【芸術文化都市の在り方に疑問 2】 ~東京都長期ビジョンを読み解く!その20~
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
「文化から東京の未来を切り拓く」「都市に新たな活力やエネルギーを与え続ける存在、それが芸術文化」と舛添都知事が冒頭でその思いを語っている。
3月31日に「東京文化ビジョン」が策定された。今後10年間の東京都の芸術文化振興における基本指針である。文化戦略1「伝統と現代が共存・融合する東京の独自性と多様性を追求し、世界発信」、文化戦略2「多彩な文化拠点の魅力向上により、芸術文化都市東京の発信力を強化」など8つの戦略で今後の方向性が示されている。
そして、「大規模フェスティバル(芸術祭)を展開、世界発信」、「子供や外国人に向けた 本物の伝統芸能体験による 伝統文化の継承と発信」など10の主要なプロジェクトから構成されている。また、一流の芸術家のインタビューなど非常に読みこたえがあり、素晴らしい戦略だと私は思った。
正直、ワクワクするし、文化戦略7「先端技術と芸術文化との融合により 創造産業を発展させ、変革を創出」で書かれている部分に感じられる先見性などは驚嘆したほどだ。本当に素晴らしい。
しかし、全体に共通して気になることも散見された。
第一に、「構築する」「推進する」という言葉が並び、「どのように」という点の記述が不足していること。
第二に、「文学」への言及が少ないことだ。前回も触れた文化についての世論調査において、「世界に誇れる日本の文化は何か」の設問において、我が国の文化芸術の中で世界に誇れると思う文化はどれかを聞いている。
回答結果では、「伝統芸能」の割合が64.7%、ついで「歴史的な建物や遺跡」(56.4%)、「食文化」(31.5%)、「演劇,舞踊,芸能」(28.8%)となっている。
都市の規模別に見ていくとまた新たな側面が明らかになる。(トップ画像/データをもとに筆者作成の表、参照)
東京都区部では、「文学」26.5%と全体の18%と比較して、その部分だけ突出している。都区部に住む住民にとって「文学」は日本が誇る文化だと感じている割合が他地域より高いということだ。その一方で文学についての記載は相対的に少ない。
第三に、歴史性である。江戸・明治・昭和・平成の歴史の流れや他地域と比較しての東京の独自性というものがあまり見えてこない。友人とビジョンを読んでいると「日本の芸術文化ビジョンといっても通用するよね」と友人は指摘した。
第四に、東京都の予算における文化芸術施策への配分額や全体における割合など、文化芸術にどれだけのコストがかけられているのかが明らかになってない。
最後に、このビジョンは策定過程で、パブリックコメントで住民からの意見を募集した。結果は12人から36件の意見が提出されている。アンテナをはっているつもりの私でさえ、そのパブリックコメントの存在を知らなかった(恥ずかしいことだが)が、たった12人というのはどうなのか。このビジョンには住民アンケートの結果なども含まれていない。
東京文化ビジョンの細かい内容、策定過程などについても今後見ていきたい。