[西村健]【何事にも変えがたいスポーツの恵】~東京都長期ビジョンを読み解く!その14~
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
「スポーツは人生そのものだ」と誰かが言った。勝利への渇望、努力が実った上での勝利、偶然が積み重なった成功、まさかの失敗、予想通りの力負け、苦痛による挫折、怪我による断念、勝利を重ねた末の栄光などの「結果」。自分を追い込む経験、毎日の地道な努力、妥協、辛い練習、仲間との協力、信頼関係の構築・崩壊・再構築などの「過程」。
競技技術、判断力、状況認識力、メンタルのコントロール、練習計画・ペース配分、自分の体との対話、集中力の持続方法、集団内の役割分担、リーダーシップ、フォロワーシップなど、スポーツを通じて人は多くを学び、成長する。
スポーツの経験は本当に貴重なものだ。レベルは違っても、あらゆるスポーツの場面にはドラマ・物語、そして感動がある。このようにスポーツは本当に素晴らしい。
25年3月に策定された「東京都スポーツ推進計画」では、スポーツのもたらす恵みについて、第1章「1スポーツの力」の中で「心身の健全な発達や、心身の健康の保持増進など、都民のQO L(Quality Of Life:生活の質)の向上に大きな力を持ちます」と記載されている。
「都民のスポーツ活動に関する世論調査」によると、都民が期待するスポーツの効果は「健康の維持増進」が85%、「体力の維持向上」が76%、「ストレス解消」が73%と上位を占めていることが明らかにされている。
実際に、スポーツは健康に関する影響や効果がある。「東京都スポーツ推進計画」は幾つかの事例を紹介している。
その中の1つ、国立がん研究センターが全国で約8万人(45-74 歳)を対象に、7年以上追跡した調査で、身体活動量とがん罹患との関連を調査した結果が紹介されている。男女共に、活動量が多いグループほどがんにかかるリスクが低くなるそうだ。最近では、スポーツが脳や学習へ与える影響についても研究(注1)が行われるようになっている。
このように、スポーツは多面的な意義があるものの、東京都の子供達にとってスポーツをする場は限られている。一部の地域では、公園はボール遊びや歓声をあげて遊ぶことすら規制されている(保育園ですら)。さらに、親によってスポーツするよりも受験勉強を推奨されたりもする。
もちろん、体育会系特有の上下関係に我慢を強いられたり、競技と自分との相性が悪かったり、親の過剰な期待に苦しめられたり、勝利至上主義でスポーツの楽しさが忘れ去られてしまうなどのマイナス面もある。
しかし、スポーツの経験は何事も変えがたい。人と出会い、人と協力し、一緒に喜び、怒り、泣き、笑う。人と対立と和解を繰り返し、そうした中で何かを感じ、人は成長していく。携帯電話でコミュニケーションを取る生活では味わえない事ばかりだ。
仕事の場面では、スポーツの経験が役に立ったりすることも多い。相手との役割分担・尊重・一体感、自分をコントロールすること、目標に向けた努力等。もっとスポーツに励んでいればよかった・・・少々後悔している大人がここにいる。
(注1)
http://www.sankei.com/wired/news/130717/wir1307170003-n1.html
http://www.sankei.com/wired/news/130717/wir1307170003-n2.html