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.国際  投稿日:2015/5/10

[岩田太郎]【米・ボルティモア暴動を読み解く 3】~96%の米国人が今夏の人種騒動を予想〜


 岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

執筆記事プロフィール

NBCニュースと『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙が共同で実施し、5月3日に発表された全米世論調査の結果によると、96%の回答者が「今年の夏、人種暴動が起こる」と回答している。世論調査で、ほぼ100%の回答はめったに見られない。驚くべき意見の一致であり、今夏のアメリカの危機は重大になることを予想させる。

まず懸念されるのが、ボルティモア蜂起の直接のきっかけとなったフレディ―・グレイ氏(享年25)の死に関連して殺人や過失致死の疑いで訴追された警官の裁判の行方だ。そもそも公務執行中の警官の行動に対して有罪を勝ち取ること自体が、極めて難しいというのが専門家の一致した見立てだ。

起訴された6人の警官は主犯格のシーザー・グッドソン容疑者(45)を含め、3人が黒人だ。半世紀前に黒人指導者マルコムXが、白人の主人の「忠僕」になって、他の黒人を抑圧する黒人がいると看破した状況そのものだ。これらの警官は、内部監視カメラが「故障」している護送車の中で、「グレイ氏が自分の頭を壁に打ち付け、自傷行為で自らの脊椎を切断した」という荒唐無稽な作り話を、『ワシントン・ポスト』紙にリークして報じさせた。

実際は、グッドソン容疑者による護送車の運転がロデオのように乱暴で、グレイ氏は車内の突起物に脊椎がぶつかり、死に至ったのだった。「黒人が拘束の過程や収監中に自傷して勝手に死んだ」という話は、権力側によって古くから繰り返され、受け入れられるパターンだが、『ワシントン・ポスト』紙はそうした情報をチェックもせず垂れ流した。半世紀前の「ウォーターゲート事件」で当時の最高権力者ニクソン大統領の腐敗と闘った名新聞も、今や世界的大企業アマゾン総帥の実業家ジェフ・ベゾス氏(51)に買収され、権力に従順だ。

共和党のベイナー米下院議長(65)は、「起訴事実がもし本当なら、卑劣で受け入れがたい」と述べたが、「もし」の大きな仮定付きだ。特に主犯のグッドソン容疑者には、「人命の尊さに著しく無頓着な心理状態で犯した第2級殺人(depraved heart murder)」の容疑がかけられているが、専門家によると、「容疑者の頭の中に入って調べなければ証明できない」レベルの壁がある。うまくいって過失致死の罪にしか問えないのではないかという。

昨年12月、丸腰黒人のエリック・ガーナー氏(享年43)を絞殺した警官や、マイケル・ブラウン君(享年18)を射殺した白人警官が起訴されなかったため、警察と検察の癒着に憤った群集による暴動が起こった記憶も新しい中、米世論が今夏の人種騒動を確実視することは、ある意味当然だ。昨年11月22日に、クリーブランド市の公園で模造銃を持っていたため警官に射殺されたタミル・ライス君(享年12)事件で進行中の裁判の結果も、暴動の火種である。

ロサンゼルス市警の白人警官による1991年のロドニー・キング氏集団暴行事件で、翌年に警官が不起訴になった際は、大規模な暴動が同市で起こった。これらは氷山の一角である。一方、黒人の「犯罪者」を有罪に持ち込むのは、凶悪犯罪でなくても強制懲役を規定する法律や、軽犯罪でも3回犯せば無期懲役にできる悪名高い「三振法」など、黒人を狙い撃ちにする仕組みで、いとも簡単だ。

奴隷制の時代から、怒りのマグマはたまり続けている。ボルティモアを例にとると、白人の判事が自由黒人を捕まえて、再び奴隷として売り払って利益を上げていたことが記憶されている。ボルティモア警察が、生殺与奪権を濫用して多くの黒人を殺し、傷つけ、恐怖でおびえさせてきた歴史は、語り継がれている。黒人が権力の象徴である警官を見て逃げる理由の背景には、そうした歴史にある。

伝説の元祖ヒップホップ・ミュージシャンであるグランドマスター・フラッシュが1982年にリリースした『ザ・メッセージ』で綴られるゲットー・スラムの世界は、ジャングルのような崖っぷちであり、絶望的だ。その絶望が今年の夏、爆発する。

(終わり。本記事は【米・ボルティモア暴動を読み解く 2】~現代版奴隷制の「監獄プランテーション」~ の続き。全三回。本記事には、参照した英文の元記事やミュージックビデオへのリンクが貼られている。お読みになりたい方は、Japan In-Depthのウェブサイトhttp://japan-indepth.jpをご覧いただきたい。)

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