[俵かおり]【“麻薬”栽培が作物耕作地と水を奪う】~エチオピア、貧困の裏にある現実~
俵かおり(在エチオピアジャーナリスト)
エチオピアで深く根付いている文化に、チャットと呼ばれる“麻薬”の葉を噛む習慣がある。(スペルは色々あるが、Khatが一般。エチオピアでは“チャット”と発音されている。)このチャット文化は、暑く、乾燥したソマリアに隣接するソマリ州では特に深く根付いており、午後になるとほとんどの男性がチャットを始める。グループになって横になりながら、枝についている葉をむしり取って口に入れ、噛み続ける。噛むことで高揚感が出るため、午後は仕事にならない。首都アディス・アババではこの文化に眉をひそめる人も多いが、チャットを噛みながら歩いている男性を見かけるし、週末の午後になると友人同士集ってチャットを噛みながらゆっくりと時間を過ごす人も多い。チャットは、エチオピア、ソマリア、ケニアなどの東アフリカや、サウジアラビア、イエメンでは需要が高く合法で、これらの地域では男性が噛むことは習慣であり文化である。しかし、イスラム世界のほとんどの国では麻薬として非合法となっているほか、先進国でも多くの国でも非合法とされている。実際、米国政府はこのチャットをどう規制していけばいいか、内部で議論を続けている、という。
私はソマリ州の首都ジジガの町を訪れた時、町中あらゆる場所で売られ、あまりに多くの人が噛んでいるのを見て、どんな味がするのかという好奇心から、試してみたことがある。同行していたエチオピア人男性は、「葉っぱを枝からむしって口に入れて噛む、そうすると、体が熱くなって、エネルギーが出て、覚醒する。そして病み付きになってやめられなくなる」と言う。値段も一束100ブル(約500円)とかなり高額だ。
私にとっては、青臭く強い“あく”の味しかせず、ものの30秒で口から出してしまった。けれども、噛み続けることで高揚感など麻薬に特徴的な効果が出るのだという。エチオピアでは学生も試験の前に噛んだりする。
チャットの栽培はかなり簡単で、収穫も多くできる。エチオピアで有名なコーヒー豆の価格が下落するなか、コーヒー畑やその他、穀物の畑をどんどんチャット畑に転換している。この結果、今では、チャットはコーヒーに次ぐ第2の輸出品に成長、巨大なキャッシュ・クロップ(注:収益源となる作物)となった。私も地方に行くたびに、チャット畑が拡大しているのを目にしている。
ジジガは私が最初に訪れた3年前には乾燥した土地で、小さな空港があるだけで、何もなかった。しかし今では新しい空港ができ、道路も大きく立派なものに次々と変わっている。ジジガはチャットの一大産地で、この小さな町から何と空輸でアラブ諸国やヨーロッパにまで輸出されている。この町にはこのチャット生産で億万長者になった人もいると言われている。
エチオピアは世界でも最貧国の1つで、この国には栄養不足で食糧支援を受けている人が何百万人といる。その国で、食糧を生産する土地が削られ、麻薬であるチャットの畑が増える現実。また、チャット栽培には膨大な水が必要なのだが、ただでさえも貴重な水が、食糧の栽培ではなく、チャット栽培に使われている現実。これも貧困の現実である。
トップ画像/チャットが売られるマーケットで、チャットの枝を運ぶ女性。(Photo/Kaori Tawara)
画像上/チャット畑。チャット畑はどんどん広がっている。(Photo/Kaori Tawara)[/extdelivery]