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.経済,ビジネス  投稿日:2015/9/7

[澤昭裕]【原発を再稼働せねばならないわけ】~問題は電気料金の「逆進性」~


澤昭裕(国際環境経済研究所所長)

執筆記事TwitterWebsite

8月11日、九州電力川内原子力発電所が再稼働した。世論調査を見ると原発再稼働に反対している人も多くいる。そうした中で、原発再稼働を進める意味はどこにあるのだろうか。

第一に、電気の安定供給だ。現代の生活に電気はなくてはならない必需品。また、水や食料、灯油など、他の必需品を生産・供給するためにも電気が必要だ。電気はインフラ中のインフラであるため、ひとたびその供給が途絶(停電)すれば、我々の日常生活は大混乱する。

一見、この夏も電気には余裕があるように思える。しかし、日本は自前の資源が乏しいという構造的問題がある。そこで、これまで、どれか一つの電源が何かの理由で使えなくなっても、他の電源の助けを借りてなんとかその穴を埋めることができるよう、意図的に色々な電源をバランスよく開発してきた。これが電源の「多様化」だ。

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福島第一原子力発電所の事故以降、原発がすべて停止したという状況においても停電にならなかった理由は、これまで別の種類の電源をある程度余分に用意してきてあったからだ。日本は、国内に豊富な資源を持つアメリカや、ドイツのように、いざとなれば国内の石炭を使ったり、隣の国から電気そのものを輸入できたりするような国とは事情がまったく違うのである。

現在、原発の穴の大半を埋めているのは、天然ガス、石油、石炭などを燃やす火力発電だ。ところが、こうした火力発電所の中にはすでに老朽化が進んでいるものも多く、酷使に耐えられず、ここ数年で約2倍も故障が起こっている。また、火力発電の燃料のうち、例えば天然ガスや石油は、政情不安定な中東地域からの輸入に相当依存している。

電源の多様化は万能薬ではない。その効果は急場しのぎでしかなく、電気の供給を安定的なものにするためには、元のバランスに早く戻す必要がある。今は、例えて言えば、高速道路をシートベルトもなしに猛スピードで走っている状態だ。今日事故がなかったからといって、明日もシートベルトなしで運転しても大丈夫ということにはならない。原発が再稼動し電気の供給に余裕ができれば、酷使された火力発電を休ませることができ、天然ガスや石油の輸入に問題が起こるような事件が起きても、落ち着いて対処できるようになる。

第二に、原発の再稼働によって、二酸化炭素の排出を抑えることができる。地球温暖化による気候変動の悪影響は、最近世界中で頻繁に現れている。今年の年末にはパリで大きな国際会議(COP21)が開かれ、温暖化対策のための新しい国際約束が交渉される。いまや、世界の最大の関心事は温暖化問題の解決にあるといってもいい。

二酸化炭素の排出を増やしている大きな原因のひとつが、火力発電による電気の増加だ。そのため、火力発電に代えて、二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーや原子力を開発していくことが、各国で考えられている。特にアメリカやイギリスでは、温暖化防止に原子力が果たす役割への期待は大きい。日本では、100万kwの原発を10基一年間稼働させれば、日本全体の排出量の約4%も削減することができる。日本も、温暖化対策で各国と比べて遜色がない程度の国際貢献するためには、二酸化炭素を排出しない電源をできるだけ多く維持していくことが必要となっている。

第三の意味は、我々の生活や経済面への悪影響を取り除くことだ。原発停止中には天然ガスや石油などの燃料の輸入が増加し、年間3兆円から4兆円のお金が輸入代金として国外に流出した。その結果、電気料金は、震災前に比べて産業用で3割、家庭用では2割上がった。原発のコストは高いのではないかという意見を聞くことがあるが、今止まっている原発を動かすのであれば、動かすための燃料費は火力発電に比べて10分の1、再生可能エネルギーに比べれば数十分の1しかかからない。もし今ある原発が、他の電源と比べて本当はコストが高いのであれば、原発が止まっている現在は、電気料金は逆に下がっているはずだろう。

より大きな問題は、電気料金は生活必需品にだけかかる消費税のようなものだということだ。普段からこまめに節電に取り組んでいる家庭であればあるほど、もう節電の余地はほとんどない。電気料金が上がってしまえば、その分支払いが増えざるを得ないわけだ。こうした電気料金の逆進性は、政治的にも大きな問題となる。

原発再稼働に関する最も大きな課題は、安全性の確保だ。いわゆる安全神話、つまり重大な事故は起こり得ないということは誤りだということは今や明白だ。ところが、福島第一原発事故の前後で安全規制の考え方がどのように変化したのか、また誰が責任を持って安全を確保するのかといった点について、政府の原子力規制委員会や電力会社の国民に対する説明がまだ十分だとは言えない。

安全規制に関する世界標準の考え方は、ゼロリスクはないという前提に立ちながら、事故が生じる確率とその事故が起こった際の汚染などの影響を、総体として最小化するというものである。日本も、この考え方に立って新たな規制基準が策定された。そして、電力会社がその基準をクリアしたうえで、さらに自主的に安全対策を常に上積みしていくことで安全を守るということが要求されている。

つまり、審査を通ってもわずかながらも残るリスクについては、発電所の現場におけるハード・ソフト両面での安全対策の改善に向けて、電力会社が継続的な取組みを進めることで対応していく責任を負っているのだ。したがって、電力会社は、規制委員会の審査に合格するだけで満足していてはならない。地元住民に対して、自社の安全対策への取組みについての真摯な姿勢を示し、安心と信頼を構築していくことが原発再稼働には必要不可欠なことだと言える。

*文集写真:再稼働した九州電力川内原子力発電所・出典/九州電力HP

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