[俵かおり]【「美白」ブーム、エチオピアでも】~アフリカの経済発展とともに~
俵かおり(在エチオピアジャーナリスト)
女性が美しさを追求するのはこの地球上どこでも同じで、ここエチオピアも例外ではない。その中でも興味深いのが、エチオピア人女性の白い肌に関する憧れだ。美白熱は北東アジア圏(日本、韓国、中国)からタイやインドなどの南アジアにまで広がっていることは既に知られているが、ここアフリカでそのような欲求が生まれつつあるようだ。こちらに来てからエチオピア人女性に「きれいな肌をしている」と何度か言われたが、そのたびに、ここではこのように白い肌の人が圧倒的に少ないから、珍しがってそう言うのだろう、というぐらいに思っていた。しかし、実はそれを超えたものがあると知ることになった出来事があった。
ここアディス・アババでは、シェラトンやヒルトンなど限られた高級ホテルに屋外プールがある。乾季(9月末から5月末ごろまで)の間は、日中の気温が25度ほどまで上がり、プール日和の気候が続く。高地2400メートルにあるアディスでは水場(ウォーター・フロント)が極端に少なく、ホテルのプールが唯一、水を楽しむことのできる場所で、多くの家族(で経済的余裕がある階層)はこぞってプールに行く。
このプール、早朝からオープンしており、女性を含めたエチオピア人の多くが早くやってきてプールを楽しむのだが、午前10時ごろになると姿を消す。これがどうしてなのかと思って友人のエチオピア人女性に聞くと、「女性たちは日焼けをしたくないから」だ、と言うのだ。
ちなみにエチオピア人の肌の色は「コーヒー色」と呼ばれ、他のアフリカ人とは異なる色をしている。言ってみれば、こげ茶色である。そして、それを誇りとしているのだが、その理由が、「より白いから」、ということであったとは。
また、9月末に雨季が明け、乾季になると、街中で、日傘をさしている女性の姿をとても多く見かける。傘は宗教的な行事でもよく使われるということもあり、また、雨季は3カ月以上続くため、非常に身近な存在なのだが、乾季になって、日がかんかん照っている中を日傘として使っている。(もちろん、暑さ対策ということもある)。NYやローマにいたころは、日中日が差す中を私が日傘をさして歩くと、奇妙な目で見られたが、ところ変われば、である。
もちろん、まだアジアのように「美白」という言葉が広く一般的に女性の間で話題になるということも、露骨に「白い肌がいい」ということを言う人は少ない、白い肌を求めて対策を打つ、ということができるというのは、それだけの経済的余裕がある、ということであり、エチオピアでも地方の貧しい地域に行けば、生きるか死ぬかの生活をしている農民だらけで、「美白」などにかまけている状況では全くない。
中産階級が増えれば、それだけコスメティックにお金をかけられる人口も増える。アジア人は美しい肌を持つと思われており、資生堂からカネボウまで、美白商品を多く出している。ここは日本企業の機会も多くあるのではと思った。タイもインドでも、以前はそんなでもなかったのだが、中産階級以上の階層の人口が増えると、それにともなって、美白熱が広がっている。それと同じ現象(の兆候)がここでも起きている。
面白いのは、ヨーロッパ人やアメリカ人の白人は小麦色の肌が今だに大好きで、日焼け止めクリームも塗らずに過ごす人が多い。日焼けイコール健康、プラス、ヴァカンスの象徴なのだ。
人はきっと、自分にないものを求める生き物なのかもしれない。いずれにしても、アフリカの美白ブームは拡大の一途をたどることは確実だろう。
トップ画像/アディス・アババの町を歩く女性。エチオピア人の肌の色はコーヒー色と呼ばれ、他のアフリカ人よりも薄い色だ。(Photo:Kaori Tawara)