[青柳有紀]毒にも薬にもなる「国際協力」のありかた〜なぜルワンダの「国際医療協力」として「教育」にこだわるのか
青柳有紀(米国内科専門医・米国感染症専門医)
先月の11月21日、世界で最も影響力のある医学雑誌の1つである“The New England Journal of Medicine”(米国マサチューセッツ州医師会刊)に、ルワンダ共和国保健省大臣であるアグネス・ビナグワホ氏らによる「ルワンダにおける医療人材育成プログラム——新たなパートナーシップ(Human Resource for Health Program in Rwanda – A New Partnership)」と題された論文が掲載された。この論文では、昨年夏から7年計画で実施されている、同国の医師や看護師の能力向上のための大規模な国際医療協力の詳細が解説されている。
ルワンダ政府は、1994年のジェノサイド当時に米国大統領の職にあったビル・クリントン氏が設立したクリントン財団を通じて、ルワンダの医療従事者の育成と能力向上を図るため、米国の高等教育機関との協力関係の構築をかねてから要請していた。この要請に応える形で計画されたHuman Resource for Health Program(以下、HRHとする)では、主に米国政府が拠出する1億5200万ドルの予算のもと、100人程度の米国大学教員を毎年ルワンダに派遣し、7年間で500人以上のルワンダ人医師と5000人以上の看護師たちの教育を促すことを目標としている。
医師の教育に関する分野では、ハーバード、イェール、ダートマス、ブラウン、コロンビア大学といったアイビーリーグの医科大学院を中心に、内科、外科、小児科、麻酔科、産婦人科など各分野の教員を長期・短期に派遣し、米国の医学生や研修医たちが受けるのと同じクオリティの臨床医学教育を提供している。現在このプログラムに参加している日本人は私一人で、担当している首都キガリにある教育病院では、ダートマス大学から私以外にも一般内科医と形成外科医が1名ずつ、ハーバード大学から外科医と小児科医が1名ずつ常駐し、現地の医師および医学生を日々指導している。
「国際医療協力」とひとくちに言っても、災害時における緊急医療援助や、紛争地域における活動以外にも、例えば医療過疎地における医療活動やHRHのような教育を通じた人的資源育成を目的としたものまで、そのあり方は多様である。では、なぜ自分が「教育」にこだわっているのかと言えば、それが最も「持続性」(sustainability)の可能性を担保しうるものだからだ。国連システムに勤務していた頃から強く思ってきたことだが、国際協力というものは、実際のところ、毒にも薬もなりうる(一般的に、薬は用量を間違えると毒になる)。
極端な例を挙げるとすれば、医師がいない地域における外国人医師の精力的な活動が、その地域における人々の外国人医師に対する依存度を高め、(その医師が何らかの理由で活動を停止した場合などに)人々をより脆弱な存在にしてしまう可能性だってあるのだ。
教育の目的は、学ぶ側の成長と自立を促すことにある。ルワンダにおける我々の任務は、(逆説的だが)ルワンダの人々が我々を必要とせずに済むように、7年間という限られた期間に、どれだけ将来を担う有能な医療従事者を育成できるかにある。
【あわせて読みたい】
- ルワンダ〜圧倒的な暴力によって、たった2ヶ月間に80万人以上の人々が虐殺される狂気。
- 朝鮮半島の核武装〜「究極の交渉力」を持った北朝鮮のシナリオ(藤田正美・ジャーナリスト/元ニューズウィーク日本版編集長)
- 2180年代に日本の人口1000万人以下?〜人口増加の米国でさえ積極的な移民制度、どうする日本。
- ブレが目立つ北朝鮮の政策決定
- 在外の駐在防衛官は外交官?防衛省から外務省に出向してから派遣する奇妙なシステム