[清谷信一] 【国連加盟がナンセンスなわけ】~安全保障論議の前に 2~
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
憲法解釈云々は言葉遊びにすぎない。我が国では1票の格差が、数倍も異なっても、最高裁は「違憲状態」だが違憲ではない。故に行われた選挙は有効だという奇妙な解釈を「発明」した。恐らくは「違憲」とすると、政治的な混乱を有むから、事態を忖度しての「発明」だろう。そもそも論で言えば、現行憲法を素直に読めば軍隊とほぼ同じ機能を持つ自衛隊の保有自体が違憲であり、いかなる国境紛争にも武力を使用することは禁じられている。現憲法は占領軍が作ったものであり、米国は我が国が二度と逆らわないように武装解除のまま置き、もし日本が危機に陥れば「保護国」たるアメリカが日本を守ればいい。つまりフィリピンと同じような状態に置けば宜しいと考えていたからだろう。
独立国から永遠に自衛力を奪うというのは国際法的にみても、外交的にみても極めて異常であり、同じ敗戦国だったナチス・ドイツにはこのような無法は強要されていない。根底には人種差別的な思想があったのだろうと言われても仕方あるまい。
ところが朝鮮戦争が勃発するに至って米国は手のひらを返したわけだ。本来であれば占領下に押し付けられた、国家主権を制限する憲法は国家の主権を侵害しており、「憲法違反」である。つまりは自己矛盾である。
更に申せば、現行憲法下では事実上の集団安全保障組織である国際連合に加盟ができないはずだ。日本国憲法は紛争の解決に武力を用いることを禁じているが、国連憲章は禁じていない。国連憲章第42条には、
「安全保障理事会は、第41条(注:非軍事的措置)に定める措置では不十分であろうと認め、又は不十分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍又は陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる」
とある。更に、以下のような条文もある。
第45条
「国際連合が緊急の軍事措置をとることができるようにするために、加盟国は、合同の国際的強制行動のため国内空軍割当部隊を直ちに利用に供することができるように保持しなければならない。これらの割当部隊の数量及び出動準備程度並びにその合同行動の計画は、第43条(注:特別協定)に掲げる一又は二以上の特別協定の定める範囲内で、軍事参謀委員会の援助を得て安全保障理事会が決定する」
第46条
「兵力の使用計画は、軍事参謀委員会の援助を得て安全保障理事会が作成する」
第47条
「1 国際の平和及び安全の維持のための安全保障理事会の軍事的要求、理事会の自由に任された兵力の使用及び指揮、軍備規制並びに可能な軍備縮小に関するすべての問題について理事会に助言及び援助を与えるために、軍事参謀委員会を設ける。
2 軍事参謀委員会は、安全保障理事会の常任理事国の参謀総長又はその代表者で構成する。この委員会に常任委員として代表されていない国際連合加盟国は、委員会の責任の有効な遂行のため委員会の事業へのその国の参加が必要であるときは、委員会によってこれと提携するように勧誘されなければならない。
3 軍事参謀委員会は、安全保障理事会の下で、理事会の自由に任された兵力の戦略的指導について責任を負う。この兵力の指揮に関する問題は、後に解決する。
4 軍事参謀委員会は、安全保障理事会の許可を得て、且つ、適当な地域的機関と協議した後に、地域的小委員会を設けることができる」
そして、国連憲章第4条一項には、
「国際連合における加盟国の地位は、この憲章に掲げる義務を受諾し、且つ、この機構によってこの義務を履行する能力及び意志があると認められる他のすべての平和愛好国に開放されている」とある。
対して日本国憲法は「国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とある。両者は相容れない。素直に考えれば我が国が国連なる武力の行使を是とする集団安全保障組織に加盟しているのは極めて面妖である。
国連憲章を素直に読めば、国連は戦争や軍事力を否定、あるいは放棄していないことは明白である。そもそも国連は第二次大戦の戦勝国グループであり、United Nationsは「国際連合」ではなく「連合国」とも訳すことができる組織である。そのコンセプトは「悪い奴は袋叩きにする」である。故に(一度も正式なものは編成されたことがないが)国連軍を編成するためのシステムがある。国連が集団安全保障組織であることもこれまた明白だ。
常識的に考えれば国家が国連に加盟するということは、その趣旨に賛同し、自国もその武力行使や軍事活動に参加するということだ。これまでの現在我が国の憲法解釈では集団安全保障の権利は有しているが、使ってはいけないことになっている。ならば国連に加盟するのはナンセンスだ。
このように、憲法を素直に読めば、軍事力による自衛は禁じられている。また前編でご案内のように自衛隊の現状は軍隊とは大きく異なっており、これをあたかも軍隊と同じであるかの前提で議論することはナンセンスである。安全保障関連法案の問題は見えているところではなく、もっと根の深いところにある。
*文中写真:米陸軍。
(この記事は、【自衛隊を縛る法律の改正が先だ】~安全保障論議の前に 1~ の続きです。本シリーズ全2回)