[植木安弘]【シリア難民、400万人突破】~さらに紛争の混迷、深まる~
植木安弘 (上智大学総合グローバル学部教授)
「植木安弘のグローバルイシュー考察」
長引くシリア戦争でシリア難民が7月初めに遂に400万人を超えたと国連が発表した。今年に入ってからは相次ぐ激戦で、シリア国内の避難民が新たに100万人を超え、その中には既に二度、三度避難している人達も多くいる。シリア国内に残る避難民は2014年末で760万人に達したとされており、今日難民、国内避難民合わせて1220万人が人道支援を必要としている。
さらに、シリア紛争での死者が、紛争が始まって以来22万人に達した、と新しく国連人道問題調整官に任命されたスティーブン・オーブライアン事務次長は7月28日安全保障理事会(安保理)に報告し、一刻もはやくこの暴力の悲劇に終止符を打つよう促した。
シリア内戦は三つどもえの戦いが続いており、オーブライアンによると、シリア政府軍はここ数週間ダマスカス郊外のザバダニを攻撃しており、これに対抗し、反政府勢力はイドリブ市の近くの政府軍が支配している村々を攻撃している。シリア南部のダラア市でも戦闘が起きている。これらの戦闘でそれぞれ15万人、4万人の市民が脅威にさらされ、ハサケハ市の南近郊での「イスラム国」と政府軍との戦いでは10万人、ラッカ県での「イスラム国」とシリア反政府勢力との戦いでは7万人以上の避難民が出た。
隣国ヨルダンではシリア難民は既に100万人を超えているが、国連難民高等弁務官事務所 (UNHCR) によると、シリアで一番大きな難民キャンプはザアアタリというところで、約81,000人が収容されているが、そのうち半分以上が子供だという。子供の3分の1以上は教育を受けられず、19歳から24歳の若者の1万人近くが職がなく、職業訓練を必要としている。
最大のシリア難民を抱えているのはトルコだ。既にその数は150万人を超えている。トルコは7月中旬シリアとの国境地帯の町スルッチで起きた「イスラム国」の自爆テロで32人の死者を出し、遂にシリアにおける「イスラム国」への爆撃を開始した。さらに、米国に対してもトルコの基地からの対「イスラム国」空爆を許すことになり、これはトルコにとっては大きなステップとされている。
しかし、トルコの場合は、最大の敵は「イスラム国」よりトルコからの独立運動をしてきたクルド労働者党 (PKK) であり、シリア内におけるクルド勢力に対しても空爆をしている。クルド勢力もシリアのクルド勢力やイラク北部のクルド勢力はPKKとは一線を画しているが、「イスラム国」の勢力が衰えていない中、トルコのシリア内クルド勢力への攻撃は対「イスラム国」戦線での足並みの乱れとも捉えられている。
シリア紛争への政治的解決への足掛かりは見えておらず、むしろ混迷の度を深めるばかりである。そのような中で牧畜も30パーセントから50パーセント減少し、パンの値段も90パーセント近く上がっている、と国連食糧農業機関 (FAO) や世界食糧計画 (WFP) が伝えている。紛争の最大の犠牲者は一般市民であることに変わりはない。