[西村健]【芸術文化都市の在り方に疑問 4】 ~東京都長期ビジョンを読み解く!その22~
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
ソーシャル・イノベーション、社会課題解決・・・。こうした言葉がはやりだしたのは7年くらい前からだろうか。このムーブメントは様々な政策分野に広がり、それは文化芸術まで及んでいる。文化芸術を社会課題解決にどのように活用するのか。多くの団体や行政機関、NPOなどが取り組んでいる。多くの人々がこの難題に取組、社会のために活動している。本当にリスペクトしたい活動だ。
東京文化ビジョンでも、文化戦略6「教育、福祉、地域振興等 社会や都市の課題に、芸術文化の力を利用」と掲げられている。「芸術文化の力を活用して、教育、福祉や医療、地域振興等の領域における課題の解決に貢献していく」、そして「NPOや企業等、様々な組織と協力・連携関係を構築し、社会問題の解決を推進する先駆的、実験的な取組を積極的に支援していく」との方針が示されている。
さらに方向性としては、以下の4つ
・街づくり等における課題の解決を推進する先駆的な芸術文化活動や実験的な取組の推進
・東日本大震災の被災地や全国の地域づくりの取組などにおける、芸術文化を用いた交流の場を創出
・子供や高齢者、外国人等と芸術文化をつなぐ民間活動への支援
・芸術文化以外の領域で活躍する先駆者と芸術家などとの異分野交流による新たな社会問題解決手法の創造
が掲げられている。この方向性には心から賛同するし、より有効性のある政策実施を進めてもらいたいと心から願う。しかし、このビジョンに示された課題には驚いた。そこには「超高齢化社会、少子化、人口減少」といったありきたりのものしか示されていない。
東京の社会課題は何か。
極度な一極集中による住民の精神的・心理的負担、余暇時間が確保できないこと、住民間の格差(大金持ちからホームレスまで)、憲法に保障された権利さえ受益できない人々の存在、安全で時間通りには運行されるものの度々遅延する交通システム、慢性的な交通渋滞、通勤時の電車内の混雑、ターミナル駅での人の多さ、20年前の日米構造協議の際にアメリカ人から揶揄されて以来益々悪化する居住空間の狭さ・居住環境、地域コミュニティが一部ではほとんど崩壊・機能していないこと、増える外国人児童、年々減少する緑被率、開発によって失われる生物多様性、高層ビルの乱立、ヒートアイランド現象、隣の人や道行く人は“風景”という人々の心理など、今思いついただけでもこれだけリストアップできる。
「47都道府県幸福度ランキング」(東洋経済新報社)によると、47都道府県のうち、東京都の持ち家比率は47位、待機児童率は46位、一人暮らし高齢者率は47位、悩みやストレスのある人の割合は44位、余暇時間42位となっている。
政治、経済や文化の中心である一方で、大きな問題を抱えているのが実態だ。どのような課題があり、課題はどのような原因からなっていて、文化芸術はどのような課題解決のどの面に影響を及ぼせ、解決に向けてどのように機能するか。
こうした面をより明確化できれば、そこに文化芸術が社会課題解決に貢献できる可能性も見えてくるはずだ。