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.国際  投稿日:2014/11/23

[岡部伸]【ロシア、過度の対中依存に警戒感】~蜜月の象徴?中露国境ツインシティーアムール川に橋を共同建設へ~


岡部伸(産経新聞編集委員)「岡部伸(のぶる)の地球読解」

執筆記事

かつて中ソ国境紛争の舞台だったアムール川(中国名・黒竜江)。ロシア極東アムール州の州都ブラゴベシチェンスク市は、このアムール川を挟んでわずか800㍍の中国の黒竜江州の黒河と向き合う。この中露国境のツインシティーがアムール川を横断する橋を建設するべく合弁企業を立ち上げた。2008年に4300㌔に及ぶ国境が画定された大河に橋が架けられるのは、中露蜜月の象徴として注目を集めそうだ。

イタル・タス通信によると、合弁企業は橋の建設計画を策定し、また投資を行う。自動車用と鉄道用の橋が順を追って建設される。まずは自動車用の建設が2015年夏に始まる。橋の全長は1㌔㍍、幅は15㍍。片側2車線で、両側の中間には安全地帯が設けられる。また両端には歩行者用レーンも設けられる。

ブラゴベシチェンスクと黒河との間に「アムール(黒龍江)大橋」共同プロジェクトは、ブラゴベシチェンスクの「川の駅」周辺で埋め立て工事が進められ、ここに貿易センターを建設し、架橋する計画だ。対岸の黒河の川岸でも、同じ工事が進行する。中国側は中国製品を売り出す貿易の一大拠点に、ロシア側には中国の資本と安い労働力を使って過疎化する極東シベリアを開発する拠点にする思惑がある。

一九九五年に両国政府が基本合意しながら、これまで工事の着手に至らなかったのはロシアが中国経済に飲み込まれることを懸念したためだ。ところが、国境が最終画定され、折からのウクライナ危機をめぐってロシア経済が低空飛行する中で最終合意し、いよいよ動き出した。「国境の橋」が完成すれば、アムール川を挟む、この一帯が経済圏となり、中国主導の開発が本格化する。

河口を除けば、川幅数百㍍のアムール川は、人の往来は自由だが、これまで一度も橋が架かったことはなかった。戦前は、日本の影響下にあった満州(中国東北部)とソ連は人、物の行き来がなく、双方が軍事的に利用されることを警戒して架橋しなかった。ただし一度だけブラゴベシチェンスクと黒河に橋が架かったことがあった。大戦末期の1945年8月9日、中立条約を破って満州に侵攻したソ連軍が満州に建設したインフラなど日本の資産を略奪してソ連領内に撤収しようと、両岸から小舟をワイヤーで繋ぎ、その上に鉄板を敷いた、いわゆる舟橋を架けた。作業終了後、橋が撤去された。

冷戦の最中の1969年3月には、アムール川の支流ウスリー川の中州であるダマンスキー島の領有権をめぐり、大規模な軍事衝突が発生、同じ共産主義独裁国家の兄弟国の中露は全面戦争や核戦争にエスカレートする危機に発展した。1980年代に本格的に交渉をはじめ、プーチン大統領が「フィフティ・フィフティ」方式で2008年に国境を画定したことは記憶に新しい。

欧米の経済制裁の影響で、通貨ルーブルが最安値圏に沈むなど苦境に立つロシアは中国との経済関係を急速に強化している。人口減少が進む極東シベリアでは、国境を隔てる中国の技術、資本を抜きに立て直せない現実があるからだ。

中国商務省によると、1~8月の中国の対露投資額は前年同期の1・7倍に急増。極東や中央アジア地域への進出を目指す中国企業による対露投資が活発化している。訪露した中国の李克強首相は、10月14日、ロシア経済支援のため、38項目の経済協力を調印。ロシア国営ラジオ放送「ロシアの声」は、「石油、ガス、石炭などの膨大な天然資源を有するロシアと、大量のエネルギーを必要としている中国との地政学的同盟は「天で結ばれた」と伝えた。

中露は、かつての「兄」旧ソ連(ロシア)が先端技術を「弟」の中国に教える「主従」関係にあった。しかし、近年における中国の経済成長によって、「弟」の中国が「兄」のロシアを資金や技術で支える逆転現象が起こっている。クレムリンでは、こうした「主従逆転」を苦々しく受け止め、急速に中国との経済関係を強化する一方で、過度な中国依存を深く警戒している。

ロシア新聞によると、イワノフ大統領府長官は、「中国は最重要パートナー国で協力関係を築いてきた。だが唯一のパートナーではない」と語り、メドベージェフ首相も、「中国は最重要パートナー国ではあるが、唯一のパートナー国ではない。すべてのアジア諸国と協力の用意がある」と指摘したと「ロシアの声」は伝えている。日本に秋波を送り、対日関係正常化に乗り出そうとしているロシアの背景には、強化される中露の経済関係がありそうだ。

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