万博では「TEAM EXPO 2025」プログラムというSDGsの取り組みも並行して提供されている。「TEAM EXPO 2025」プログラムとは「大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を実現し、SDGsの達成に貢献するために、多様な参加者が主体となり、理想としたい未来社会を共に創り上げていくことを目指す取り組み」である。多様な主体による共創を進めていっているのだ。一部企業だけではない、多様な主体が関わりあって「共創」するというもの。多様な主体が交流し、相互に影響しあい、アイデアを一緒に出し合う「創造の場」のイメージである。ともに、考え、練り、作り上げる、そのプロセスこそ創造性が発揮されるという意義がある。
筆者が関わる株式会社ターンアラウンド研究所も万博のSDGs活動でもある「共創チャレンジ」のひとつとして、「オープンイノベーションによるリブランディングAWARD」を立上げ、製品・サービスの「イノベーション」を進めようとしている(自己宣伝みたいで申し訳ないが・・・)。ここでは、デザイン思考(+アート思考)といった新しめの手法、AIなどのITツール、ワークショップなどの有効なアイデア創造手法を駆使して、大阪を中心とする地方の特産品を磨き上げようとしている。
□さて、日本経済にもたらす経済価値
日本経済がいま直面しうるのは、労働生産性、1人当たりGDP、平均賃金、企業の競争力ランキングなどなど各指標での圧倒的な地位低下。そして、顧客のニーズが多様化して読めない。量産型の商品・サービスを広告宣伝を打って顧客に買ってもらう、そんなマーケティングが通用しなくなっているビジネス世界。多様性、DX、AI、脱炭素化・・・・そうした混とんとする未来を前にして「イノベーション」、特に「共創のイノベーション」の必要性はますます高まっており、ビジネスにおける可能性も広がってきている。
だからこそ、万博なのだ。
ただし、イノベーションは一夜にしてできるものではない。多くの実験を重ね、失敗から学び、課題を乗り越えるための苦労と汗の先にイノベーションが起きる。だからこそ、日本経済を支える人々が創造性を活かして挑戦することが求められる。日本の製品・サービス・先端技術がお披露目でき、高品質や巧みな技術をどうビジネスにつなげていくか、ビジネスパーソンが考えることができ、顧客と共に思考を深められる、そんな新たなイノベーションの「場」が万博であるのだ。
トップ写真:世界で最も大きい木造建築の一つである大屋根リングが建設されている様子(2024年4月8日、大阪)
出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images)